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ビル・クリントン『マイライフ上・下』(朝日新聞社) アメリカの大統領は、想像を絶する激務を課される。本書の下巻でクリントンは93年からの大統領在任の八年を回想するが、98年10月の数週間など、イスラエルとパレスチナに和平合意させようと、ネタニエフ・アラファトの両首脳をワシントンに呼び、何日にもわたり膝詰め談判を行い、並行して予算案を議会で通過させた。そのまま中間選挙の終盤に突入したため、各州を遊説してもいる。 そのうえ私生活では、ルウィンスキーとの性的関係について同年八月に告白して以来、毎週ヒラリーとともにカウンセリングを受け、しかし寝室から追い出されてソファで休む日々だったという。民主党の大統領としてはルーズベルト以来の再選を果たしたのに、同時に弾劾を受けた史上2人目の大統領ともなった。激務に加えて、毀誉褒貶もつきまとったのである。 それにもかかわらず彼には、いまなお絶大な人気が寄せられている。その理由に、政治的重大事を語る口調が、私事に触れる際の無防備とも思えるほど率直なそれと同じだということがあると思う。誕生からアーカンソー州知事時代までを扱う上巻を合わせると1500ページを超える大著ながら本書を一気に読めるのも、その素直な口調が魅力的だからだ。 父を誕生前に失い、酒乱で粗暴な継父が撃った銃弾が壁に穴を開けたという幼年期。ジャズと政治、読書や女性との交際(5人までが実名付き、他にも数人?)に精出し、愛国心とベトナム徴兵回避との折り合いに苛まれた学生時代。マヘリア・ジャクソンやレイ・チャールズ、ティナ・ターナーなど偉大な音楽家の実演に接した際の感激からは、黒人文化への敬意が伝わる。こうした体験が、貧者と富者、白人と黒人、異性愛者と同性愛者といった国民間の対立に融和を図ろうとする内政方針に結実してゆく。 一方、数回に及ぶ例の「不適切な行為」については、モニカとのものも「このなかに含まれる」、とある。他にもあった、と示唆しているのか?ドキリとさせられる表現ではある。 政治家としてのクリントンは、グローバル化に情報化、新保守主義化にテロリズムという時代の潮流に抗し、アメリカを再浮上させた名大統領と総括されよう。それだけの業績を挙げさせたのがアメリカの社会風土であることも、本書は示している。大統領は、精神がよほどタフもしくは単純でないと務まらない。クリントンは前者の典型、では現大統領はどうか。 引き継ぎの席上、クリントンが安全保障上の最大の問題はビンラディンと念押したが、ブッシュ周辺はイラクに注目したという。そうした先入観ゆえに9.11を阻止できず、その後もイラク叩きに猛進。まさに単純型だが、ブッシュもまたアメリカの政治風土の落とし子なのだろう。 (朝日新聞) |