| (4月某日)関東交流戦 関東交流戦。朝十時、桜満開の隅田川のほとり、台東リバーサイド・スポーツセンターに急ぐ。この試合、出るかどうかぎりぎりまで迷ったが、気持ちがどうにも試合をするだけの状態に戻らず、稽古も十分でなかったので残念ながら見送る。本部席に陣取って、塾長と雑談。 「確かに教えたりするようになると、急に試合に出る闘志が消えるんだよなあ。他人のことなんか知ったこっちゃないって勝手な奴ほど強いんだ」と塾長。「それで闘志がなくなると、顔面パンチはきいちゃうからほんとに危ないんだよ」 ものを書くだけなら、一日閉じこもって書き物をし、夕方からスパーをしたりすると結構闘志が日々募ってくるものだ。教えるというのも書き物よりも、講演が最悪なのである。講演会では結構緊張するし、エキサイトしもするので、その後パーティーなんかがあるとつい闘志がそこで消火されてしまうような感じになるのだ。だが仕事柄著書の内容にかんしてお呼びがかかるとつい出向いてしまう。先週など、平塚市の産婦人科研究会というところに呼ばれた。どうやら試合に出るときは、直前の二週間はそうした夜の会合はキャンセルしなけれぱならないんだろう。これも含めて調整を失敗したということか。 試合結果は、さっそく帰って書き、総本部HP作成者の牧野さん宛に送信。以下に引用しておくが、そこに書ききれなかったことを書いておきたい。女子部の話が多いのは私の性格のせいか?いやいや、それだけダントツの水準の高さだったということで・・ 1)試合前から日記が異様なテンションの高さだったので、新宿の花・みわさんの試合に注目。ところが一回戦、早稲田の岡さんとの試合は良いところなし。なにしろ岡さんは下北の八島さんの試合後、一緒に飲んだときも「早く試合を組んでくれないと選手生命が終わっちゃうー」と仰っていた人である。この日は前回パンチの集中砲火を浴びて女子部初のKOかとまで思われた八島さんとの対決のチャンス。えらく気合いが入っている。その岡さん相手につい見てから攻めようとするので、その間に次々と左右・上下に打ち分けられて手が出ない。完敗である。つい、本部席から「見るなー、下がるなー」とがなってしまった。 試合後わざわざ当人のところに出向いて「だめだよー」 と伝える。「声、聞こえてました」との答え、案外冷静なのかな?と二回戦にも注目。そうしたところ今度はものすごい速度で突きの連射。あれよあれよと言う間にも下半身を踏ん張り、身体指数の差が10もある相手を押している。ちっちゃなみわさんの奮闘ぶりに、つい胸が熱くなった。これだなー、俺が今回準備できなかったのは。ところが、結果はなぜか判定負け。そりゃないんじゃない、と訝しく思う。どうやら女子部は胴当てのせいで極真ルールではきかせることが不可能なため、ポイント制で判定するということらしい。蹴りのポイントが高かったということだが、それでもパンチの数は半端じゃなかったぞ。確かに審判は難しい。それでもみわさん、よくやった。勝てなかったら新宿支部をクビにするぞと高橋師範に脅かされていたそうだけど、私は証言してあげたい。私も蹴りのでないタイプだけに。 2)八島−岡戦は、稀に見る好試合。先日の予選の超重量級など、技術的には見るべきものがなかったが、この試合を見て反省してほしい。女子でもボティへのフックやロングのフック、寝技のスイープなどをこなしているのだから。執念というか闘争心も凄い。それなのに試合後の八島さんは勝ち名乗りを受け、一瞬浮かべたほっとしたような笑顔が実に愛らしかった。プロにはこうした華が必要だが、彼女、天性のものを持ち合わせておられる。女子ボクシングって、男顔負けの人が多いんだが、それって全然面白くないんだよな。それじゃ男子ボクシングを見ればよいわけだから。その点、技術と闘志の後にああした表情や仕草を見せるってのが女性のプロってもんだろう。ちょっとした映画の一シーンのようだった。感服。 3)軽・中量の優勝は藤本君。