『評判記』松原隆一郎

 幸田真音『凛烈の宙』(小学館)、高杉良『小説 ザ・外資』(光文社)、江上剛『非情銀行』(新潮社)と、銀行業界ものがヒットしている。いずれも四五○頁のハードカバー、一気読みしてみた。

 護送船団方式で金融秩序を築いた大蔵省に九○年代以降批判が強まり、金融自由化の波が押し寄せると、銀行業界に激震が起こる。金融庁はマニュアルにより一律の管理体制を敷き、外資が跋扈する。金融危機で公的資金を投入し不良債権処理を厳く要求すると、銀行側は合併・再編・リストラで体力温存を図る。ドラマの種には事欠かないはずだ。

 幸田本はストーリー・テリングが冴える。銀行から手に余る不良債権を買い付け、転売する外資の違法すれすれの闘いを軸に、女性の扱いについても金融マンとしての資質も対照的な主人公とライバルがからむ。彼らのコンプレックスの描写がエグイ。とはいえひっぱるだけひっぱって、落ちは拍子抜け。不良債権処理を敢然と進めよ述べつつ、優良企業の息の根が止められるのを憂慮するとも言うあたり、理論武装の詰めも甘めではないか。

 語りで対照的なのが高杉本。冒頭、外資系銀行に勤める主人公がセントラル・パークをジョギングしていてぶつかった相手が投資銀行のオーナー、それだけの縁でヘッドハントされ、その夫人も不倫を迫ってくる。そんな行き当たりばったりが「小説」で、それも中折れ。後半は長銀解体事件がまんま引用され、主人公が遠目から論評する。巻末「万一、現実の事件ないし状態に類似することがあったとしても、まったくの偶然」という言葉があるが、実話なのにここまでリアリティの関節を脱臼させる語り口は一種の技かも。

 深夜まで巻を置けなくなったのが江上本。合併と同時に進められる非情なリストラ、その陰に潜む暴力団との癒着に行員たちが敢然と立ち向かう。著者は新人、大銀行の現役幹部といい、筋運びが巧みなうえ冷めた観察眼が素晴らしい。金融検査マニュアルが適用されないのは頭取の権力のみ、かつてのセーフティネットは護送船団方式で現在は合併・大規模化だなど、卓見が満載。悪役の中村取締役のキャラが立ちすぎ、主人公の影が薄いのが玉に瑕か?

 かくして大蔵支配以上の金融庁支配と、暗部一掃後のモラルなき競争とリストラが始まった。同じワルならせめて景気の良かった大蔵支配が増しだった、と筆者は感じるのだが。


(読売新聞2002.3.24)