| 『いま「ヨーロッパ」が崩壊する(上)殺し合いが「市民」を生んだ(下)「野蛮」が「文明」を生んだ』栗本慎一郎編/光文社/(上)870円(下)850円 読み易くてタメになる、これはそんな本だ。それにしても栗本氏は偉い。明治大学を辞職して以降、大学の善し悪しを鑑定するだけでなく自ら『自由大学』を設立し、昨年というから選挙期間中も含めてのことか、旧知の著名学者を招いて本書に収められた7つの講義を開講しているのである。 共通テーマは比較文化論、とくに今回は「ヨーロッパとは何か」に話をしぼっているのだが、ヨーロッパ=素晴らしい近代市民社会、という大学で通常講じられる型にはまった議論があちこちの観点から切り崩されていくのがスリリングで、大御所教授連によるというのに内容が冒険的なのには驚かされた。 中世の決闘は野蛮であれれっきとした法的行為で、裁判のやり方が変わっただけで現在の法体系と連続している(樺山紘一)、ヨーロッパの古典的な市民社会とは外的から都市を守る青年男子の戦闘集団だった(河上倫逸)、イスラムにも自由主義・多元主義が芽生えつつあるのに西欧はテロリストだとばかり強調するのは誤解だ(山内昌之)、など。中でも秀逸なのは、個性的なロシア人たちを大量虐殺したスターリン社会主義はドイツへ布教する途上で誤解された西方キリスト教から生じたという匿名のA氏の講義だが、このA氏、どうしてもN.S氏に見えてしまうなあ。 (月刊宝石) |