『日本改革論の虚実』内橋克人/岩波書店/2200円/松原隆一郎・評

 不況は商品券という珍策までも呼ぶに至り、規制緩和は景気回復の起爆剤となりえていない。どうしたことだろうか。「規制緩和が足りないからだ」というのが、ありがちな釈明である。だがこの言い逃れはいつまでもでき、意味あるものではない。むしろ、規制緩和がベンチャー・ビジネスを勃興させ、失業者を吸収して景気を回復させるという説を点検してはどうか。
 市民主義の立場から、巨大企業の支配する日本経済に警鐘を鳴らしてきた内橋克人氏の著作集『同時代への発言』(全八巻)の第一回配本となる本書は、緩和論の理屈にいくつもの疑念を呈している。
 なかでも、これまでの日本経済が右方上がりの地価を背景に大企業の「含み益」に乗って成長してきたという指摘、およびそれが破綻した今、低金利政策が生活者のものである適正な金利を銀行の不良債権処理に回しているという「所得移転」論は、消費不況の理由の一端を鮮やかに説明してくれている。生活者はバブル時の家屋購入ミスで過剰債務も負っているのだから、リストラにも脅える現在、財布のひもを固くして当然だろう。
 規制緩和は生産性の高い企業を生むと言われるが、そうした主張は「社会的コスト」を見落としているという指摘も鋭い。宅配便は道路使用コストを払っておらず、(低生産性とされる)小売商店は地域の祭事など社会貢献を果たしている。コミュニティや家庭の瓦礫の上に咲き誇った我が国の戦後経済を鮮やかに描き出す論述だ。企業の淘汰と発生という入れ替えを目指すよりも、すでに存在する中小企業にイノベーションを促すべきだ、というのも納得できる。
 書籍や新聞の再販制維持も支持されるが、それは「活字が文化」だからではない。「中小企業活動とともに文化」だから、というのである。評者としては、公器だから、といってはどうかとも思うが。

(読売新聞)