年度別index

 
1999年度 シンポジウム インデックス
事故からみえる日本医療の現実 医療被害の予防と救済
  1. プログラム
  2. シンポジウム 講演・テーマディスカッション
    1. 医療事故と患者の権利 (弁護士 鈴木 利廣)
    2. 医学情報や保険取扱いと医師の行動 (弁護士 安原 幸彦)
    3. 麻酔 悪性高熱症による死亡事故 (メディオスタッフ 阿部 康一)
    4. 麻酔事故の背景 (麻酔科医師 浅山 健)
  3. シンポジウム 資料 (症例研究会サマリ)
    1. SIDSに関する判例報告 (弁護士 石井 麦生)
    2. 最近の医療過誤判例の動向 (弁護士 目々澤 富子)
    3. 内視鏡事故について (弁護士 堀 康司)
    4. 「ケアレスミス」による医療事故 (日本大学医学部法医学教室 教授 押田 茂實)
  4. 医療過誤訴訟 統計データ
    1. 医療過誤訴訟事件の処理状況
    2. 全国の地裁・簡栽での医療過誤訴訟原告勝訴率の推移
  5. アルバム
内視鏡事故について
弁護士 堀 康司
   

<要旨>

  1. 内視鏡の用いられる分野毎で、事故(偶発症)の生じる確率には大きな格差が認められる。 患者に対してこの格差を意識したリスク説明がなされるべきであるが、その前提として事故・偶発症の実数を把握する必要がある。
  2. しかし、内視鏡事故(偶発症)に関する全国的な調査は、他の医療分野と比べれば幅広く実施されているものの、それ以上に内視鏡に関する技術の進歩が早いため、最新分野においてその危険性をリアルタイムで検討するための統計資料が欠けている。
  3. 内視鏡に関連する訴訟は近年増加しており、医療機関の責任を認める判決も少なくないが、偶発症総数のうち何らかの形で医療機関の責任が問われたものは約1%に過ぎず、内視鏡「事故」として扱われるべき症例の相当数が表面化することを免れているか、若しくは統計上の数値から抜け落ちていると推測される。

第1 報告の目的

    近年医療分野における内視鏡の発展はめざましいが、反面で、内視鏡に関連する事故についての報道や裁判例も少なくない。 そこで内視鏡事故に関する現況を把握することを目的として、統計資料や裁判例等を検討した。

第2 内視鏡の発展と現状

    日本では、昭和30年代から消化管内視鏡による胃疾患の診断を中心として本格的に内視鏡が利用されるようになった。 昭和40年代に入って大腸や十二指腸の診断にも応用が進み、昭和50年代には診断のみならず生検や治療を目的としての利用も普及した。 現在では消化管内視鏡、腹腔鏡、尿道鏡、気管支鏡、縦隔鏡等様々な種類に分化し、色素や超音波等を併用する機種も開発されている。 特に治療分野への応用はめざましく、食道癌や乳癌の摘出、脳腫瘍の治療、胃瘻の造設など、従前は外科手術の領域とされた分野へ急速に普及している。
    内視鏡を用いる一般的なメリットとしては、従前は直接見ることができなかった患部を直に観察できることや一般に侵襲が少ないとされること等が挙げられる。 デメリットとしては、視野が狭く触覚も得られないこと、技術の歴史が浅いこと、急激な普及で術者の教育が遅れがちであること等が挙げられる。

第3 「偶発症」という用語

    一般に、医学的な診断・治療行為から予期せぬ結果が生じたケースを「偶発症」と表現するようである。 本来「事故」と表現されるべきケースを覆い隠す可能性のあるこの用語について筆者は強い違和感を感じるが、統計資料などとの整合性をはかるため、以下、偶発症という用語を使用した。

第4 消化管内視鏡と偶発症

  1. 統計の概要

    この分野では5年ごとにアンケート方式で全国調査が実施されている。 最新の資料である金子榮蔵他「消化器関連の偶発症に関する第2回全国調査報告−1988年より1992年までの5年間」(Gastroenterological endoscopy 37:642-52,1995)を用いて分析を行った。 なお、調査した限り、現時点では第3回調査の結果についての論文は見当たらなかった。 おそらく調査開始から公表まで3年程度のタイムラグがあると思われる。

