『職業◎寺山修司−虚構に生きた天才の伝説−』北川登園著・日本文芸社/一二〇〇円

 

 俳句・短歌・小説・翻訳・評論・チェスの考案・演劇・映画とおびただしい表現において独自の輝かしい才能を発揮したため、「僕の職業は寺山修司です」といってのけたと伝えられるこの作家が四十七歳で亡くなってから十年になる。率いる劇団「天井桟敷」を、日本では毀誉褒貶著しかったのとは対照的に、欧米では現存する世界三大劇団とまで評せしめた寺山の生前最期の九年間を、身近で見守った著者が手紙やインタビューを交えて語る。

 著者は、「共同体の掟に反抗する人間が自由と引換えに何を失って行くか、その失ったものをどう取り戻すか」が寺山の主題だったとするが、都市における公共空間の喪失への抵抗、というのも寺山の主題のひとつだったと思う。演劇にたどり着かなかった客や周辺住民から非難された市街劇『ノック』や、『日刊ゲンダイ』に連載された「宝探し」は、街に私有地でも公有地でもない公共空間を出現させ、また読者みずから謎をときつつその空間を見つけ出させる試みだった。

 今でも月島や玉ノ井など下町の路地に迷い込むと、窓が開け放しで夕飯を食べているのが丸見えという光景にでくわして驚かされることがある。私有の空間と公有の空間とが区切られておらず、間に公共空間が存在すると考えられているわけだ。おそらくはそうした公共空間を楽しもうとした寺山は、80年の夏、警察の御用となってしまう。「のぞき事件」である。私有地の拡大によって公共空間が喪失されたことがこの事件の背景にあったと思われるのだが、どうだろうか。

(月刊宝石)