『オルタカルチャー日本版』メディアワークス発行 「悪趣味雑誌」、「A.P.C」、「サザエボン」などの項目が続く本書は、音楽や漫画、ファッションやゲーム、ダンスやドラッグといった「サブ・カルチャー」の現在を簡潔に説明した辞典、といえばとりあえず紹介したことになるのだろう。神戸の小学生殺害事件のように大人の知らない漫画の引用が犯行声明に用いられる御時世だから、こうした本は便利なカタログとして使われるはずだ。 けれども六〇人からの執筆者を配した本書の狙いはむしろ、現在のユース・カルチャーが、主流たるメイン・カルチャーあってこそ支えられる「サブ」カルチャーではなくなりつつある様子を描くのに向けられている。「オルタ(ナティブ)」とは、「メイン」が機能不全に陥った状況で、主流の座につきうる可能性を秘めている、という意味なのだ。 たとえば、町田康の小説「くっすん大黒」は当初、文壇の長老からは滅多にないほどの酷評を受けた。しかしこの作品は、パンク歌手としての町田を知る人々からは、既存の文学では不当に貶められてきた、声に乗せて朗読されるという身体性を復権させる新たな文学として好評を得た。本書ではこうした経緯が生き生きと描かれ、また阿部和重の小説もまた「デス(裏)渋谷系」などとして、ノイズ音楽になぞらえてとらえられている。 このようなジャンル相関的な解釈は、文学界の内情だけにどれほど通じていても、出てはこないだろう。だが現に、漫画・写真・音楽などの個々のジャンルを等価にとらえリミックスしたかのような吉本ばななの文学が、海外で評価されているのである。編集者たちは、こうした相関性をウェブ上で仕切りなく情報がリンクされるインターネットとの類比で理解し、本書そのものをハイパーテキスト化して公開している(http://www.mediaworks.co.jp/alt/)。内輪受け狙いの未熟な表現も一部見られるが、編集者の意欲がほとばしる画期的な書物と評したい。 |