『現代中国学−《阿Q》は死んだか−』加地伸行/中公新書

 『儒教とは何か』(中公新書)と『沈黙の宗教−儒教−』(筑摩書房)で、儒教は封建的な悪弊だという一見進歩的な愚論を退け、しかも儒教の本質を宗教性に見いだす斬新な儒教理解を示して衝撃を与えた著者が、「現代中国学」を提唱している。
 仏教なら死者は転生して現在はゴキブリか何かになっているはずなのにお盆で魂を呼び戻すのだから、日本仏教は儒教の祖先崇拝とシャーマニズムが九割を占めているのだという指摘を始め、前二作には、目から鱗が落ちっ放しだった。その著者が、「私は、中国古典の研究者であり、現代中国についてはうとい。けれども、中国史を貫徹する《中国人像》の把握において、彼ら現代中国研究者たちに劣るとは思っていない」との自負のもとに著したのが本書だ。 たとえば、二億の非識字者(魯迅のいう「無知な阿Q」)を含む農村問題が昔も今も中国最大の問題なのだ、という指摘。だから、天安門で農村の初等教育を訴えなかった学生の民主化要求は、自分たちエリートに特権を移動させよという権力闘争にすぎない。名でなく実を取る大陸中国が、生産力を台なしにする台湾攻撃をするはずがないという主張。まさに、古典に依って現代を読み解く好ゼミナールだ。

(月刊宝石)