ロミオとジュリエット

- Satsuki Renjyou -

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第三章 運命の出会い

 そして武闘大会は始まった。ウォル、リィ、イヴンは順調に勝ち上がっていった。イヴンは黒ずくめの格好と覆面で顔を隠し、リィも少年の格好で何とか身分を悟られることもなく済んだ。
「なんだ負けたのか」
 決勝を前にして、見物していたシャーミアンの元に合流したリィは、既に来ていたイヴンの苦い表情から負けたことを読み取って遠慮の欠片も無かった。
「悪かったな。ちっくしょうめ」
 歯ぎしりして悔しがっているイヴンに、リィは意外そうな表情を浮かべた。
「決勝はお前とかと思ったけど、猪団長に負けたのか」
「あいつは今回、警備にまわってて不参加だよ」
 忌々しそうに言ったイヴンは、視線で負けた相手を指し示した。その先には黒衣の甲冑を纏った長身の騎士がいる。顔は見えないがその甲冑は見覚えのあるものだった。
「確か、前回の優勝者だったな」
「前々回もだよ。兜をとりゃしねぇから顔はわからねぇが、年は若い筈だ」
 モンタギューの武闘大会は多額の賞金ゆえに正規の騎士でないものも多数出場するため、優勝者であろうと名前も顔も不明となる場合も多い。
「相手にとって不足ないな」
 リィはバキッと腕を鳴らした。本気での戦いは久しぶりのことだった。

 互いに正体を隠した王子と姫の決勝戦が始まった。剣を合わせ、両者は激突する。ウォルの動きは重厚で重く、リィの動きは俊敏で素早い。リィの急所に遠慮なく打ち込むウォルだが、リィはすばやい動きでこれをすべて躱した。装備が軽いリィだがその危険さをものともしない。しばらく剣劇は続いたが全くの互角であった。リィは一転して懐に入り込み、剣ではなく組み手での勝負に持ち込む。ウォルもこれに応じて組み手に入ったが、組み手の最中に思わぬ場所に手が当たってしまった。
「女か」
 組み手の最中、ウォルは不可抗力で胸元に触れてしまったのだ。
「だから、どうだっていうんだ」
 戦闘中に男も女も無い。胸元に手の甲が当たった程度で動揺するリィではなかった。
「確かにな」
 一瞬は驚いたウォルだが、相手が手強いことには変わりない。手加減をすることなく、組み手を続行した。
 身の軽いリィと甲冑を着込んだウォルの組み手勝負は剣とは一転して、リィが攻撃、ウォルが防御となった。ウォルは重量のある甲冑を着込みながらもリィの素早い動きを完全に捉え防御していく。動きの鈍い甲冑でスキを見せるような愚は犯さなかった。組み手でも互角の二人は再び剣を取った。
 結局、二時間以上戦って陽が暮れかかっても二人の決着は付かず、異例のことながら引き分けとなった。
 表彰式を終えると、二人は賞金を半分に分けた。このまま別れてしまうのが惜しい気がして、ウォルはリィを人のいない森に誘った。
「こんなに強い相手は随分久しぶりだ」
 リィの言葉にウォルは苦笑する。
「それは俺の台詞だな。ここ何年か負けることはなかったが、いい勉強をさせてもらった」
 ウォルの言葉にリィは眼を丸くする。この男は自分が女だと分かっているはずだ。性別が判明してからも、一切の手加減はなかった。同じ戦士として戦い、引き分けたことはリィにもよく分かっている。戦士としても男としても大変珍しい反応だった。
「お前、変わった奴だな」
「お前こそ変な娘だ」
 ウォルの断言にリィは笑い出した。相棒や親友を除けば、初対面でこんな反応を返す相手は本当に珍しい。
「顔ぐらいみせてくれてもいいんじゃないのか」
 ふと興味が湧いて、リィが言うとウォルは肯いて兜を脱いだ。黒い髪と黒い瞳の青年と金の髪と翡翠の瞳の少女の眼が合った。
 印象的なのは暖かな闇色の瞳。剣の腕はずば抜けているはずなのに、穏やかな笑顔の青年でリィは好ましいものを感じた。
「代わりといっては何だが名前を伺いたいな。俺はウォル・グリーク」
 その名には聞き覚えがあった。モンタギューの王太子の筈だ。正体を隠すための甲冑は自国の騎士達に遠慮させない配慮らしい。豪胆なリィも眼を見張った。しかし、いくら敵国の王子だろうと名を名乗られたからにはこちらも言わねば礼儀に反する。リィが口を開こうとした瞬間、二人の間に矢が射掛けられた。とっさに二人は左右に飛びすさった。
「その女から離れて下さい。従兄上」
 矢を放ったのはノラ・バルロだった。背後には騎士団員達もいる。
「一体、何事だ。従弟殿」
「その女が誰か分かっていらっしゃるのですか。従兄上。キャピュレット国のじゃじゃ馬姫ですよ」
「グリンディエタ姫か」
 目の前の少女の名に思い当たり、ウォルも驚きの声を上げる。バルロは右手をあげ、リィを捕らえるよう背後の兵士達に指示を出した。
「待て、従弟殿」
 ウォルが制止の声を上げた時、別方向から馬のいななきが聞こえた。
「リィ、ずらかるぞ」
 騎乗したイヴンとシャーミアンがリィの黒馬を連れ、全速力で掛け抜けてくる所だった。イヴンを視線の中に捉えたバルロは咄嗟に弓矢を引き絞る。お互い、知らぬ顔ではなかった。国境を警備している者同士、しょっちゅう衝突している相手だ。だが、イヴンは馬上でも器用に矢を剣で叩き落とした。そのスキにリィも馬と平行して走りながらたずなを取ると絶妙のタイミングで愛馬に飛び乗った。
 バルロは急ぎ、追手を手配したが、ついに三人を捕まえることは出来なかった。




(c) 連城颯姫, 2002 禁転載
  Last Updated: December 19, 2002

原作:茅田砂胡『デルフィニア戦記』(中央公論新社/C★ノベルズ ファンタジア)
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