いつもビジネスマンクラスで一緒に稽古している好漢である。耳にピアスしてるけど。彼の勝因は組んでの頭突きとロー、肘。話をきくとどうやら釣り手で相手を回してから頭突きをいれるコツをつかんだということらしい。組技の打撃が大道塾のウリだから、こうした技術は今後特別に磨く必要がある。それにしてもいろいろ気づくものだ。いつかと試合で彼と当たってみたいものだ。そういえば浦和の高田選手に、「試合で対戦しましょう」と言われた。うーむ、老骨をそういびらないでよ。って、満更でもないが。 * * * * ◇一般4級以上 軽・中量級 高田・能登谷・飯島・青木と好選手を輩出する渡辺慎二支部長率いる浦和支部から、新星が登場した。藤本直樹(浦和)はサンボの確かな技術を持ち、最近では打撃技術に自信を深めている。寝技に絶対の自信があると立ち技ものびのびと展開できることを立証するかのようにトーナメントを制した。 藤本−室伏浩平(横須賀) 40歳と最高齢の室伏は、二週間前の予選に続く挑戦で準決勝進出と気を吐いたが、藤本が上段への蹴りで先制、マウントパンチで効果を奪った後、腕ひしぎ十字固めで一本勝ち。 堀 宗紀(成田)−篠木隆一郎(新宿) 篠木は極端に腰を落とした構えから、右ストレート狙い。堀はサウスウポーながら時折スイッチしつつラッシュをかけ、首相撲や寝技も使えるオールラウンド・プレーヤー。前足への蹴りなど穴をつき、延長で堀の勝ち。 藤本−堀 穴のない堀を藤本がどう崩すか注目された。藤本はパンチが単発になったが、延長では組んでの頭突きからロー、もう一度組んでの肘連打と、それまでにない展開で一気に勝負をつけた。藤本が試合の組立と勝負勘に光るものを見せた一戦であった。 ◇軽重・重量級 山田支部長率いる新潟支部は、重量級選手の多くが「山田流」。サウスポーで前蹴り、ミドル、首相撲、細かいテクニックに特徴がある。その新潟から早津忠夫と長谷川正人が決勝に進出。予選では体重の重さが技の雑さや動きの遅さにつながる選手が散見されたが、超重量級のこの二人にそうした点が見られず、予選に比しても水準の高い決勝となった。 早津−長谷川 先輩の早津が準決勝の山口(横須賀)戦とは一転して本戦の序盤から前に出たが、長谷川が下がりつつ一瞬振り落としたショートのストレートが顎を打ち抜き、早津は前向きに倒れる。スリップのような膝の付き方だったが、そのままKO。荒々しく殴り合う闘いよりも衝撃的な結末に、会場内が静まり返った。 斎藤雅史(新潟)−川人幹也(早稲田) トーナメント途中で行われたエクストラ試合。4級の新人ながら左手をだらりと下げた構えからフリッカー・ジャブやアッパーをのびのび振り回す川人の動きが特徴的で注目されたが、対照的に防御の堅実な斎藤がつかみからのパンチでダウンを奪い快勝。 ◇一般5級以下の部 どっしり腰を落としてローを蹴り合うよりもステップで動き、長身選手が首相撲からの膝蹴りで倒すシーンが目立った。大会後の塾長講評でも、もっと蹴られ強くなるようにとの指摘が特別に与えられた。このところ交流戦の勝者から格闘ルールのホープが出ていないだけに貴重な訓辞であった。下記の選手以外では今野尚武(総本部)が凄まじい突きと下段で、十代らしい組み手を見せた。 安藤昌哉(渋谷)−菊池滋(新宿) 安藤は無級ながら古典的な極真ルールの構えからのローとハイで健闘、勝ち上がってきたが、菊池のつかんで振り回してからのローの連射がきき、合わせ一本。 高橋哲哉(成田)−新井啓介(総本部) 準々決勝ながら大会全体でもっとも会場が沸いた一戦。長身の高橋が膝でダウンを奪ったが、それから新井が猛然とラッシュ。身体指数24の差をものともせず、パンチに前蹴りをはさみ右ローの連打であわやKOかという局面まで追い込んだ。新井は20歳。この気迫が今後どのような成長につながるか、要注目である。 坂腰直久(横浜)−菊池 坂腰は長身を生かした膝蹴りで決勝まで勝ち上がってきたが、菊池はつかみから振り回し、ローを連射して一気に蹴り潰した。