    この調査報告は、全国の消化器内視鏡学会評議会員、指導医、認定指導医所属施設、消化器病学会評議員又は指導医などが所属する施設並びに消化器を標榜する大学附属病院の内科及び外科教室(合計1374施設、2006名)に対し、'88/1/1〜'92/12/31の5年間に生じた一般内視鏡(検査、治療を含む)及び腹腔鏡の偶発症をアンケート方式で調査した結果をまとめたものである。 全体の回収率は 50.0%。 大学病院からは 97.8% の回収率でありその実態はほぼカバーされていると思われるが、逆に一般病院や医院からの回収率は低率であった。

  2. 機種別の危険率の比較

    この調査報告に挙げられた内視鏡の機種別の検査総数、偶発症数、死亡数を用いて、次の値を算出した(表1)

    • 偶発症頻度:検査総数に対する偶発症の発生率
    • 死亡頻度:検査総数に対する死亡症例の発生率
    • 偶発症頻度倍率:上部消化管スコープの偶発症頻度を1として、他の機種の偶発症頻度を比較した倍率
    • 死亡頻度倍率:上部消化管スコープの死亡頻度を1として、他の機種の死亡頻度を比較した倍率

    消化管内視鏡としてもっともポピュラーである上部消化管スコープ(いわゆる胃カメラ)と比較した場合、測視十二指腸スコープを用いたEST(内視鏡的乳頭括約筋切開術。 十二指腸内視鏡下に、造影カニューレを用いて胆管を選択的に造影し、高周波電気ナイフを胆管に挿入して乳頭括約筋を切開する)では偶発症頻度で13.4倍、死亡頻度で85.1倍という高い倍率が認められる。 同様に腹腔鏡を用いた胆嚢摘出などでも高い倍率となっている。

    このように、一概に内視鏡と称しても、用いられる機種によって危険性には相当に大きな開きがあることがわかる。

  3. 前処置の危険性

    この統計によれば、全体の検査治療総数約800万件のうち、偶発症総数は5205件。 そのうち前処置による偶発症は一般内視鏡で2011件、腹腔鏡で178件にのぼる。 消化管内視鏡を使用する場合には、器具操作の前処置としてキシロカイン等の麻酔薬を咽頭部などに投与することが多い。 内視鏡による事故というと体内に挿入された内視鏡の手技ミスによって消化管に穿孔を生じさせるようなケースが典型的に思い浮かぶが、意外にも内視鏡使用に至る以前の処置に高い危険性が潜んでいることが分かる。

  4. 紛争発生率

    この統計では、偶発症発生時に患者側から何らかのクレームがついたケースが72例報告されている(一般内視鏡64例、腹腔鏡8例)。 そのうち示談や見舞金による解決を見たものは37例、裁判まで持ち込まれたものは10例である。

    偶発症は全部で5205件報告されており、単純なクレームを越えて医療機関の責任が問題とされたケースは47件(示談・見舞金による解決数+裁判数)にすぎない。 これは偶発症全体のわずか0.9%である。

    しかし一般内視鏡の前処置偶発症による死亡ケースだけでも129件が報告されていること等を鑑みた場合、医療機関の責任が問われたケースの数はいかにも少なく、実際には相当数の医療過誤事案について責任が問われることなく(場合によっては遺族らも気付かないまま)放置されているか、紛争となったケースの実数が統計上の数値に現れていないのではないかという印象を持たざるを得ない。

    なお、医療機関側弁護士からは、次のように、近年内視鏡に関する紛争が増加していることが報告されている。

    「筆者らは弁護士として医療事故紛争を目にする機会が多いが、最近その中で一番多いのは検査も含めた内視鏡による偶発症に関するものである。 内視鏡治療の中で特に目に付くのは、消化管ポリペクトミーによる穿孔、腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)に伴う偶発症である。」

