ジョン・クルース『ローランド・カーク伝 溢れ出る涙』(河出書房新社)

 77年に41才で他界した盲目のサックス奏者、ラサーン・ローランド・カークは、三本の管楽器を同時に口にくわえ(フルートは鼻に)、無数の楽器をぶら下げ、息継ぎなしに何分も吹き続け、時にサイレンやオルゴールも鳴らすという奇抜な奏法で、きまじめなジャズファンからはゲテモノ扱いされてきた。

 たしかに外見からは、超絶技巧の大道芸人というのがせいぜいの高評価になっても仕方がない。けれども私のこよなく愛する『リターン・オブ・ザ・5000ポンド・マン』を聴いて欲しい。女優が語る詩にハモニカで伴奏する曲など、これほど心温まる音色を奏でる音楽家はいまい。

 本書は三年間のインタビューを経て綴った伝記の決定版。尺八を吹くカークを小鳥が取り巻いたというエピソードが美しい。教会音楽やブルースに始まるアメリカ黒人音楽の正当な体現者であったことが、多くの証言で明らかにされる。

(朝日新聞)