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グリム童話と落語「死神」

-グリム童話「死神の名づけ親」と落語「死神」、そして、オペラ「クリスピーノ」の文学的関係-

 

グリム童話KHM44「死神の名づけ親」は、グリム童話の中でも、僕の気に入っている作品のひとつです。冒頭の、死神を名づけ親に選ぶ論理が、おもしろいと思います。ところが、この作品と、ほとんど同じ内容の古典落語が存在する事を、1999に知りました。三遊亭円朝の「死神」というのがそれですが、「古典落語大系 第二巻」(三一書房 1969年)の中の矢野誠一氏の解説には、永井啓夫「三遊亭円朝」からの引用として、「今村信夫氏の考証によれば、この話はイタリアの歌劇「靴直クリピスノ」を円朝が翻案したものだというが、「グリム童話集」の「死神の名づけ親」も全く同様のはなしである」と書かれているなど、この落語が、イタリアのオペラをもとにして作られているという解説が、多数の本に見つかりました。中には、イタリアのオペラと、グリム童話の両方が落語「死神」のルーツであるとしている記述もありましたが、この問題への言及がある文献のうち、当時、僕が点検した何十もの文献のすべてが、落語「死神」の成立にイタリアのオペラが関与しているとしていました。そこで、その説、すなわち、イタリアオペラ関与説が、どのようにして生まれ、どのように受け継がれてきたのかということを調べていくうちに、次々とおもしろいことが分かってきたので、その研究結果を、「死神のメルヘン−グリム童話と日本の落語−」という論文にまとめ、2000年8月に、駿台教育研究所発行、駿河台学園、駿台予備学校発行の雑誌「駿台フォーラム」第18号に発表しました。
このオペラは、音楽之友社の「名曲解説全集」にも載っていませんでしたが、そこで、インターネットで、情報を募ったところ、問題のオペラは、リッチ兄弟が作曲したものであることがわかり、、音楽之友社の「オペラ名曲百科(上)」に、「クリスピーノと死神」というタイトルで」載っていました。さらに、イタリアのボンジョバンニレーベルから、CDが出ているという情報を得て、台本英訳付のCDを入手したところ、原題は"Crispino e la Comare"で、直訳すれば「クリスピーノと名づけ親」であることがわかりました。また、ストーリーを比較したところ、落語「死神」が、ほとんど、グリム童話の「死神の名づけ親」の翻案であるのに対して、「クリスピーノ」のほうは、両者との違いが際だっており、こちらは、グリムと共通のルーツをもつ伝承に基づいた物語ではあるものの、落語「死神」がオペラ「クリスピーノ」から作られたという説は間違いである可能性が極めて高いということがわかりました。さらに、グリム童話を円朝に教えた人物としては、福地桜痴が有力な候補として浮かんできました。
また、間違った説が、どのようにして生まれ、どのように広がったのかということについても、興味深いことがわかってきました。
こうした研究結果を「死神のメルヘン」という論文にまとめ、駿台予備学校の講師の論文を掲載する「駿台フォーラム」という雑誌の第18号(2000年8月30日発行、駿台教育研究所編集、駿台予備学校発行)に発表しましたので、詳しくはそちらをご覧下さい。また、このサイトには、論文発表前の古い記事も、引き続き掲載中ですので、99年当時の情報収集のスタート時の様子などの記録として、興味をお持ちの方は、こちらもご覧ください。ただし、情報量が増えて、論文発表を決めてからの研究内容は、ホームページ掲載の古い記事の中にはありませんのでご了承ください。「死神の名づけ親」は、事実上、日本で、最初に普及したグリム童話ということになると思います。色々と情報を寄せていただいた方々に感謝しています。今後も、何か、新しい情報がありましたら、是非、教えて下さい。
なお、駿台教育研究所によると、上記の雑誌「駿台フォーラム」第18号は、2007年の段階で品切れになってしまったという情報をいただいたのですが、その後、わずかながら在庫がまだあるという情報もいただき、情報が混乱していますが、この論文のコピーのPDF形式でのホームページへの掲載について、2012年2月6日に駿台教育研究所の了解が得られましたので、2012年2月8日に本サイトで、PDF形式で閲覧できるようにしました。現在、このページの下の方から、アクセスできるようになっていますので、論文をまだ入手されていないかたには、いまのうちにダウンロードされることをおすすめします。
掲載誌「駿台フォーラム」第18号そのものは、在庫切れになっていなければ、駿台教育研究所(ホームページはリンクページ参照)に申し込めば入手できるはずです。また、同誌は、
国立国会図書館で閲覧できると思います。該当論文は、p.53-70にあります。
(12. 2. 8更新)

[2000年発表の論文「死神のメルヘン」のコピーのPDFファイルへのリンク]
*掲載誌「駿台フォーラム」編集元の駿台教育研究所の了解を得られたので論文コピーのPDFファイルを公開します。各ページごとにひとつのPDFファイルになっています。

論文の1ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.53)

論文の2ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.54)

論文の3ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.55)

論文の4ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.56)

論文の5ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.57)

論文の6ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.58)

論文の7ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.59)

論文の8ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.60)

論文の9ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.61)

論文の10ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.62)

論文の11ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.63)

論文の12ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.64)

論文の13ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.65)

論文の14ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.66)

論文の15ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.67)

論文の16ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.68)

論文の17ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.69)

論文の18ページめ(2000年発行「駿台フォーラム」第18号、p.70)

(論文コピーのPDFファイルへのリンクは以上です)



【2014. 8. 4追記】今朝の朝日新聞の円朝紹介記事で「死神」について「翻案もの」「グリム童話」と簡潔な記述。北村説、ようやく定着してきたのかもしれません。論文掲載直後には、イタリアオペラ関与説をとる人たちから直接電話までかかってきて、お話をしても、なかなか理解してもらえなかったのですが、冷静に、僕の2000年の論文「死神のメルヘン」を読んでいただいて、他の説と比較していただければ理解していただけるはずと思っていました。なお、昨年2013年3月に「鹿児島大学地域政策学研究,10」に掲載された梅内幸信氏の論文「古典落語『死神』に関するモチーフ分析と呪文について:『死神の名付け親』(KHM44)との比較において」」(ウェブ版URL=http://hdl.handle.net/10232/16665)の84ページに、2000年の僕の論文「死神のメルヘン」と、このウェブサイトの紹介の記述があります。
(2014. 8. 4追記)


 

99年から2000年論文発表までに掲載した記事

2002年発行の西本晃二著「落語『死神』の世界」の情報

2000年北村論文と2011年梅内論文との比較

 



北村正裕の本


北村正裕プロフィール(童話作家・シンガーソングライター・数学教師)



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