『戦後民主主義の黄昏−わたしたちが失おうとしているもの−』大塚英志/PHP研究所

 映像や活字・漫画のみならず、商品もひとつのメディアにみたててそれらのミクロな解読から社会評論を続けてきた著者による、きわめて刺激的な論文・エッセイ集。タイトルの印象とはむしろ逆に、いまこそ戦後民主主義を擁護するというアジテーションの書だ。

著者は、日本経済における消費者の感性は高度成長の終わった七二年ころに一大変容をとげたと述べ、「かわいい」という語が雑誌『アンアン』『りぼん』で当時から乱発されるようになったことを指摘する。商品の価値を、モノの機能によってでなく「かわいい」的な記号的価値で判断する八十年代以降の消費社会的感性はここに芽生えている。七一年末に連合赤軍が「総括」によって拒絶しようとしたのは革命家でありながら「かわいい」を口走った女性兵士たちが象徴した消費社会の到来だった、という「永田洋子と消費文化」は、初出時から話題になった論文だ。

 しかし、消費社会の蔓延が結局は経済のバブル化を経て資産格差をもたらすものでしかなかったことから、著者は、消費社会を正当化する評論家、それが階層化をもたらすことを知りつつ容認するフェミニスト、自分だけは消費大衆でないと印象づけようとする学者や文学者・写真家たちに厳しい批判を差し向ける。彼らは誰が語ってもかまわない言葉しか語れず、個としての存在感を欠いている。我々三十代の言葉の根拠は戦後民主主義やサブカルチャーにしかないことを醒めた目で引き受けるのが「成熟」だという指摘には、共感させられる。

(月刊宝石)