小良く大を制しただけでなく、菊池の身体の丈夫さが光ったトーナメントだった。 ◇小学1.2.3年の部 三人がエントリー。ポイントの取り合いで全員が一勝一敗となったが、ポイント差が橋本祥平(総本部)が優勝。 ◇小学4.5.6 五人が参加、なんといっても注目されたのはこのところ各地の大会で連覇している友次文武(八王子)。最年少、他の四選手より顔一つ小さかったが、ローの後ろ蹴り(フグ・トルネード)でダウンを奪うなど今回も活躍。しかし決勝ではライバル・田辺邦彦(総本部)が回し蹴り、スカした友次がミドルを返そうとした瞬間に横蹴りをきめて横転させる。堂々の優勝に輝いた。 ◇女子部 これまで試合の機会がコンスタントにはなかったが、そうした悪条件にもめげずレベルの高さで観客を驚かせたのが女子部。なかでも八島有美(横浜)は現在プロボクサーとしても連勝を重ね、もっとも注目されているが、不利な極真ルールも含むこの大会に二段をかけ参戦。打倒・八島に執念を燃やす岡裕美(早稲田)との一戦は男子もしのぐ激しい攻防となった。 八島−五十嵐如江(新宿) ミドルと前蹴りで突き放してからのパンチを狙う八島だが、五十嵐が執拗に距離を潰し、思わぬ苦戦を強いられる。最後はスタミナの差で八島の勝ち。 岡−間瀬恭子(横浜) 間瀬は体力差を生かして初戦の岡をスタミナ切れまで追いつめたが、僅差で岡がしのぐ。 八島−岡 ボクシングでは長いリーチでほとんど相手のパンチをもらわない八島だが、身長差のあるはずの岡のロングフックが当たり、距離を詰められてあわやという局面も。逆に八島は得意の左フックが近距離すぎて的中しない。だが時折放つショートの右ストレートはさすが切れ味鋭く、3−2で辛勝。ほっとした八島の表情が清々しかった。塾長も絶賛の一戦であった。 ◇ビジネスマンクラス 五人が参加。身体指数差が最大31あり、技術・体力的に一般部と変わらぬ選手も見受けられ、無差別で試合を組むことの限界が感じられた。 丸山弘(佐久)−大塚章弘(新宿) このところビジネスマン大会をリードする両者の決勝。しかし長いリーチの丸山の振り落とすような鋭い右ストレートがガードの下がる大塚の顔面に何発もヒット。大塚には同じリーチならばよけられると感じられているようだったが、それだけに衝撃が大きく、丸山の完勝となった。 |
| (4月某日)蛇の穴のロビンソン先生 子供が来来週五歳になる。このところ休みでも一日中つきあわねばならなくなった。「とーちゃん、ビデオ屋につきあってよ」などと言うので、最近補助輪なしに乗れるようになった自転車に乗せて、二台でツーリングしたりする。だが空手の稽古に行こうという直前になって、「公園のジャングルジムに行きたい」などとゴネて泣いたりするから厄介だ。いったい、子供のいる空手家の皆さんはどうやって稽古時間を捻出しているのだろうか? 総本部道場での稽古時間は二時間。往復すると飲まなくても四時間かかる。それも定時なので、自由がきかない。これが一日中のいつでも良いならまだなんとかなるのだが、夜となるとほぼ絶望的。昼間仕事して息子は保育園だから、夜に稽古すると会うこともなくなってしまう。今春は家族に協力してもらおうかとも思っていたが(みかえりは旅行に連れていくこと)、結局は体調が悪くなって一度も参加できなかった。私の一般部の稽古は荻窪教室だけである。 それで家の近所のいくつかのジムでサンドバッグを叩いたりウェイトをやったりしてきたのだが、それもやらねばならないメニューからいえば一部にしかならない。悩んでいたら、妙な話を聞いた。いつぞや高円寺に見つけた(この日記にも書いた)「UWF スネークピット(蛇の穴)」というジムでは、夜こそ7〜9時は合同稽古となっているが、朝10時から自主トレは自由だというのだ。これは、と思いある昼下がり、訪ねてみた。環七沿いのビルの二階である。 