『進歩の思想 成熟の思想』加藤尚武/PHP

 ジャーナル、という語の語源「昼間」に関係し、ノクターナル、というのは「夜間」につながる、といわれる。論争するには太陽がまぶしすぎるのか、日本のジャーナリズムでは紋切り型の議論しか起こらず、論争は無秩序に夜の酒場でなされるというのも、その語源のせいかもしれない。しかし、昼間に論争するものもある。哲学者たちだ。哲学史は、いわば論争の回廊である。

 ヘーゲル学者として名高く、生命倫理学者でもあって重厚な文章で知られる加藤尚武氏が、(ちょっと高級すぎる)ジョークを乱発する『ジョーク哲学史』を出版した時、私などは驚いたものだが、哲学史を論じることがそれ以降、ジャーナリズムで論争家として出発するための準備だったとは後で知らされたことだった。論争家として注目されたのは、本書におさめられた丸山真男批判によってである。執筆当時、かつての左翼仲間からは裏切り者の目で見られた、という。

 加藤氏は「十九世紀からでないと二十一世紀は見えない」、という。デカルトの原典によってではなく進歩の幻想につかれた十九世紀の俗論から「近代」のイメージを作り上げ、そのワラ人形にすがったのが丸山氏だった、と批判がなされる。二十一世紀には進歩でなく成熟を、との展望が刺激的な本だ。

(月刊宝石)