童話作家・北村正裕の部屋 <メルヘンの部屋 <何もない遊園地 <
7 光の城の崩壊
光はいつも闇を生み
そして いつでも 闇が妬ましい
でも 夢の旅人は 決して歩みを止めず
闇の光も 輝きを止める事はない
「ねえ、ミオ、今、どこからか、歌声が聞こえなかった?」
サフィが、ミオの背中の上から、心の声でミオに尋ねた。
「ええ、聞こえたわ」
「誰の声だろう?」
「流れ星の声じゃないかしら?」
そう言えば、確かに、夜空には、相変わらず、時折、いくつかの流れ星が、あるいは、涙色に、あるいは、ガラス色に輝きながら滑り、そのたびに、何か、美しい音楽が聞こえるような気が、サフィにもしていたのだった。
「そうか。月夜の国では、人間だけでなく、草花も、おもちゃも、ロボットも、そして、流れ星までも、みんな、自分の心の声を持っているんだね」
「そうよ。そして、月夜の国にやって来た人たち、闇の世界の生き物たちだけが、その声を聞く事が出来るのよ」
「うん、そして、この世界では、草花も星たちも、みんな、生き物なんだね」
「ええ、そうよ」
「ミオは、こんな素敵な世界に、ずっと、いたんだね」
「ずっとかどうかは、わからないわ。ただ、その前の事は、覚えていないだけ。私、自分の家がどこにあるのかわからないの。ただ、ひとつだけ、・・・・・・」
ミオは、そこで、言葉を止めた。
「ひとつだけ、何なの?」
「しっ、静かに!」
ミオは、動きを止めて、サフィの声をさえぎった。サフィが、あわてて前方を見ると、砂漠のかなたの地平線に、明らかに月夜の国の物とは違う、異様な光のかたまりと、小さな、黒い、人影のようなかたまりが見えた。
「光の城だ!」
サフィは、心の声でささやいた。
「これ以上近付いたら、見つかってしまうわ」
ミオが心の声で答えた。と、ちょうどその時、光の城がある地平線の、もっと向こうの方から、ドーンという大きな爆音が聞こえて来た。
「あ! ロム博士、やったな」
サフィとミオは、あの穴の中で仕掛けを操っているロム博士の姿を想像した。そして、爆音がした後、すぐに、小さな、黒い、人影のようなかたまりが、光の城の向こう側へ回って行くのが見えた。
「よし、今だ!」
サフィは、心の声で、そう叫び、ミオは、サフィを乗せて、全速力で、光の城へ向かって進んで行った。
兵士たちに見つかる事もなく、ミオとサフィは、まもなく、光の城の目の前までやって来た。ロム博士の仕掛けは、絶妙なタイミングだった。城は、無気味な光を放っていたが、その前に、兵士たちの姿は見当たらなかった。
「このまま突入出来る」
一瞬、サフィは、そう思ったが、ふたりの前には、思いがけない障害が現れた。
「これは、・・・」
城の回りには、ちょうど城壁のように、鉄の柵がそびえていたのだ。
「もしかして、高圧電流?」
サフィは、柵に歩み寄って、恐る恐る、柵に触ってみた。
「大丈夫。なあんだ。こんな柵、簡単に登れるよ」
サフィは、柵に足を掛け、一、二歩、よじ登った。だが、すぐに、ミオが登って来れない事に気付いた。
「ミオ!」
サフィは、ミオを呼んだ。だが、ミオは、柵の下に止まったまま、動かなかった。
「私、登れないわ。だって、私、木馬ですもの」
確かに、これまで、ずっと、サフィを背中に乗せて進んで来たミオだったが、彼女は、砂漠の砂の上を滑るように進む事しか出来ないのだった。サフィは、柵を登れないミオを見ると、登りかけていた柵から降りて来た。そして、ミオのからだを抱きかかえて、再び、柵を登ろうとした。だが、左腕でミオのからだを抱えたままの姿勢では、うまく、柵を登れなかった。
「あ!」
とうとう、サフィは、ミオを抱えたまま、柵から砂の上へ落ちてしまった。
「この柵さえなければ・・・」
サフィは、くやしそうに、柵をゆすった。すると、突然、柵の内側の城の中から、「ビー、ビー、ビー」と、けたたましい警報音が鳴り出すのが聞こえて来た。
「どこだ?」
「いたぞ、あっちだ」
「急げ! 逃がすな!」
城の方から、兵士たちの叫び声が聞こえて来た。
「しまった! 見つかったらしい」
サフィが言った。
「このままでは、捕まって、殺されてしまうわ」
ミオが答えた。
「ミオ、逃げよう!」
「もう、逃げても無駄だわ。だって、もう、月夜の国は、爆破されてしまうんでしょう?」
ミオは、そう言って、もう、動こうとしなかった。実際、ふたりは、もう、逃げられるはずがなかった。兵士たちは、早くも、ふたりを完全に包囲していたのだ。
「撃て!」
号令のような叫び声とともに、いく筋もの光線銃の光が、ふたりをめがけて襲いかかって来た。だが、次の瞬間、驚くような事が起こった。何と、ミオのからだのガラス色の光が、ぱっと、明るく輝いて、サフィのからだを包みこむように広がって、光線銃の光を吸い込んでしまったのだ。ミオの光が、サフィを、光線銃の光から護ったのだ。だが、代わりに、光線銃の光は、それを一身に浴びたミオのからだで、大きな音とともに炸裂し、ミオは、サフィの目の前で、ばったりと、砂の上に倒れてしまった。
「ミオ! ミオ!」
サフィは、倒れたミオのからだに抱きついて、大きな声で叫んだ。だが、ミオは、もう、心の声で答える事もなく、美しいガラス色の光も、少しずつ弱まって、消えていくように見えた。
「ミオ!」
サフィは、深い悲しみに襲われた。サフィの目から、涙がこぼれ、ミオのからだの上に落ちた。
と、次の瞬間、もうひとつの光が放たれたのだ。
それは、指輪だった。サフィが右手の中指にはめていた、あの悲しみの指輪が、サフィのこぼした涙の光を吸い込むと同時に、強い、悲しみの光を発したのだった。
「ああああ!」
悲しみの光を浴びた兵士たちは、叫び声をあげて、砂漠に倒れると、そのまま、消えうせてしまった。そして、ガラガラという大きな音を立てて、光の城が、爆風をまき散らしながら、崩れ始めたのだ。
そうだったのだ。悲しみの指輪は、深い悲しみによって、月夜の国を護るのだった。しかし、光の城の崩壊のシナリオが、こんな結末になっていたなんて! ミオにもサフィにも、気付くすべはなかった。もう、サフィには、光の城も月夜の国も、どうでもよかった。彼は、爆風に吹き飛ばされながらも、ただ、ミオのからだだけは、強く抱きしめて、放さなかった。