ロミオとジュリエット

- Satsuki Renjyou -

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第五章 秘密の結婚式

「ぜーっったいに、反対です」
 朝一番で、バルロの元を訪ねたウォルは、昨夜決まった結婚のことを従弟に報告した。その返答がコレだった。
「あんなじゃじゃ馬を敢えて選ばずとも、従兄上なら両手でぶら下がるほど相手がいらっしゃるでしょう」
「そうはいうが、つい先日振られたばかりだぞ」
 ウォルの突っ込みにバルロは聞こえないフリをした。従兄の性格は余りに掴み所がなさ過ぎて普通の女性が付いていけないことはバルロもよく承知してたが、それとこれとは話が別だ。これを承認してしまったら、尊敬する従兄の妻があんなのになってしまう。
「従兄上を慕っている女性の十人や二十人。すぐに調達できます」
 ウォルの微妙にズレた好みにより、最適な人物が見つからなかっただけなのだ。何を好き好んでとバルロは思わずにはいられなかった。
「俺は無骨者だからな。貴族のご婦人方が気の毒だ。リィならば丁度よいと思っている」
 ウォルは穏やかだがキッパリと言い返し、まったく引く様子はなかった。
「今日、結婚式を行おうと思うのだが立会人が必要なのだ。俺としてはその一人を是非従弟殿につとめて貰いたい」
 早すぎる、との反論はせず、バルロはなおも首を横に振った。
「お断りします。どうしてもというなら引きずってでも連れていっていただきましょう」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
 ふと第三者の少女の声が響き、ウォルは申し訳なさそうな顔をしつつも、素早くバルロの後ろに回り込んで羽交い締めにした。
「今日でなければ嫌だとせがまれたのでな。リィの唯一の望みをきかぬ訳にはいかぬのだ」
 頭を下げつつも、ウォルは遠慮なくバルロを拘束して、密かに忍び込んでいたリィが手早くバルロを縛り上げる。
「このまま運び出したら何事かと思うからな。やっぱりこれしかないだろう」
 リィがおもむろに出したのは当然、特大の麻袋だった。
「ベルミンスター公国の国境近くにラモナ教会というところがある。従弟殿の親友が神父をやっているのでかなり融通が利く。そこで式を挙げよう」
 夕方に待ち合わせの約束を交わし、二人は秘密の結婚式の準備のため、それぞれの仕事を果たすことにした。

「今日、結婚することになったから、これからちょっと付き合ってくれないか」
 キャピュレット城に戻ったリィは、ルウ・イヴン・シャーミアンを集め、開口一番にこう告げた。側には姫付きの侍女たるシェラも控えていたが、一同絶句したのも無理はない。
「お前なぁ。事と次第をキッチリ説明しやがれ」
 説明を大まかに端折ったリィに、イヴンは呆れた声を掛ける。今更リィの突飛な行動には驚かないが、協力するのは説明次第である。
「そもそも相手は誰なんだ。どういう経緯で結婚がまとまったってんだ」
 四人の責めるような視線に負けて、リィは結婚のくだりを説明した。だが、聞き分けのないバルロとは違い、イヴンの反応は楽しそうだった。
「ま、いいんじゃねぇか。隣の物好き王太子がお前を貰ってくれるっていうんだからな。ドラ王の頭髪の心配もこれでなくなるってもんだ」
「…本当にそうでしょうか」
 シャーミアンは懐疑的だった。敵国の王太子がその相手では更に減る可能性もありえると思う。
「そういうことじゃないでしょう」
 シェラが習慣となりつつある頭痛を堪えて反論した。
「今日、結婚式なんて早すぎるんじゃない?」
 おっとりとルウが言った言葉にシェラは大きく頷く。
「そうですよ。今日いきなりなんてどういうわけです」
 勢い込んで説教を始めようとしたシェラだが、ルウの心配は別の場所にあったようだった。
「結婚式が今日なんて、花嫁衣装が間に合わないよ」
 リィは満面の笑みを浮かべた。
「そりゃあ、無理だろうな。いっくらシェラの裁縫の腕が抜群でも、今日一日で花嫁衣装は作れないよなぁ」
 シェラの頭は真っ白になった。つい先ほどまでは、一目会ったその人と結婚なんて非常識すぎるとか、強行突破の結婚式なんて無謀なんじゃないかとか一般論を述べようとしていたが衣装という言葉に侍女としての極めて重要な役目を思い出す。そう、リィを飾り立てるのはシェラの仕事だ。
「それが目的で今日に早めたんですか」
 流石にシャーミアンも呆れている。
「理由の一つってだけだよ。前に俺の花嫁衣装はびっしりと純白のパールをドレスに縫い取るとか、ベールは五十メートルは引きずるものにしようとかろくでもない提案をしてくれたからな」
 そこまで豪華なドレスなど、そもそも秘密の結婚式には使えないとは思いつつ、シェラはリィに花嫁衣装を着せられないことを悔やまわずにはいられなかった。そもそも女性らしい服を着るのを極端に嫌がるリィを飾り立てること自体、至難の技なのだ。花嫁衣装というのは女性としては最大のおしゃれの理由であるだけにシェラだけでなく、ルウもシャーミアンも残念そうだった。
「今あるドレスの中で一番綺麗なものを身に付けられたら…」
「今からお忍びで出かけるのにドレスなんか着れる筈ないだろ」
 諦めきれずにシェラがした提案をリィは一蹴した。

 北に勢力を誇るベルミンスター公国は、モンタギュー、キャピュレットの両陣営に属さぬ中立国だった。二人は両国の国境にほど近い小さな教会で秘密の結婚式を挙げた。同席するのは立会人たるバルロ・イヴン、参列するのはルウ・シャーミアン・シェラと、一国の王子と姫君が挙げる式としては極めて質素なものだった。
 あまりに非常識な結婚式だが、バルロの親友であり、ラモナ教会の神父ナシアスは快く承諾した。そして、式は決行された。
「ウォル・グリーク、貴方はグリンディエタ・ラーデンを生涯の妻とすることを誓いますか」
「誓います」
「グリンディエタ・ラーデン、貴方はウォル・グリークを生涯の夫することを誓いますか」
「誓います」
 誓いを交わした二人は形式上のキスを交わし、二通の結婚証明書に署名をした。
「往生際が悪いぞ、バルロ」
 ただ一人憮然と式を見ていたバルロに神父のナシアスが声を掛けた。更に立会人たるバルロとイヴンの署名をすれば、式は完了するのだ。
「分かってる。ここまできてジタバタ足掻くか」
 もう一人の立会人たるイヴンの手前もあり、バルロにも意地がある。続いてイヴンも署名をする。
「これを付けてくれ。モンタギューの王家に伝わる指輪だ」
 国王と王妃の証明でもある指輪を持参してきたウォルは王妃用の指輪をリィに手渡した。獅子に交差する二本の剣が描かれた紋章の二つの黄金の指輪だった。
「継承問題のカタがついたら迎えに行く」
 結婚の報告を国の首脳陣に報告して落ち着いたら正式にドラ王の許可を貰いにいくというウォルの言葉にリィは笑みを浮かべた。
「ああ、分かった」
 こうしてウォルとリィは夫婦となった。




(c) 連城颯姫, 2002 禁転載
  Last Updated: December 31, 2002

原作:茅田砂胡『デルフィニア戦記』(中央公論新社/C★ノベルズ ファンタジア)
運営:デルフィニア戦記を語ろう