ジャック・アダ『経済のグローバル化とは何か』ナカニシヤ出版

 表参道ヒルズが華々しくオープンした。中高生で賑わう竹下通りを擁しながら原宿が大人の町でもありえたのは、ひとえに同潤会アパートメントのしっとりした佇まいあってのことだったと思う。同潤会は、関東大震災後に耐震構造に配慮すべしという政治的・社会的要請を受けて建設されたアパートである。そのような時を経た名建築だけが持つ文化や歴史を解体してそこに現れたのは、海外ブランド店がぎっちりと効率的に集積する空間であった。

 「グローバル化現象は、『社会的なもの』『政治的なもの』に対する『経済的なもの』の復讐である」と著者は言う。それならば同潤会を海外ブランド店に置き換えた表参道ヒルズこそがグローバル化の象徴的事例ということになろう。だが「経済のグローバル化」にかんする大半の議論は、「世界市場の統合」を指摘するに止まってきた。それだと海外ブランド店が表参道に軒を並べることまでしか指さないことになる。

 社会や政治も視野に収めると、グローバル化を通して見える光景は一変する。「市場統合論」では、分業の広がりによって生産性が向上し、局地的な村落経済の余剰を交換する地域市場が生まれ、それが結合して国民市場となり、開放されて国際市場へ成長したとされる。一方、本書は第一部の歴史編で、グローバル化を昨日今日の現象ではないとし、その起源を十一世紀頃から地中海や北海・バルト海あたりで行われた遠隔地商業に求める。のちに商人は国家と結託し、外部から国内の諸規制を撤廃するに至ったというのである。

 市場は「競争」だけでなく「組織化」も不可欠の要素としている。ケインズ主義や日本的経営といった「組織化」は、グローバル化の過程で解体された。だが「組織化」は、人為による需給調整だけではなく、政治や社会と経済の折り合いをつける役割も果たしている。それが競争一元論によって破壊されたせいで世界市場はとくに金融面で不安定化し、周辺国は停滞を余儀なくされたとする。

 ポラニーやウォーラーステイン、ブローデルらを引きながら、啓蒙書という枠を超え、スリリングな議論を展開している。