| (1月某日) 24日、加藤清尚さんにお誘いいただき、東京・後楽園ホールにシュートボクシングを見学に行く。「シュートボクシングと散打の対決」が今回のテーマ。三月に北京で散打の中国ナショナル・チームの合宿があり、それに大道塾からも選手派遣が検討されていて、現在参加が決まっている名古屋の大川選手もわざわざこの試合を見るためにやってきた。先日引退式を行ったMAキックの港太郎選手が後ろの席におられ、加藤さんと談笑。この方、ぼーっとしていてつかみどころがないと格闘技マスコミには書かれていたが、私も少しお話させていただいた限りでは、大変まともな会話のできる人、という印象だった。礼儀正しく受け答えもしっかりしている。マスコミ受けする大言壮語が少ない、というのをマスコミの都合で言い換えるとつかみどころがない、ということになるのだろう(こうした経験は少なからずあることで、事前には報道からいやなヤローだと思っていた宅八郎氏に実際に会ったところ実に生真面目な応答をする常識人だと好感をもったことがある。ナイスガイだと思っていた小林よしのりが人間のクズだったのとは対照的だった。)
さてシュートボクシング対散打だが、純粋打撃系のキックやムエタイとはかみ合わないと判断したシュート協会がグローブでの立ち技で投げ有りという共通点を持つ流派の対抗戦に今後の展開を求めてゆく中で選んだ相手なのだろう。ロシアのドラッカとも同様の対抗戦を進めるということらしい。しかし、ドラッカにキックボクサーが多いことからも分かるように、両者はなるほど似ている。しかし私の理解では、散打とシュートでは水と油である。前者はあくまで投げが中心で、それも柔道やレスリングのような大技ではなく相撲のいなしや小股掬いのような投げを得意としている。そうした小さな投げでポイントをかせぐ競技なのである。しかしこれにも言い分はあって、昨今の総合格闘技を前提とすれば、とにかく投げて上になればよいわけだ。他方シュート・ボクシングでは、バックドロップのたぐいの大きな投げしか認めていない。こちらは下が固い地面である場合にきかせるという想定なのだろう。つまり両者に然るべき見識があるのであって、事前によほどしっかりしたルール調整をしないと興業として盛り上がるのは難しいと思われた。私の予測は、シュート勢が打撃を出すたびにころころこかされて、しかもそれはポイントにとってもらえず、客はちゃんとやれーと怒りだしてモメるという筋書きであった。しかも散打勢が国家から正式に渡航を許されるということは、文部省に当たるところと折衝したのだろうから、きっと末端の選手・コーチまでにはどのようなルールの試合かは伝わっていないであろう。木本さんのいう「散打ハク撃」のつもりでやってきているのではないか。(ちなみに今回やってきた「武装警察」というのは、長春の張先生のルートで私が93年に北斗旗に演武で呼ぼうとして、直前になりギャラ・アップを求められ招聘を断念した団体だと思う。)
案の定、ルールは会場入りしてからが大モメだったらしい。通常の5分、4分、3分の3Rに延長2分、1分、ヒジヒザ有りというシュートのルールが変更になり、4分、3分、3分の3R、ヒジ打ち、ヒザ蹴り無しというルールとなった。加藤さんによるとシュートの選手は直前になってルールを散打有利にされたということで、相当に怒っていたという。けれどもこれは推測にすぎないが、散打側にとっても同様のことではないか。まず来日以前にはどのような試合形式かはまったく選手は知らなかっただろう。彼らは細かく投げてポイントを取ることを目指しているのだから、それを得点にしてもらえないなら試合にはならない。投げは相当に疲れるから、5分1ラウンドは無理だ。ただしヒジ・ヒザにかんしてはまだ交渉の余地はあったと思う。彼らもムエタイとの対抗戦ではその要求を飲んでいるからだ。
