| 「F1観戦記2002−最終章ー」 ●メインディッシュが来るまでに 10月13日日曜日。決勝の日だ。トラブルさえなければたくまはポイン トを取れるはずだ。朝からそんなことばかり考えていたので、財布の 残金が2000円だってことは大した問題じゃなかった。残金よりたくま のポイントの方が重要である。 昨日予選を見たS字カーブを見渡せる地点に辿りついたのが11時頃。 前座レース、「フォーミュラドリーム」が始まる。数周も周らない内 にクラッシュ。後日朝日新聞を見たら、このクラッシュで一人首の骨 折ったらしい。明日のF1ドライバーを夢見て、参加した若者。明日 は病院か。切ない。回復をお祈りします。誰だか覚えてないけど。 そして「Fドリーム」は中止。次にシビックだかインテグラだかのレ ースが始まる。だかだか言いましたがこれはこれで面白かった。しか しF1決勝を目前にこんなもの見せられても、極力胃の片隅に追いや る前菜の如しである。こっちは急坂の途中に止まってサーキットを眺 めているので体勢がきついのだ。メインディッシュはまだか。 私の隣にはやたら陽気なブラジル人が観戦している。外人観戦者の中 でブラジル人は一番多かったように思う。彼らの陽気さと「通路に立 ち止まらないで下さい」を厳しい表情で連呼する警備員が対照的をな している。警備員はうるさいだけだったけど、ブラジル人達の陽気な 笑い声は1人で来ていた私の気分を少し楽しくさせた。 メインディッシュは午後2時半に始まった。 ●メインディッシュ 結論から言おう。さとうたくまは5位。よく頑張った。途中ルノーの 二台に抜かれて9位まで落ちたが、ピットストップの妙や、前を走っ ていたマシンがリタイヤしたりして、アレヨアロヨと言う間に5位ま で上がりそのままフィニッシュ!鈴鹿サーキットは歓喜につつまれた。 レースの興奮はその場限りのもので文字にしてもしょうがない。だか ら結果を以下に記して終わろう。 順位 No. ドライバー チーム トータルタイム 周回 平均速度 (km/h) 最高位 1 1 M.シューマッハ フェラーリ 1:26'59.698 53 212.644 1 2 2 R.バリチェッロ フェラーリ 1:27'00.205 53 212.624 1 3 4 K.ライッコネン マクラーレン・メルセデス 1:27'22.990 53 211.700 3 4 6 J-P.モントーヤ ウイリアムズ・BMW 1:27'35.973 53 211.177 3 5 10 佐藤琢磨 ジョーダン・ホンダ 1:28'22.392 53 209.328 5 6 15 J.バトン ルノー 1:27'00.657 52 208.591 6 7 7 N.ハイドフェルト ザウバー・ペトロナス 1:27'02.825 52 208.505 7 8 24 M.サロ トヨタ・レーシング 1:27'13.722 52 208.070 8 9 16 E.アーバイン ジャガー 1:27'33.269 52 207.296 7 10 23 M.ウェーバー ミナルディ 1:27'21.578 51 203.761 10 11 5 R.シューマッハ ウイリアムズ・BMW 1:19'00.991 48 212.015 2 17 P.デ・ラ・ロサ ジャガー トランスミッション 39 206.238 9 9 G.フィジケラ ジョーダン・ホンダ エンジントラブル 37 207.340 7 14 J.トゥルーリ ルノー メカニカルトラブル 32 209.471 6 11 J.ビルヌーブ BAR・ホンダ エンジントラブル 27 207.641 9 22 A.ユーン ミナルディ コースオフ 14 202.035 15 12 O.パニス BAR・ホンダ メカニカルトラブル 8 123.825 16 3 D.クルサード マクラーレン・メルセデス 電気系トラブル 7 200.453 3 8 F.