(8月某日)

 吉田秀彦vsホイス・グレイシーの対戦があるということで、「GONG格闘技」誌から座談会に招かれた。参加者は不肖私と吉田側から世田谷学園出身の小斎武志選手。ホイス側からは日本で唯一の直系の弟子である水戸慎一さん。司会が私の本を編集してくれた藁谷浩一氏であった。

 なかなか面白い座談会だった。もちろん小斎選手は吉田の勝ち、水戸さんはホイスの勝ちを予測。理由としては、小斎選手によると、世田谷学園というかその寄宿舎である講道学舎では、普段の稽古からプロ武道的な感覚が浸透していることがあるという。締め落とすなど当たり前、弱ければ半殺しにされても文句も言えない。マウントからパンチで耳をつぶすなど日常茶飯事だという。したがってもっとも異種格闘技戦向きだというのだ。それに道衣を釣り手で煽る技術は柔術にはないから、それでホイスを立たせることが可能だろうという。

 水戸さんはこれに対し、ホイスのクロスガードは絶対に切れない、と主張。それはそうだと思う。けれどもそうなると投げでの一本は認めない以上、決め技は締め・関節になり、吉田には決め手がないことになる。一方、ホイスはクロスガードからの三角や逆十字が予想される。理屈だけからいえばホイス勝利の方が筋道が見える。

 私はというと、吉田の6−4勝ちを予想させていただいた。試合そのものを予想するなら、ホイスはまずタックルにはいかないから組み合えばすぐとびついてクロスガードに来るだろう。それに成功すればラウンドの間はずっとホイスのみ攻勢になる。敢えてかつごうとするなら三角がくるから吉田は攻め切れまい。とすると下手すれば膠着してドローの確率が高まる。したがって吉田の勝ちを予想するというのは良い試合になるよう期待含みということだ。組んですぐにあの強烈な釣り手で引っこ抜くようにして大外にいき、反則すれすれのパンチをいれて袈裟固めに持ち込んだり、足払いで横転させて体重をかけて袈裟固めへ、また寝ているのを煽って立ち上がらせ、投げることができるかどうか。今回は、柔術よりも日本柔道がいったいどれほど奥深さをもっているのかが神秘的だと感じる。その点への期待票だ。

 もし吉田が負ければ、これは大変なことだ。柔道は、学校・企業で採用されているという意味で、もっとも経済的に恵まれている格闘技である。けれども最近では、高校の柔道部が次々につぶれ、各県で県大会参加者が半減している。全柔連はそうしたことにはかなり無頓着で、要は強い選手など大会をしさえすれば「湧いて出てくる」といった感覚であるらしい。強い選手をただ強化するというのがこれまでの政策だった。すそ野を広げるために一般愛好家を大事にするといった考えはないようだ。それで町道場もどんどん減ってきた。道場を開いた吉田はそうした傾向を懸念しているのである。もし吉田が負ければ中学・高校レベルで選手の気持ちは格闘技指向に振れてゆくだろう。リベンジ戦として現役で寝技の強い中村兼三vsホイラーといった夢のカードが組まれることすらありうる。平直行さんのストライプルでも稽古している小斎選手によると、日本の柔術選手に極められたことは一度もないが、柔道の指導で地方に行くと無名選手に寝技でやられることが十回に一度はあるという。それだけ柔道は層が厚いのに、寝技が脚光を浴びることは滅多にないのだ。

 対談後、小斎選手と焼き肉屋だ一杯やった。この方、100キロクラスの全柔連指定選手である。井上康生にも三度対戦して一度も投げられたことがないという。万年二位なのでなかなか代表にはなれません、と謙遜するが、肩出しランニングなのでものすごい筋肉の存在感。ウェイトは三土手氏のところで柔道向きのをやっているそうだ。とにかくこの人も格闘技指向である。失礼ながら試合は未見だが、なんと得意は裏投げで、いきなり後ろ帯をとって投げるのだという。「裏投げでパワーに頼らないのは自分だけです」と厚い胸を張る。そんな組み手は全柔連や講道館では嫌われるはずだ。だがそれだと、パンチをかいくぐりさえすれば密着してすぐに投げることができる。北斗旗では後方への頭から落とす投げは反則になっているが、裏投げがOKだとすると大変な脅威である。この選手がグラントロフィーに出てきたら一体どんなことになるのか。「稽古では殺しても殺されても文句ないんで」とサラッと言うだけに恐ろしい。妙に意気投合した一夜であった。 