重いガラスの扉を開けると、ゴーゴーとやかましい音。掃除機を動かしているらしい。入り口付近には自販機、テーブルには雑誌。くつろげるスペースにはテレビもある。その奥にはウェイトの一連の用具。さらに奥はマットになっている。そこから見覚えのある人物がでかい声で「どなたですかあー」と顔を覗かせた。あれ、UWFのレスラーだった宮戸さんではないか。 稽古したい旨、告げる。空手の道場に所属しているが、構わないかということもチェック。「全然、ノープロブレム」。なにしろ夕方からはプロの稽古時間というのがあり、そこには秘密裏に様々な団体の著名選手がお忍びでやってきて、技術交流をしているという。出稽古が自由にできる、各団体の交流の場なのである。キック部門を管理しているのは大江慎さん。かつてUWFに所属して世界タイトルも獲った名選手だ。 マット部分は異常なほどきれいだ。どうやら宮戸さんが大変なきれい好きであるらしい。サンドバッグにさわると、これが重くて良い感じ。蹴ってみると、ズシンとくる。その魅力で、さっそく入会してしまった。これで他のジムは契約解除だ。 * * * ある夕方、自主トレをしに行ったら、七時になってしまった。会員のみなさんが稽古している後ろでサンドバッグを蹴るわけにもいかず、ためしにということで、サブミッション・レスリングの授業に参加してみる。マットで柔軟していると、突然巨体が現れて、「グッイブニング・ジェントルマン!」と我々に言う。おお、この人は。なんとかのビル・ロビンソンではないか。雑誌でここの指導をしておられると読んだことがあるが、その情報は本当だったのだ。かくして、かつてプロレス中継でロビンソンさんが得意とすると聞いた、幻の「ランカシャー・レスリング」の授業が始まった。 タックルは中井さんのパレストラで教えていただいたのとは少し要領が違うようだ。いずれにしても私は下手である。指導員の方に細々と教えていただく。コンディショニングというのもあって、柔軟が中心である。なかりいろいろとやって、気分が良い。そのうち技術の指導となった。ロビンソン先生が、「今日は腕のさばきだ」とおっしゃる。組んだところから相手に首を持たれている腕を切って、そのまま極めるか、さらにタックルに行く。私がもごもごしていたら、先生が「ヘイ!」と指さして、ゆったりと歩いてこられた。なんと、私に「組んで見ろ」、と仰る。首を両手で取るようにすると、「そのまま切ってみろ」。ところが先生の圧力が強くて切れない。「切り方はこうだ」、と上下のブレをなくして回転で切って見せて下さる。「生の」ビル・ロビンソンが、組み合った私の腕を切られたのだ!ああ、この歳にして、こんなところであのロピンソンさんと組み合うとは思わなかったなあ。まったく、東京というのは不思議な都会ではある。 休憩時間に私が横でタックルの反復をしていると、ロビンソン先生、「リーラックス!!」と大声で指摘して下さる。驚いて声の方に振り向くと、先生、私にウィンク。つい、先生が日本プロレス史上初めての外人善玉であられた頃の国際プロレスを思い出した。 その後はスパー。裸の寝技というのもなかなか面白い。袈裟固めからの肩固めなどは極めることができた。ただ裸だと、やはり下になるのは不利なようだ。道着だと五分なのだが。下になって三角締めなどを狙っていると、宮戸先生が「ガード・ポジション!」と声をかけて下さる。ありゃ、ここでガードかなあ、と半信半疑で足を相手のボディにロック。すると先生、「そうじゃなくて、ガード・ポジション!」と連呼される。私はさらにロックを強くする。「いや、そうじゃなくて・・・」。ああ、そうか、私がやったのは柔術のガード・ポジション。先生の仰っているのはレスリングのガード・ポジション。四つん這いの亀のポーズが正しいのであった。とにかく仰向けはまずいということらしい。いろいろやってるとこんがらがるが面白いものではある。こうして高円寺の「蛇の穴」での稽古が始まったのであった。 |