不正競争防止法と不法行為管轄

H16.04.08最決小一 平成15(許)44移送申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件



1 事案

 
  1. 抗告人の主張

     X(抗告人)は,Y(相手方)に対し,Xが本件製品の販売又は輸出をする行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たらないことを理由として,YがXに対し本件製品の販売又は輸出について不正競争防止法に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴えを,名古屋地方裁判所に提起した。
     Xは,Xが本件製品を名古屋港から輸出していることから,この地を管轄する名古屋地方裁判所は,本件訴えにつき,民訴法5条9号(「不法行為に関する訴え」の管轄は「不法行為があった地」にあると規定する条項)により管轄権を有すると主張した。


  2. 相手方の主張

     これに対し,Yは,本件訴えについては,上記規定の適用はないから,同地方裁判所は管轄権を有しない旨,仮に同地方裁判所が管轄権を有するとしても,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者の衡平を図るために移送する必要がある旨を主張して,本件訴えに係る訴訟を,民訴法16条1項又は17条により,相手方の住所地を管轄する大阪地方裁判所へ移送することを求める申立てをした。


  3. 原審の判断

     原審は,不法行為の効果として原状回復請求権又は差止請求権が発生することが一般に承認されていると解することは困難であり,本件における不正競争防止法に基づく差止請求権についても,個別的な法律の規定に基づいて物権的請求権に準ずるものとして認められているにとどまるから,本件訴えは,民訴法5条9号所定の「不法行為に関する訴え」には当たらず,名古屋地方裁判所の管轄に属しない旨を判示して,民訴法16条1項(管轄違いの場合の移送の規定)により,本件訴えに係る訴訟を大阪地方裁判所に移送する旨の決定をした。
     これに対し,Xが許可抗告を申し立てたのが本件事件である。



2 争点

 不正競争防止法に基づく差止請求権不存在確認の訴えが,民事訴訟法5条9号が定める「不法行為に関する訴え」に該当するかどうか。



3 最高裁の判断

  1. 結論

     原決定破棄・差し戻し。


  2. 理由

     まず,判旨は,民訴法5条9号の「不法行為に関する訴え」の意義につき,以下のように述べる。

     民訴法5条9号は,「不法行為に関する訴え」につき,当事者の立証の便宜等を考慮して,「不法行為があった地」を管轄する裁判所に訴えを提起することを認めている。同号の規定の趣旨等にかんがみると,この「不法行為に関する訴え」の意義については,民法所定の不法行為に基づく訴えに限られるものではなく,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する侵害の停止又は予防を求める差止請求に関する訴えをも含むものと解するのが相当である。


     そして,判旨は,

    ・・・(中略)・・・。民訴法5条9号の規定の上記意義に照らすと,不正競争防止法3条1項の規定に基づく不正競争による侵害の停止等の差止めを求める訴え及び差止請求権の不存在確認を求める訴えは,いずれも民訴法5条9号所定の訴えに該当するものというべきである。



4 コメント

 
  1. 知的財産権訴訟に関する管轄についての平成15年民事訴訟法改正

    本件で争点となった

     不正競争訴訟による差止請求に関して,それが不法行為による訴訟として不法行為地の裁判所が管轄権を有するか
    という論点に関し,まず,知的財産権訴訟の管轄に関する平成15年民事訴訟法改正との関係について述べる必要がある。


     周知のように,平成15年の民事訴訟法の改正により,

    特許権,実用新案権,回路配置権,プログラムの著作物の著作権に関する訴訟

    → 東京地方裁判所・大阪地方裁判所の専属管轄
       (民事訴訟法6条)
    意匠権,商標権,著作者の権利(プログラムの著作物を除く),出版権,著作隣接権,育成者権,不正競争防止法2条1項の不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴え

    → これまでの管轄の他,東京地方裁判所・大阪地方裁判所にも管轄がある
       (民事訴訟法6条の2)


    ということになり,知的財産権訴訟に関しては,東京及び大阪地方裁判所への集中化傾向が進んでいる。

     ただ,改正民事訴訟法の下においても,本件のような「不正競争行為による差止請求権の不存在確認を求める訴え」は,民事訴訟法6条の2により,これまでの管轄(民事訴訟法4条,5条)の他にも東京ないし大阪地方裁判所にも管轄があるということなので,

     不正競争訴訟による差止請求に関して,それが不法行為による訴訟として不法行為地の裁判所が管轄権を有するか 
    というこれまでの論点に関しては,なおこれを論ずる実益がある。


  2. これまでの実務の傾向及び本判決の意義

     不正競争訴訟による差止請求が不法行為による訴訟として不法行為地の裁判所が管轄権を有するかについては,これを肯定する裁判例と,これを否定する裁判例とが存在したが,最近の実務の傾向としては,特許侵害物品の製造地のほか販売地(譲渡地)等も不法行為地として管轄を認める傾向にあり,商標権侵害標章を付した商品が転々流通する場合にもそれぞれの譲渡行為が行われた場所を全て不法行為地として管轄を認める傾向にある(松村信夫・民事法研究会「不正競業訴訟の法理と実務【第4版】56頁)。

     これを否定する論拠としては,本件における原審が述べるようなものなのであるが,本件では,最高裁として,これまでのこの争点に関して,肯定説を採るものとして解決させたことに意義がある。


以上