(6月某日)

 加藤さんには格闘技マスコミ各誌が注目していたこともあり、夢枕獏さんが音頭を取るとさっそく関係者で祝勝会を執り行うこととなった。場所は下北。なごやかに大量のビールが消費されていった。

 それにしても、格闘技関係にはなぜこれほど面白い話が多いのであろうか。酒が入るとおかしな話でもちきりとなった。面白すぎてここには書けない内容のものが大半なのが残念だ。それでも大丈夫そうな話題だけを記そう。

 その1。ボクシングのかつての名チャンプW氏にインタビューしたライター氏の談。いろいろと質問したのだが、どの話題にもW氏からはさほど芳しい答えは得られなかった。そこで思いあぐね、つい(聞く方も聞く方かと思うが)「好きな虫はなんですか」と質問した。驚いたことに、間髪を入れずにW氏、「コオロギ」と答えたという。これもパンチを避けるのと同じ反射のなせるわざかと一同納得。それにしてもどうしてボクシングの話題の最中に、好きな虫をコオロギと答えるのであろうか。

 その2。我が道場の天才・小川選手。今回も優勝してついに前人未踏の八連覇となった。日本人のプロが負け越したフランスでの対抗試合も、秒殺でケリをつけた。その小川選手が唯一苦戦したのが、後楽園ホールでの「WARS」戦。裸にグローブ、投げありの試合形式だったが、なぜか第一ラウンドで名前をコールされても大儀そうに片手を挙げただけだった。目もうつろ。さすが後楽園は天才をしても緊張するだけの舞台だったのかと当時私はリングサイドで感心したものだったが、実はあれ、試合前に掌底のパンチをくらい、脳が振れてKO寸前だったというのが真相だという。

 試合直前に小川選手、加藤さんを見つけて「先輩、気合い入れて下さい!!」と頼んだのだという。「そーか、思いっきり入れてほしいのだな」と合点した加藤さん、ベンチ150キロを挙げる両手で挟み込むようにして両頬を思いっきり打撃。ものの見事に掌底パンチは頬をとらえ、これで小川選手は記憶が飛んでしまったのだという。犯人は加藤さんだったのだ!!リングに上がるも足に来て、試合前からダウン寸前だったらしい。よくあれで引き分けたものだ。

 その3。これは僕が持ち出した話。マウント・ポジションはいつから我々の馴染みとなったのか。もちろん著名になったのはUFC以降だが、実は私、「ゆきゆきて神軍」でマウントのシーンを見たことがある。主人公の奥崎が戦地での上官を訪ねてつめよるくだり、菓子折をもちつつ馬乗りになって殴るのである。どうやら人は本能的にマウントになるらしい。

 しかし格闘技そのものとなると、もっとも古い記憶は、小山ゆうの「がんばれ元気」。ここで日本人の天才ボクサーが元気にKO負けし、南米に修行に出て地獄のような試合をこなしたというシーンで、あきらかにバーリトゥードが描かれているのである。それにしても、あの漫画が描かれたのはせいぜい80年代初頭だはなかったか。バーリトゥードを獏さんが紹介したのが90年代初頭だった。小山氏はどうしてそんな情報を得ていたのだろうか。謎である。