『伊東光晴/経済学を問う1〜3』岩波書店

 最近、エコノミストが政治家の失政を糾弾する光景をしばしば目にする。橋本首相は、消費税率引き上げで景気を急冷させたと批判されている。しかし、昨年初夏の時点でそう予測した者はいたただろうか。大方は、消費意欲が間もなく回復すると予言していたではないか。言動の結果責任を取らないことでは、エコノミストに勝る者は滅多にない。
 八十年代末のバブル経済についてもいまや誰もが弊害を指摘するが、大半のエコノミストは当時、円高不況対策として金利の引き下げを唱え、アメリカからの内需拡大要求に答えた「前川レポート」に沿って六兆円からの公共投資を手放しで迎えた。それらが過剰流動性をもたらしバブルに拍車をかけたのである。それだけに、東京における情報革命と金融自由化にともなう投機が地価の高騰を生んだというふうに、バブルの最中の八七年にその構造を分析していた伊東光晴氏の比類ない論文は驚嘆にあたいする。九〇年代の日本は「銀行不況」だという以前からの指摘も、今年になって同意が得られた卓見である。
 今回の著作集は、その伊東氏の三十年にわたる論文を集成したもので、寡占や市場の欠落、ケインズ解釈を扱う純理論編(第一巻)、今世紀の資本主義の変貌を展望した比較経済体制論(第二巻)、ゼネコン依存経済や巨大技術、バブルや日米経済協議を論じた現状分析(第三巻)からなる。通読して、経済学の思考が生き生きと躍動する記述に圧倒された。 これは、ケインズ原理論への学説史的な解釈に経済の現実への独特な嗅覚によって生命を吹き込む伊東氏の、利下げや公共投資を無責任に主張する新古典派エコノミスト(ケインジアン)たちとの論戦の軌跡である。筆者には、民間投資は金利よりも予想利潤率の影響を大きく受けるというケインズ譲りの指摘からいえば、規制緩和は景気回復につながるどころか企業の利潤予想を大きく不安定化させるだろう、というくだりが一際印象に残った。
(読売新聞)