マッサ ザウバー・ペトロナス コースオフ 3 200.031 13 ●忘れられぬ腰痛 レースが終わってサーキットのお土産屋をぶらぶらしながら余韻に浸 っていた。そんなことをしていても財布の2000円が増えるわけで もない。とりあえず名古屋まで出てお金をおろそう。土産は諦めた。 鈴鹿サーキット稲生駅につくと、そこには長蛇の列が出来ていた。も ちろん電車に乗る列だ。人気あるなあ、電車は。なんて冗談も出ない 程疲れていた。考えてみればレース観戦中(約一時間半)ずっと立ちっ ぱなしだったしそれ以前だってずっと苦しい体勢を強いられていた。 (急な坂道でポジション守っていたため)休まり知らずの一日だった のだ。腰が、腰があー。「もう限界です。上半身と下半身をつなぎと めていられません」腰がそう悲鳴をあげていた。 列に並ぶこと50分。やっと臨時改札についた。といってもまだ乗れ る訳ではない。「切符を拝見しまーす」…ん?切符はまだ買ってない ぞ!?私は臨時改札で臨時職員に聞いてみた。 「切符まだ買ってないのですけど」 「じゃあそこで買ってきてください」臨時職員は臨時切符売り場を指 差した。 「列出ちゃうんですけど…」 「また並びなおすしかないですね」 ころそうと思った。こいつをころして私は生きようと思った。そんな私の さっきを感じて臨時職員はするする逃げて行きやがった。一人で来ると いうことがこんなにも不利に働くなんて…。今度は泣きそうになった。 腰は痛いし、日は落ちているし、ここは三重だし。 とりあえず切符を買って、さっきころそうと思った臨時職員に再接近。 お願いですと拝んだら、通してくれた。きっとさっき立ってたから怖 かったのだろう。妙に勝ち誇った気分になり、気分が良かった。私は ものの5分の間に喜怒哀楽全ての感情を持った。こんなこと赤ん坊の 時以来だ。 臨時改札を通ってからも全然電車に乗れない。電車が20分に1本と かなのである。フル稼働してこれかよ!さらに腹立たしい事態が発覚。 これだけ電車が少ないのに「F1特急」なる完全指定席電車を走らせて いやがるのだ。指定席券をもっている客以外は乗せない。つまり立つ 客がいないのである。何を考えているのだ伊勢鉄道!そしてF1特急の くせにディーゼル列車とはどういうことなんだ伊勢鉄道! 結局並び始めてから、1時間50分かかって電車に乗った。立ってい るので列車が揺れるたびに腰が痛んだ。 ●野宿はいやだ 名古屋に着いたときはもう21時をまわっていた。新幹線で帰るし かない。残金は1000円以下なので、ATMを探した。ところがこれ が見事なまでにないのである。駅のATMコーナーでは私の口座のある みずほATMはシャッターがどっしり閉まっていた。日曜だからか。唯 一開いてるUFJでもおろせなかった。新幹線のチケットもカードで買 えない。八方塞がりだ。本気で野宿か。 私を野宿から救ったのはキャッシングだった。いつもは忌み嫌うキャ ッシングがこの時ばかりは神の使者として存在しているのかと思った。 キャッシング場を見つけたとき、さとうたくまが5位になった瞬間と 同じくらい嬉しかった。やった!俺も5位になったよ(家に帰れるよ)! のぞみは死にかけた私の腰をそのやわらかな座席で癒してくれた。の ぞみは速い。F1より速い気がした。私は時速300キロ以上の居眠り を楽しんだ。席があるってこんなに素晴らしいことだったんだ。 ●私は椅子になろう(エピローグ) 生まれ変わったら椅子になろう。そして多くの腰を休めさせててやる んだ。のぞみを降り、横浜線の緑椅子に腰を置きながらそう考えた。 この旅を通じて席の大切さを痛感した。席との戦いだった。ムーンラ イトながら、鈴鹿の自由席、伊勢鉄道。どれも私の腰を痛めつけた。 レースは面白かった。F1カーの走る姿は目に焼き付き、音は耳に残っ ている。だがその他のことどもはほかならぬ私の腰が記憶している。 ![]() おわり |