『評判記』松原隆一郎(読売新聞6/17) この数年間論壇の話題の中心だった『新しい歴史教科書』が市販本として出版され、相当な売れ行きらしい。さっそく読んでみた。
率直に言う。中学時分、日本史に退屈した筆者には、なかなか面白かった。仏教関係など美術品の写真を多く収録するが、かつての教科書より陰影が巧みに強調されている。撮影もしくはデザイン技術が進歩したのか、美しい。クジラ漁の様子や大阪の蔵屋敷での米の集配を描いた絵画など、説明に図版が多く引用され、これも楽しい。
肝心の文章だが、神話(神武天皇の東征神話など)を紹介することには批判的な人もいるらしいが、神話じたいは事実として存在するのだし、批判への出発点にもなるのだから掲載する方が健全だと思う。多く国策が中国・朝鮮などとの国際関係から説明されているのも、分かりやすい。
ただし事前に執筆陣が主張していたような、歴史教科書で愛国心を育もうという感覚は、読後も理解できなかった。そうした目論見だろうか、日本美術の優秀さの説明に、「バロック美術にも匹敵」といった西欧芸術がしばしば引き合いに出されているが、かえって卑屈に感じる。問題の第二次大戦の記述にしても、日本が「力をつけてきた」「快進撃を行った」と誇らしげに語る割には敗因について「日本軍ははっきりした見通しをもっていなかった」しか挙げていない。まずいことは書かないという印象を拭えない。
ともあれ総じて言えば「勇み足もあるがおもろい本」といった印象で、この程度の偏りは左翼系の歴史観と同列で、「共存すべき多様な意見」として採択を競わせればよいと思う。検定に通過したことと、検定途中に内容が外国に流出するというデュープロセス違反のいずれを「反民主主義的」と見るかで、その人の民主主義観が分かる。リトマス試験紙のような本ではある。