『石橋湛山−自由主義の背骨−』姜克實/丸善ライブラリー/六四〇円

 大正デモクラシー期から昭和の軍国主義時代、そして戦後民主主義期を生き抜いた特異な自由主義者、石橋湛山に対する再評価の機運がこのところ高まっている。このところ、というのは、現在の日本が直面している問題や検討に付されている解決策の多くを、湛山はまるで予見でもしたかのように半世紀も前に論じているからだ。

 たとえば、湛山は帝国主義を批判して唱えた「小日本主義」によって大東亜共同体論にもとづく満州の植民地化を批判し、自由貿易による世界経済秩序をめざした。これは戦後日本の経済立国の論理を先取りした主張だった。また、冷戦初期の五十年代において、すでに冷戦の終わりを見越したかのように「日中米ソ平和同盟」を構想している。官僚養成のための詰め込み教育への批判や、産業活性化のための地方分権論すら、昭和初期に主張している。これではまるで、我々は、湛山をなぞっているだけではないか。

 本書が優れているのは、分かりやすい入門書というだけでなく、こうした湛山の思想の根っこに個人主義と欲望統制との平衡をはかる「新自由主義」があるととらえ、それを機軸に多岐にわたる湛山の思想を統一的にとらえている点だ。ともかく、三二年にケインズに注目し積極財政を唱えたなどは、『一般理論』の出版が三六年なだけに、日本思想史上の「事件」というべきだ。

(月刊宝石)