『アメリカ本を読む』松原隆一郎

@薬師寺泰蔵『「無意識の意志」の国アメリカ−大国はなぜ甦るのか−』NKHブックス
A荒このみ『西への衝動−アメリカ風景文化論−』NTT出版
B御厨貴/小塩和人『忘れられた日米関係−ヘレン・ミアーズの問い−』ちくま新書

  このところの出版界にあって気にかかる現象として、アメリカを語る本が毎月のように上梓されていることがある。その中で、視点の斬新さで新たなアメリカ像を浮かび上がらせている三冊を紹介しておこう。これらはどれも平易な文章ながら、アメリカ自身が描く自画像とは異なる斬新なアメリカを知らせてくれる。

 薬師寺氏は、アメリカがどうやって幾度もの危機から甦ったのかと問い、それはアメリカがあたかも「無意識の意志」をもつかのごとく危機に直面して国を閉じ、新たな技術を携えてふたたび国を開いてきたからだ、と答える。

 薬師寺氏はさらにそれを、「実験国家」「単純で強いイデオロギー」「歴史の封じ込め」「技術主義」「フロンティア・キャリアーの指名」という「大国の五つの条件」から説明する。なかでも、アメリカのイデオロギーを少数の豊かさを守り孤立を選ぶハミルトンの自由主義と、多数の豊かさを保証し世界に開かれようとするジェファーソンの自由主義の併存とみなし、その形成を歴史的に説明するくだりは読みごたえがある。また、日本はアメリカをいつも「半分」だけ取り入れているという指摘には、膝を打った。

 荒氏は、著名な文学作品や(ラシュモア山の大統領彫刻やエリス島の移民局など)印象深いアメリカの風景から、旧世界のヨーロッパでない「アメリカ」とは何かを探る。それは文学的には自然であり、社会的には民主主義であろう。しかし荒氏は、そうしたアメリカの背後にも視線を向け、それらが原住民や黒人奴隷や移住者の故郷の抑圧という矛盾に立脚するのだ、と指摘する。これもまた「アメリカ」なのである。

 ヘレン・ミアーズは、終戦直後に『アメリカの鏡・日本』を出版し、真珠湾攻撃はアメリカの仕掛けた経済戦争への日本の反撃だった、原爆を投下したアメリカは日本軍の残虐を裁く権利をもつのか、と問いかけた。これが昨年邦訳されるや、進歩派の自虐史観に辟易していた人々から拍手をもって迎えられた。しかし、と著者らはいう。ミアーズの後の仕事は、日本の全面講和に賛成し、日米安保に反対するという日本の進歩派そのものであった。戦前の日本をつぶさに観察したミアーズの体験を掘り起こし、感情を排して論陣を張ったアメリカ論壇人の知的廉直を伝える。

(月刊宝石)