 

(8月某日)

  先月の大道塾主催のWARS大会については、塾関係でいくつも紹介が出たので、ここでは怠慢を決め込んで何も述べずにきた。やっと考えがまとまったので、少々思うところを書いてみたい。ただし言うまでもないことだが以下はあくまで大道塾の空道の一愛好家としての私の意見というか好みの考えである。

 マスコミでも言われたことだが、大会の進行は確かに今何歩というところだった。リハーサルを重ねればすんだミスも散見された。リハーサルをやるということ自体がプロの考え方なのかもしれないが、次回からは是非改善していただきたい(というか、私も広報として責任あるところだ)。

 大会のルール面では、北斗旗ルールの成熟もあり、なかなか整備されていたと思う。相手のグラントロフィー勢も十分に実力を出し切れたのではないか。とくに山崎選手は柔道ナショナルチームレベルの強豪、パトリック・フォートリーに組み技で互角、寝技で優勢、打撃でダウンを奪ったのだから大道塾での経験が存分に発揮できたところだ。

 小川選手は絞め技が不発だったが、私の感想としては、彼の締めはとくにスーパーセーフ面を着けたときに生きるタイプのもので、素面では相手がそれなりの腕前のときにはかかりにくいのではないか。というのも面を付けると首との間に段差ができるからで、それが隙間になるので私の好きな肩固めはかかりにくい。これは腕で行う三角締めのようなものだが、いわゆる三角締めが決め技になりにくいのも同様の理由ではないか。いくら締めても隙間があるのだ。ところが道衣をひっぱってくる小川式の締めだと、ちょうど溝の部分に道衣が入り込むことになり絞まりやすい。空手衣の方が薄いので入りやすいということもある。けれども素面だと柔道そのものの寝技ということになるので、決まりにくいのではないか。それでも前回のグラントロフィーではタックルにきたところをギロチンの格好で締めることができた。今回はそれを相手が知っていたということだろう。それにしても、ヒールで膝を完全に壊されて打撃も封じられたのに、それでもヒールで逆転して涼しい顔をしている小川選手の奥の深さには脱帽するばかりだ。

 藤松選手は、あまり稽古時間もとれていないと思うが、その中で着実に自分の課題をクリアーしているところが凄い。今回は打撃が課題で打撃選手と戦ったのに、右のロングフック一発でダウンを奪ったのだから大したもの。逆十字は相手が参ったしたと間違えてほどいてしまうチョンボを犯し、右親指を負傷したが、問題なくしのいだ。

 飯村選手は名人同士の寄らば切れる銘刀の振り回しあいといったところか。相手が突然後退しつつ試合場から後ろ向きに転がり落ちたのにはびっくりしたが、あれは立ちながら失神していたのだからダウンだろう。判定勝ちかと思う。ただしあの相手、相当に手強かったのは事実。テンカオ・ヒジにも屈さなかった。

 全体的に言って、「道衣あり打撃系総合」の試合として水準が高かったと思う。「道衣あり総合」は本来、柔術や柔道とも対抗戦ができる格闘技界の一大ジャンルであるはずだ。ところが大道塾はこれまで、主に裸体のキックや修闘と交流を行ってきた。これだと、道衣を着用していることの意義があまりない。今回はその点で注目されたが、「打撃系総合」の試合という色彩が強かった。私としては、最近関心のあるのが「投げ」である。つかみからのパンチ、頭突き、そこからの投げというのがもっともスリリングなジャンルで、打撃そのものならボクシングやキックを行えばよいわけだから、それとは別に大道塾の魅力がある。面をはずすとプロの他ジャンルとも交流戦ができるのだから、WARSは是非そうした一大潮流に育ってもらいたいものだと思う。

 ただ、それにはマスコミへのアピールがやはり弱いと思う。「総合」や「顔面攻撃」を行う空手、というのが大道塾の一般的なイメージだろう。けれどもそれならば修闘やキックに行く方がストレート。社会体育を強調していることもあるが、その割りには現実に学校体育に組み込まれているわけでもなく、現状では反社会的な関係のない団体というのにすぎない。これもあまり世間にはアピールできてはいないのではないか。やはり「道衣あり打撃系総合」を強調し、それの進むべき広大な道を指し締めすべきではないかと感じる。その点では、投げや道衣を用いた寝技があまりなかったのは残念だった。