会報
【連載】 医療事故はなぜなくならないか (第2回)


メディオ代表 阿部 康一

連載 1回目で、「医療事故の現状」として、宮城県の 17病院で発生した事故事例を紹介した。今回は、医療事故が多発し、同様の事故を繰り返す日本医療の構造について考える。

2. 医療事故を繰り返す構造

2.1 診療報酬制度

日本の診療報酬制度は、いわゆる「出来高払い」であり、検査をすればするほど、薬を投与すればするほど、病院が儲かる仕組みになっている。そのために、患者の健康上必要のない検査、投薬、手術が、病院の経済的な理由の下に実施される。本来必要のない患者を入院させることにより、ベッドの稼働率を上げることもしばしばである。

このように必要のない医療行為が横行することによって、医療事故のリスクが増大する。さらに、本来必要な患者の検査が遅延したり、救急患者を受け入れるベッドの不足により「たらい回し」が発生したりという副作用が生じる。

また麻酔科医、放射線科医、病理医は非独立採算であり、自身が診療報酬を得ることはできない。したがって、病院経営上これらの科の評価は低い。例えば麻酔科医は、手術において患者の状態を管理する、いわば「手術の侵襲から患者を守る最後の砦」であるにもかかわらず、麻酔科医不足は放置されたままになる。そこで麻酔科医でない医者が麻酔をかけたり、麻酔科医が複数の手術をかけもちしたりすることによる麻酔事故が日本では発生しやすい。

2.2 医師・看護婦制度

医者であれば、少数の例外を除き、自由に科を標榜できる。例えば、内科が専門で小児を診る実力がなくても、「内科・小児科」と看板を出す医者は少なくない。整形外科技術のない内科医が、「美容整形外科」を標榜し、多数の被害を出した例もあるが、これは医師法違反に当たらない。

日本の大学医学部教育は、医学知識を優先し、臨床が軽視されている。そのため、医師国家試験を合格したばかりの「医者」の臨床経験は無に近い。また配属された研修医が的確に指導されるかというと、そうではないことが多く、研修医が当直を単独で担う救急指定病院は少なくない。このような杜撰な教育環境の下、研修医の誤診や治療ミスによる被害がなくならないのである。

医療関係者を処分する機関として、厚生労働省配下に「医道審議会」が存在する。しかし、猥褻行為等の破廉恥罪や診療報酬の不正請求による詐欺罪等により刑事罰を受けない限り、処分対象にはならないようである。また処分自体も有限期間の保険診療禁止がほとんどで、医師資格を抹消する処分は稀である。というのも「医道審議会」の多数は医療関係者によって構成されており、身内に甘い体質があるからである。乱診乱療で社会問題になった富士見産婦人科病院の院長は、民事裁判においてその責任が認められたにもかかわらず、「医道審議会」は処分を見送った。

昨年医療法が改正され、1948年に制定された「4対1」の看護職員配置基準が「3対1」に引き上げられた。しかしこれは、夜間 25名の患者を 1人の看護婦が担当することをよしとする、先進国と比較してかなり低い水準である。この低水準が多忙な看護婦を生み、看護婦の単純ミスによる重篤な患者の被害を生むのである。

ひとくちに「看護婦」といっても「准看護婦」と「正看護婦」の 2つの制度が存在する。准看護婦は、戦後看護婦不足を補うために制度化されたものであるが、最近の病院にとっては低賃金労働力として経営上なくてはならないものとなっている。また看護実務はほとんど違いがないのに、看護婦資格の有無により賃金格差が生じるため、差別を感じ不満を募らせる准看護婦が多い。この制度を一本化するという議論はあり、それによって看護婦の質を向上させることができるのであるが、日本医師会の反対により、膠着状態に陥っている。

2.3 隠される事故記録、医療の質情報

日本では、患者の病状や治療を記録するカルテを患者やその家族が入手する権利が法的に保障されていません。メディオはその権利の確立について、再三にわたり厚生省に意見書を提出してきました。

1998年 6月、「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」は、1年にわたる検討後、患者本人へのカルテ開示を、法律に基づいて医師に義務付けるよう求める報告書をまとめ厚生省に提出しました。つづく厚生省「医療審議会総会」で、カルテ開示法制化の審議がなされる中、日本医師会はカルテ開示法制化に反対し、独自のカルテ開示ガイドラインを発表。1999年 6月、ついに法制化は先送りされてしまいました。

また医療事故のほとんどは、病院によって隠されます。医師法は「異状死体の警察への届け出義務」を定めていますが、正直に事故後速やかに届け出る病院は稀です。都立広尾病院の消毒剤点滴事件のように、管轄責任のある東京都を含め組織ぐるみで医療事故を隠蔽する病院がほとんどです。この事件では、業務上過失致死・医師法違反・証拠湮滅等で院長や都衛生局副参事らが地検に書類送検されており、今後の展開が注目されます。

医者や病院の治療成績が日本では公表されないため、患者は医者や病院を選択できません。日本医療機能評価機構が 1997年から病院の機能評価を開始し、認定した病院は 370 にのぼるが、そのうち内容を公開しているのは 12病院にすぎない (2000年 9月時点)。しかも本機構は「適切に機能していることを評価する」のであって、医療の質を評価しているわけではない。当然、医療ミスは審査されない。米国医療機関認定合同委員会 (JCAHO) は、手術での合併症や患者の死亡率など治療成績を評価している。

<Medio News・・・2001. February>
自分の命は自分で守る!
医療への意識を高めることが事故に遭わない近道
 

<報告> メディオ弁護士満足度調査


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