| 『アーレントとハイデガー』E.エティンガー/大島かおり訳/みすず書房/2369円 歳の離れた妻子持ちの男性教師が、女子学生と不倫している。男は関係が明るみに出ないよう、頻繁にやりとりする手紙の表現にも細心の注意を払い、女も従う。師弟関係は次第に絶対化し、男は女が精神的に自立することを、結婚ののちも許さない。女が社会的にどんな成功を収めようと、自分の身辺を話題にするだけ、生涯にわたって・・。 近頃のテレビ・ドラマにありがちなストーリーと思われるかもしれない。だがこの秘められた話がセンセーションを引き起こしたのは、男女がともに今世紀最大級の哲学者だったからであり、しかも男はナチスを共産主義に対抗して西欧社会を退廃から救うものとみなし思想的に支持し、女はユダヤ人としてナチスを共産主義ともども人類の恥としての全体主義だと批判して名を上げた人だからである。 アーレントとハイデガー。二人の関係が特殊なものとなったのは、とりわけハイデガーが哲学者としては超俗の人だったのに、世人としてはこの上なく姑息だったからだ。戦後、アーレントに自分の名誉回復や米国への紹介を頼みながら彼女の少しの成功にも不機嫌になるのだ。もちろん人は公人としてのみ立派であれば良いのだが、ナチス関与は公の仕事であるだけに、看過できる問題ではなかろう。 (月刊宝石) |