『評判記』松原隆一郎
政府が総合デフレ対策に本格的に取り組み始め、「インフレ・ターゲット」論が実施されそうな雲行きとなってきた。消費者物価で一〜三%、安定的に上昇する目標数値を日銀出し、その成果に責任を持たせるという政策だ。具体的には日銀が国債や外債、株式信託や不動産信託を購入するというもので、要はお金を刷ってばらまこうというのである。
これまで「インフレは庶民生活を破壊する」「ハイパーインフレになったら制御できない」などの批判が寄せられてきたが、著名な経済学者である伊藤隆敏氏の『インフレターゲティング』(日本経済新聞社)や深尾光洋氏の『日本破壊−デフレと財政インフレを断て−』(講談社現代新書)、人気エコノミスト・森永卓郎氏の『日本経済「暗黙」の共謀者たち』(講談社+α新書)が立て続けに出版され、反論の論陣を張っている。これを新手の景気対策とみなし、構造改革の立場から不良債権処理論者の木村剛氏が再批判する(『論座』三月号)という論争も展開されている。
全体の九割をいかにデフレが恐ろしいかを述べるのに費やしたり(深尾)、政策の内容を縷々説明したり(伊藤)、唯一有効とみなすこの景気対策を否定する人々の陰謀を想像したり(森永)と外見こそ異なるが、通貨量を増やせば物価が上がると見る点は同じだ。
だがお金を持っていても投資も消費もしない「流動性の罠」が問題なのに、追加的に金をばらまけば突然、投資や消費をし始めるというのはなぜだろうか。それに対しこの説は、日銀が責任もって目標物価上昇率を掲げるのがミソだとし、国民はそれを信じて金を使うようになると言う。つまりは大臣が焼き肉を頬張れば牛肉が売れるはずというのと同じ発想と思われるが、さて国民は納得するだろうか。消費抑制の理由を尋ねる調査においてデフレを挙げる人が少ないという事実もあるのだし。