    (加藤済仁他「内視鏡治療と医療事故」消化器内視鏡6-4-449,1994年)
表 1 - 内視鏡偶発症統計
検査総数 偶発症数 偶発症頻度 偶発症頻度倍率 死亡数 死亡頻度 死亡頻度倍率
上部消化管スコープ 6,346,001 3,958 0.06237% 1.0 47 0.000741% 1.0
側視十二指腸スコープ 273,284 282 0.10319% 1.7 24 0.008782% 11.9
  ERCP 209,147 245 0.11714% 1.9 14 0.006694% 9.0
  EST 15,858 133 0.83869% 13.4 10 0.063060% 85.1
大腸・小腸スコープ 1,346,469 688 0.05110% 0.8 14 0.001040% 1.4
胆道スコープ 20,486 20 0.09763% 1.6 1 0.004881% 6.6
超音波スコープ 82,189 7 0.00852% 0.1 0
腹腔鏡検査 28,050 50 0.17825% 2.9 1 0.003565% 4.8
腹腔鏡胆摘 12,465 200 1.60449% 25.7 1 0.008022% 10.8
腹腔鏡その他 950 5 0.52632% 8.4 3 0.315789% 426.4
腹腔鏡全体 41,465 255 0.61498% 9.9 5 0.01206% 16.3
※参考
気管支鏡('96) 92,224 1,119 1.21335% 19.5 6 0.00651% 8.8

第5 気管支鏡と偶発症

  1. 統計の概要
    表 2 - 気管支学会統計 (1996)
        頻度
    総件数 92,224  
    偶発症総数 1,119 1.21335%
     びまん性疾患 285  
     気胸 130  
      胸腔ドレン挿入
      必要としたもの
    44  
     肺炎 66  
    死亡 6 0.00651%
        頻度
    肺門部・末梢部
    の生検総数
    42,443  
     輸血を必要とする出血 15 0.03534%

    金子昌弘「日本における気管支鏡の現状」(気管支学20-3-202(8))に基づいて検討を行った。 この調査は1996年の気管支鏡使用状況を全国1017病院にアンケート調査し、448病院から回答を得た結果に基づくものである(回答率44.1%)。 概要は表2のとおりである。

  2. 気管支鏡検査の危険性

    気管支鏡使用検査・治療総数は1年間で9万2224件が報告されたが、うち副作用(気胸、肺炎、キシロカイン中毒等)の件数は1119件(1.2%)、死亡件数は6人(出血4人、呼吸不全1人、心不全1人)であった。 死亡事例としては、気管支鏡で肺の組織を切り取った後出血が止まらなかったケースや検査前から出血があり、気管支鏡で出血場所を確認中に死亡したケースなどが報告されている。

    このデータに従って筆者が計算した気管支鏡検査全体の偶発症頻度は1.21%、死亡頻度は0.00651%であった。 年度が違う等単純に比較できないとしても、消化管内視鏡と比較した場合、相当に高率であり(対上部消化管スコープ偶発症頻度倍率19.5倍、死亡頻度倍率8.8倍)、気管支鏡検査は相当の危険性を伴う施術であることが分かる(表1参照)。

第6 内視鏡に関連する裁判例 

  1. 対象

    公刊物に掲載された昭和50年以降の裁判例に中心に15件を検討した。 一部は公刊物未登載のものがあるが、これらは新聞報道による。 概要は表3のとおりである。

  2. 検討結果

    内視鏡診断・治療の進歩と拡大を示すように平成に入ってから裁判例が増加している。

    内視鏡の普及状況と同様、裁判例の現れた施術の種類も多岐にわたり、明確な傾向はつかみにくいが、前投薬とERCPに関連する事案がやや目立つようである。

    認容判決は少なくない(但し棄却事例は公刊物に掲載されなかったり報道されないという傾向はある)。

    内視鏡誤操作による穿孔等のケースでは、具体的にいかなる操作によって損傷が生じたかを特定できない場合であっても、損傷の生じた付近まで内視鏡の操作が到達していることや損傷が生じる要因が他に見受けられないこと等の周辺事実を積み上げてそれなりの蓋然性に達した場合には、誤操作による損傷であると認定する傾向が見受けられる。

