| 『資本主義経済の幻想』ポール・クルーグマン/ダイヤモンド社/2400円/評・松原隆一郎 企業の競争力の低下が不況の原因だ、と見る立場がある。これによると、国内企業を外国企業との競争から手厚く保護してきた規制の撤廃が不況脱出の妙案だということになる。だがそうだろうか。 経済学界の重鎮にして俗説への厳しい批判で知られる著者はこの時論集で、ビジネス界のエグゼクティブといっても国の経済にかんして妙案の持ち主とは限らない、といっている。国の経済はシステムとして基本的に閉鎖系だから、一部に良いことが生じても他に悪いことが波及する。一方、企業は開放システムであるから、自社の運営にしか関心をもたなくても成功しうるのだ、と。だから、企業が競争にさらされリストラに励むにせよ、その企業は立ち直るにしても、国の失業者は増えてしまう。人間は贅肉とは違って消え去りはしないのだ。そのうえ失業の不安が社会に蔓延すれば消費意欲がしぼむだろう。規制緩和論は企業経営と国の経済を混同している。 本書でクルーグマンが用いるのは、理論といってもせいぜい経済を相互依存関係において見ようとする一般均衡論くらいである。それだけで、アメリカ経済は好況のあまり景気循環そのものからも脱したという「ニュー・エコノミー」論や、世界経済はデジタル技術革新および新興工業国の急成長により供給過剰に陥ったという「飽和停滞説」、自由貿易と健全な通貨を保てば途上国は離陸しうるという「ワシントン・コンセンサス」を論破してゆくのである。 それにしても、規制緩和万能論を振り回す我が国の主流派経済学者となぜこうもスタンスが異なるのだろうか。そのカギは、データの裏付けを取るという姿勢と現実への嗅覚にあるようだ。理論からくる思い込みとは違い途上国の保護主義のコストは小さく、アメリカ経済は非貿易財であるサービス中心だからグローバルでない、などは斬新な指摘だ。 (読売新聞) |