『評判記』松原隆一郎

 『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著、ダイヤモンド社)がベストセラーとなり、続編も好調だそうだ。背景として明確な理論(制約条件の理論:TOC)を持つビジネス書が、小説仕立てにしただけこれだけ売れたというのは、現象として興味深い。

 『ザ・ゴール』は1984年にアメリカで出版され、窮地に貧した会社を主人公がTOCを使いものの見事に救い出すという筋。生産現場において部分的に効率化しても全体は最適状態からはずれる可能性があるという理屈から、ボトルネック(制約条件)となっている部分をまず発見し、集中的に改善することを唱えている。「カイゼン」はトヨタ的生産方式の一手法であるから、八十年代のアメリカで日本のチーム式生産管理法にいかに脅威であったかが、それを学び乗り越えた成果として満を持し日本に上陸してきた本書から、逆に伝わってくる。

 日本のジャスト・イン・タイムの手法では無駄・無理は虱潰しになくすのだが、TOCはそれを部分効率化でしかないとみなし、唯一の制約の解消に全力を費やす。さらに成果の評価は、原価ではなく、市場価格で行う。だがボトルネックに注目するというのは数理計画法では常識だし、トヨタ式生産法でも個別原価にこだわらないとされるから、目新しくはない。むき出しの理論では普及しない点をボトルネックとみなし小説仕立てにしたのが、著者の慧眼だったということか。

 TOCは、既存の生産資源の配置換えだけで生産性を上げる。それは商品への需要が十二分に存在するときのみ可能だろう。そこで続編は、需要不足を突破するための「思考プロセス」を説く。けれどもここでも商品を変えず、サービスや売り方を工夫して注文を取ろうとしている。だがそれは販売手法の改善にすぎない。メーカーの本務は、新商品を開発により需要を開拓することだと思う。

 

 


(読売新聞)