表 3 - 内視鏡事故裁判例
ID 判決日
裁判所
結論

事故時期
被害者
医療機関
施術の種類

事案の概要
訴訟経過

判決内容等

備考
1 昭和52年08月29日
東京地裁
棄却→確定

昭和38年9月
66歳女性
国立東京第二病院
直腸鏡検査

長期の下痢症状の原因究明のため、直腸鏡検査。4日後から身体各所の疼痛などが生じ、約20日後には両下肢麻痺。身体障害者2級。
直腸鏡検査時に第12胸椎を圧迫し骨折及び検査時の恐怖感が原因で下肢麻痺が生じ、その後適切な処置がなされなかったために悪化したとして約1000万円の支払をも止めて提訴。 被告は、第12胸椎に直腸鏡が達することはあり得ず、麻痺は心因性のものであると反論。

直腸鏡が第12胸椎に達することはあり得ず、圧迫骨折は骨粗鬆症によって検査前から生じていた可能性があり、検査と骨折の因果関係を否定。 同圧迫骨折から本件のような両下肢麻痺が生じる可能性も極めて少ないとして、骨折と麻痺の因果関係も否定。

判時895・94
2 昭和55年05月28日
岐阜地裁
約2000万円認容→控訴

昭和47年5月
32歳男性
国立療養所岐阜病院
縦隔鏡検査

レントゲン撮影及び胸部断層写真により、縦隔が広く縦隔リンパ腺腫等の可能性があるとして、縦隔鏡検査受診。その後嗄声となり、左反回神経麻痺による声帯麻痺と診断。
縦隔鏡検査によって反回神経損傷され嗄声となったとして約2000万円の賠償を求めて提訴。 被告は、検査時の剥離は反回神経まで及んでおらず、過失はないと反論。

具体的な不手際を確定することはできないものの、検査前には認められなかった嗄声が検査後に発症しており、本件検査でも反回神経に触れる可能性が否定できず、その他に声帯麻痺の原因とされる事由(サルコイドーシス、胸腺腫瘍、縦隔腫瘍、精神的原因)が認められない事を理由に、検査と嗄声の因果関係を認定。 縦隔鏡検査の合併症として反回神経損傷が報告されており、丁寧に操作すれば回避できるとされていることから過失も認定。

判時987・98 控訴審名古屋高裁昭和56年10月29日判決は、原審取消棄却。
3 昭和56年10月29日
名古屋高裁
原審取消棄却→上告

昭和47年5月
32歳男性
国立岐阜病院
縦隔鏡検査

原審参照
原審被告は、検査後病院を退院したときに嗄声は認められておらず、不定愁訴の多い本件患者の嗄声はヒステリー性の可能性も高いと主張。

検査後、20日ほど経ってから初めて嗄声を訴えていること、本件検査では剥離範囲が狭く出血などの異常も生じなかった事などから、検査が原因であるとは認められないと認定。 反回神経麻痺は原因不明のものが少なくとも40%は存在するので、検査以外に原因が認められないとしても、それだけで検査が原因だとは認定できないと判断。