で、試合だが、これも予想通りになった。一方的に中国人が技をしかけるだけで、シュート選手は何もさせてもらえないのだ。まず玉杰(散打女子52Kg世界王者:中国少林寺散打)vs角田紀子(JSBAレディース1位:シーザージム)。玉はひたすらに横蹴りで距離を取り、近づくとタックルからすがりついてゴロリと倒す。ときおり大振りのフックを単発で出し、当たるのだが後が続かない。それが延々と続き、玉が次第に肩で息をつき始める。倒れて起きあがるのも大儀そう。これが三ラウンド続いた。これでは角田選手も観客もフラストレーションがたまってしまう。結局、判定は0-2(29-29,
29-30, 27-30)だった。私は別に散打の肩を持つ気はさらさらないのだが、一体どういう理由でこういったポイントになったのか分からない。ポイント競技なのにポイントの根拠がはっきりしなければ、野球で何対何か分からずにボールを打っているようなものではないか。
森谷吉博(JSBAオウル級1位:シーザージム)vs 林 大里(散打55Kg中国王者:中国少林寺散打)。林は一見して投げの選手。前足のローまで取ってこかす。前足に体重が乗っているだけで、足があがっていなくてもヒザの横に手をかけてこかす。ハイも一本背負いの要領で投げる。ひたすら横蹴りと投げで、試合を終わらせてしまった。加藤さんは途中、何度か森谷選手に「そこでハイ!」と声援を送っていたから、チャンスはあったのかもしれないが、全体としては散打らしい試合展開ではあった。これを崩すには、まずはキック的な発想をかなり捨てなければならないだろう。しかしそうすると今度はシュート・ボクシング選手との闘いで戦力がそがれてしまうだろう。結局、プロとしては散打との対抗戦は難しいということではないのかと思う。判定は0-3(28-29、三者とも)で林の勝ち。
メインは土井広之(JSBAシーガル級王者:シーザージム)vs
宵 成龍(散打67Kg中国王者:中国少林寺散打)。宵はどうやら打撃系らしいが、大して見るべきものがない。投げは林よりなかり落ちる。しかし1ラウンドに大きく持ち上げてシュート・ポイント。それ以外は両者膠着(宵が横蹴りからタックルの連続。疲れて早く立てなくなる。)3ラウンドに土井が逆に大きく投げ。で、判定は3-0(29-28,
30-28, 29-28)。不思議なことに、宵は1Rに投げによるポイントがあったのに、このポイントを入れてない審判がいる。メインまで負けにはできないということなのだろうが、こうした試合をポイント制でやっても意味がないのではなかろうか。
総じて、小さな投げはポイントに取らないということがよく中国側に伝わっていなかったのではないか。それでもいちいち投げるから、疲れてしまう。散打ハク撃のポイントでいえばメインですら10ポイントは差があった。あと二試合はさらに大差であった。私はシュート側が理想とするような打撃戦の方が個人的には好みだが、ルールのもとで試合する以上はちゃんとルールの詰めを行い、ポイントも公正に取るべきだろう。
しょうがないなー、ということで加藤さんと控え室を訪ねる。「大きく投げられちゃった」からしょうがないですよ、と森谷選手。今回コーチをしたという修闘のマッハ・桜井さんが、「何も考えずに行けばよかったんじゃない?」と言う。私もそう思う。散打相手に真面目に攻略法とか考えたら、その時点で彼らの戦法にはまってしまうだろう。変な試合だったなーということで、いつもの焼き肉屋で加藤・大川ご両人と夕飯を食べた。
付記。それはそうと、シュートボクシングそのものにかんしては、なかなか感心した。キック系競技と思っていたが(これまでにも何度か観戦したことがある)、蹴りよりもパンチの連打、なかでもボディを重視しているのが目についた。ムエタイではパンチであれだけボディをきかせることはない。投げがあることと関係するのかもしれないが、技術的にもパンチは大したものだと思った。それと、異常なまでのスピードとスタミナ。プロとしての自覚が感じられた。なかなか他団体との交流戦は難しい競技なのかもしれないが、頑張ってほしい。 |