| (12月某日)
第二のK。先日阿佐ヶ谷の駅前飲み屋通り「スターロード」で飲んでいたときのこと。たまたま同席していた人達と話が盛り上がって、「行ったことない店に入ってみよう」ということになり。
スターロードというのは北口左折、 線路に沿って荻窪方面に行く道と平行している次の道なのだが、そのどん詰まりあたりは知る人ぞ知るディープな一帯である。半径二〜三○メートルほどの地域に、「世界のビールとカルバドス専門店」「昭和歌謡DJで知られるゲイバー」「スコッチ200種類」「東京一と言われる焼酎専門店」「著名台湾料理屋」「著名ワインバー」「日本酒専門居酒屋」などがひしめいているのである。
その一番奥に、漫画「じゃりん子チエ」の猫の名前を冠したスナックの看板が出ている。イラスト付きなのですぐ分かるだろう。なんだか目立っていたので、皆気にかかっていたのだ。で、ビルの二階にある店のドアを押す。
内部はいかにもといったキンキラのカラオケ・スナック。豪華ふかふかの椅子が「く」の字のカウンターを取り巻く。にこにこ笑顔の女性がカウンターの中に一人。先客は長渕剛を歌っている。なんだか入り込み方が尋常ではない。ネクタイをゆるめ、白シャツは腕まくり。声もなりきりである。
我々の連れにもカラオケ好きの男がいるので、歌う。と、そこで気づいたのだが。カウンターの中がやたら広いのである。その中をうろうろとつき出しなどもって女性が歩き回る。ニックネームが「K」なので、そのまま屋号にしたのだという。
配膳がひとしきり終わると、女性はゆらゆらと体をくねらせ始める。次いで、手も上げたり下げたり。要は、踊り始めたのだ。次第に熱が入り、踊る、踊る。当てぶりである。演歌では歌詞に合わせて胸を押さえたり、手を突き出したり。ポップスでも、何でも踊る。連れの女性が言うには、「あれ、パラパラ」じゃない?そう、パラパラで演歌も長渕も踊るのである。これが客への心を込めたサービスらしい。
その女性が、顔を上気させて言う。「今日、すごく好きな人に会ったんです。」その人は、以前にビデオを見ただけで、面識がないという。本を出版したので、馬場の芳林堂でサイン会があった。それに出かけて握手してもらったそうな。
「好きで好きで・・・」もう、夢に見るほど好きらしい。見たというビデオは、空手の大会のもの。けれどもその流派について尋ねると、ほとんど知識がない。大会で活躍をする様を見て、一目惚れしたようだ。団体の名には関係なく、その選手個人に惚れ込んだのだ。
で、彼女曰く。「私、どうしても好きなので、サインしてもらうときに、本の下にもう一枚紙を敷こうと思って。それで、本にサインしてもらったときに、この下の紙にもちょこっとサインして下さいって言おうと決心して、ちゃんと準備していったんですけど・・・あまりに素敵なので、どうしても言えませんでした。あー残念」。恐ろしいことに、彼女が用意した紙とは、正式の婚姻届けだったのであった。
いやあ、もののふも、あそこまで偉くなるとこんなに女性にもてるのだ。若き空手家諸君には、朗報ではないか。数見肇氏にとって朗報か否かは不明だが。
あ、Kは屋号だけじゃなかったことに今気づいた。数見も「K」だったんだ。第三のK。
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