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今回は、鑑定についてお話したいと思います。鑑定は、その内容の公正公平さ・時間・費用など、あらゆる点で医療過誤訴訟における問題が集中する場面です。
従来、鑑定において問題とされてきた点は、患者側からは何よりもその内容の公正公平さです。医学的に明らかにおかしな医師擁護的な鑑定は、一説によると約3割程度あると言われています。また、根拠がきちんと説明されていない不誠実なものや、経験のみに基づいた科学的でないものなどを含めれば問題のある鑑定はもっと多数あります。ここ数年、最高裁では不当な鑑定に依存しすぎた原判決を破棄して患者側が逆転する判例も少なからず出されています。特に下級審では、鑑定内容を十分に吟味せずに、結果だけに依存した判決が出される傾向があると思います。
裁判所サイドからみれば、鑑定は引き受け手がいないことと、時間がかかることが最大の問題点です。鑑定人を捜すだけで数ヶ月かかり、鑑定人が決まってから鑑定書を出してもらうまでにまた数ヶ月、ときにはそれぞれが1年近くかかる場合もありました。また、従来は、個別の事件を担当する裁判所がいわば一本釣りで鑑定人を探すというような方法で、裁判所として鑑定人の選任について制度的な対応はなされていませんでした。
裁判所は、長すぎる裁判への批判を受けて、長期裁判の代表である医療過誤訴訟について、その長期化の最大の原因である鑑定の改革に取り組みました。鑑定人経験者に話しを聞いたところ、鑑定人尋問で誹謗抽象的な尋問をされるのがいやだという意見が多数あったことを受けて、鑑定人尋問をなるべく行わないという運用をする裁判所が多数あります。また、今年中にも国会に上程される予定の民事訴訟法の改正案では、鑑定人には従来の方式による尋問ではなく、鑑定内容の説明について裁判所が質問し、その後、補充的に当事者が質問をすることに制度が変わります。
また、鑑定人の選任をしやすくするため、最高裁に医事関係訴訟委員会という組織を作り、各学会に働きかけて鑑定人の推薦をしてもらうシステムを作ろうとしています。こちらは、平成13年はじめからスタートし、実際すでに何件かが学会から推薦された鑑定人を選任しています(最高裁のホームページで情報を得ることができます)。
その他、現行法でできる鑑定の運用レベルでの改革も試みられていて、前述のカンファレンス方式(複数の鑑定人が、法廷で鑑定事項について意見を述べ議論を行った結果を鑑定人の陳述とする方式)の鑑定もそうですし、争点をしぼってのアンケート方式による鑑定なども試みられているようです。
しかし、上記のような傾向は、患者側弁護士としては賛成できない面も少なからずあります。まず、鑑定人を確保しやすくするために、鑑定人尋問を制限する方向は、あるべき医療過誤裁判の姿からするとまったく反対の方向です。鑑定人尋問は、鑑定結果の内容を吟味するための最良の方法です。これまでにも鑑定人尋問で不当な鑑定結果を覆して、正当な判決を得た事案はたくさんあります。医師、特に臨床の最前線にいる医師にとって負担があることはわかりますが、プロフェッションである医師にとって医療裁判を公正公平に行うための職業的な義務だと言っても言い過ぎではないと私は思います。
これを制限する方向の民事訴訟法の改正は賛成できません。カンファレンス方式も明らかに医学的におかしな意見を封じられるという利点もありそうですが、限られた場面で十分な鑑定人への尋問が行えるのか、鑑定人相互の力関係で意見が決まらないかなどの問題点がありそうです。アンケート方式も数だけの問題ではないのではないかということが懸念されます。
また、医事関係訴訟委員会も、学会による鑑定人選任手続きの透明化をどのようにはかるのか、また、地元医科大学からの推薦が進められていることなど、課題があります。鑑定人を早く見つけるだけではなく、適切な鑑定人が選ばれているか、鑑定人の鑑定結果が学会としても保証できるだけの医学的水準に達したものであるかなど今後の検証課題もたくさんあると思われます。裁判所サイドも学会推薦だからというだけで信用するのではなく、内容を吟味する姿勢を持つことが必要です。
本当は、鑑定など要さずに当事者の主張立証で、裁判所が適切な心証を持つことが一番よいのです。鑑定に問題のある現状を前提にすると、裁判所も当事者も安易に鑑定に頼らないことが必要ですし、どうしても鑑定が必要な事案についても、鑑定内容を批判的に検討できるだけの力が裁判所と当事者に求められていると思います。