ロミオとジュリエット

- Satsuki Renjyou -

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今は昔。アベルドルン大陸には東のモンタギュー、西のキャピュレットと呼ばれる二つの大国があった。
テバの大河を挟んで睨み合う両国の仲は修復されるどころか代を重ねる毎に悪化していく有り様。
そんな折り、モンタギュー国の王子ウォル・グリークと、キャピュレット国の姫グリンディエタ・ラーデンは出会い、一目で惹かれ合った。
これは、敵国同士の王子と姫として生まれてしまった運命の恋人達の物語である(笑)。
※ あくまでもフィクションです。実際の人物と一切相互関係はないので、ご注意下さい。


第一章 キャピュレット城のジュリエット

「グリンディエタ姫、グリンディエタ姫、どこにおるのだ」
キャピュレットの国王たるドラ王の声が響き渡る。
姫君のたしなみとされる礼儀作法やダンスの稽古時間になると消息不明となるじゃじゃ馬姫とその姫君に雷を落とす国王のやりとりは、キャピュレット城ではすっかりお馴染みとなってしまった。

キャピュレット国唯一の姫君であるグリンディエタ・ラーデンことリィは今年で十四歳を迎える。太陽のような黄金の髪、煌くような翡翠の瞳を持つ少女は黙って座っていれば文句無しで大陸一の美少女だった。
だが完璧ともいえる美貌を兼ね備た姫には残念なことに女らしさの欠片も持ち合わせは無かった。というより、なまじの男より余程男らしく育った。
かくしてドラ王は絶世の美少女を娘に持ちながら、嫁の貰い手に頭を悩ます羽目になる。

姫付きの侍女たるシェラは王命により姫君がいそうな場所を探しまわった。屋根の上やバルコニーの横の壁、大木の枝などおよそ普通の姫君がいる筈のない場所を巡ったが、何事にも型破りな主なら可能性は十分ある。
案の定、やっと探し当てた姫君は三階のバルコニーから今まさに抜け出そうとしている有り様だった。
「リィ、こんなところにいたんですか」
ため息をついていうシェラに、見つけられたリィは悪びれた様子もなく明るく答えた。
「イヴンたちと待ち合わせてるんだ」
既にお忍びの支度とばかりに金の髪は白い布で覆い粗末な男の服に身を包み、少年のようないでたちである。
「陛下がお呼びなんですが」
「どうせ説教か見合いの話だろう。そんなの放っておけ」
そしてあろうことかお忍びについていかないかという提案に、シェラは頭痛を堪えねばならなかった。
「そんなこと出来る筈ありません」
「じゃあ、俺の代わりに用件を聞いておいてくれ」
シェラの返答も待たず、リィは三階の高さから一気に飛び降りる。
下の方からキャーという女性の悲鳴が響き渡った。恐らくは運悪く下の階に居合わせた侍女の誰かであろう。
下を覗いたシェラに手を振るとさっさと行ってしまった。
「あの人にも困ったものだ」
呟きつつも、シェラの顔には笑みがあった。


「申し訳ありません。逃げられました」
ドラ王に報告に赴いたシェラは、そこに黒髪の麗人がいるのに気がついた。
「やあ、シェラ。久しぶりだね」
宰相の息子たるルーファス・ラヴィーは、グリンディエタ姫との付き合いが新参の侍女たるシェラよりも余程長い。
「お久しぶりです。今日はどうなさったのですか」
普段ならば、直接グリンディエタ姫の部屋に訪ねてくる筈でドラ王の所にいるのは大変珍しい。
「うむ、そのことだ。実はな、兼ねてから打診しておったのだが、ラヴィー殿がグリンディエタ姫の夫となることを承知してくれたのだ」
ドラ王は、シェラがルウに向けて掛けた問いに代わって答えた。
「陛下。あくまでエディが了承した場合です」
やんわりとルーファスは窘めたが、ドラ王は長い間の重荷が取れたとばかりの晴れ晴れとした表情である。
「ラヴィー殿とは幼い頃からの付き合いだ。グリンディエタ姫もそなたを殊の外信頼しておる。断る筈のない縁組みだ」
うんうんと肯いて心は既に娘の結婚式に飛んでいるのか、ドラ王の声は明るい。
シェラはこっそりルウに耳打ちした。
「本当にリィと結婚されるおつもりなんですか」
短い付き合いだが、リィとルウの間柄が恋愛感情を全く含んでいないことにはシェラも気づいていた。
「まさか。エディに本当の相手が決まるまでの防波堤だよ。このまま国王が結婚、結婚と喚き立てたら、エディのことだから鬱陶しがって家を出る」
「そんな。この国の跡継ぎはあの方しかいらっしゃらないんですよ」
シェラの反論にルウは苦笑した。
「そんなことはあの子を繋ぎ止める鎖にはならない。まぁ取りあえず婚約としておいてあの子が本当の旦那さんを連れてくるのを待つとするよ」
「リィが相手を見つけるのを待っていたらルウも婚期を逃しますよ」
シェラの言葉に、ルウは不思議な微笑みを浮かべた。
「そんなこともないよ。カードではもうじき運命の恋人と出会うと出ている」




(c) 連城颯姫, 2002 禁転載
  Last Updated: November 19, 2002

原作:茅田砂胡『デルフィニア戦記』(中央公論新社/C★ノベルズ ファンタジア)
運営:デルフィニア戦記を語ろう