判時1040・61 原審岐阜地裁昭和55年5月28日判決は請求認容。
4 昭和60年12月19日
大分地裁
一部認容約3億円→控訴

昭和54年4月
67歳男性
九州大学温泉治療学研究所
ERCP

人間ドック受診し、テレパーク法(造影剤経口投与)で胆嚢を造影できず、胆石症の疑いが生じ、DIC検査(造影剤点滴投与)を実施したが造影できなかった。 そこでERCP検査実施。しかし胆管には造影剤注入できず、膵臓のみ造影して検査中止(所要時間50分)。 検査後1時間ほどで腹痛が生じ、翌日腹膜炎の疑いで開腹手術がなされたところ、十二指腸に直径1cmの穿孔。その翌日急性腎不全などを発症し、1ヶ月半後に死亡。 患者は新聞社社長、国際ロータリークラブ南九州地区ガバナーで年収約7000万円
遺族が4億円超の賠償を求めて提訴。新聞社も社葬費700万余りの支払を請求。 被告は、穿孔の発見されたところまでファイバーを入れていないので穿孔はファイバー操作によるものではなく、交通事故などの鈍的外傷によるもの、死因は腎不全であって、穿孔による腹膜炎とは無関係と反論。 同時に、患者が検査後医師の指示に反して帰宅しようとした、絶食の支持を無視したことなどを理由に過失相殺を主張。

スコープ操作と腸管の運動から穿孔が生じた具体的機序は不明としながらも、検査後まもなく腹痛が生じ、翌日比較的新鮮な穿孔創が発見されたこと、乳頭開口部から下十二指腸角付近までは数pしかなく、先端方向を確認しにくい側視鏡の先端が穿孔部付近に届くことは十分あり得たこと、他に穿孔の原因となる事由は全く見当たらないことなどから、スコープ操作による穿孔と認定。 患者は医師の指示に反して安静保持せず水分を摂取したと認定したが、右行為がなくとも腹膜炎発症・汎発化は回避できなかったと判断し、因果関係も肯定。急性腎不全が死因

判時1180・7 判タ579・26 控訴審福岡高裁平成2年4月17日判決は約1億4000万円に減額。
5 平成02年04月17日
福岡高裁
約1億4000万円→上告

昭和54年4月
67歳男性
九州大学温泉治療学研究所
ERCP

原審参照
原審参照

過失・因果関係につき原審同様の判断。 年収約7000万円から年間約4200万円の税金などが控除されることを加味し、生活費を55%と認定。さらに稼働年数を6年として逸失利益を計算。 原審では、終生会社役員であったはずとして、稼働年数を平均余命と同じ12年(但し後半6年は収入半減)としていた。 過失相殺3割。

訟務月報37巻5号909頁 原審大分地裁昭和60年12月19日判決。
6 平成03年07月25日
東京地裁
棄却→確定

昭和62年4月
52歳女性
国立病院医療センター
気管支鏡による肺生検

腎機能不全・重症呼吸不全のため別の病院に入院、グットパスチャー症候群の疑いでセンターへ転院。診断確定のため経気管支肺生検を実施。その際直径数oの隆起性小病変を発見し、予定外の肺生検を実施したところ、気管支動脈を破り出血、死亡。
病変が動脈であることの予見義務、生検の必要性・相当性、生検実施のインフォームドコンセントを欠いたことを争点として、約4500万円の支払を求めて提訴。 被告は、極めて稀な奇形のため動脈予見は不可能、病変が悪性のものである可能性があり、患者が再度の検査に耐えられないおそれがあったので一度に生検を実施したことはやむを得ないと反論。

本件病変は先例も見当たらない奇形であって、血管である事を予見することは不可能として過失を否定。 生検は予定外であったが、緊急性があり、個別に生検実施の説明をせずに生検を実施したとしても説明義務には違反しないと判断。むしろ生検実施しなければ注意義務懈怠のそしりを受けるおそれがあったと言及。

判タ777・187 判時1426・94
7 平成03年11月25日
東京地裁
棄却→控訴

昭和59年4月
男性
国立東京第二病院
胃内視鏡検査・胃生検

腹痛のため入院して原因解明のための検査と治療をうけることに。 入院中の5月9日午前11時ころ、胃内視鏡検査・胃生検実施。許可を得て一時帰宅したが、帰宅後の午後2時ころ及び午後4時30分頃下血し、午後7時に病院へ戻った。その後吐血と下血のため貧血となり、輸血を受け、6月16日退院したが、6月20日ころから倦怠感などを感じ、検査の結果、非A非B型肝炎に罹患したこと判明。平成2年に肝硬変と診断された。 被害者は消化器外科開業医。 内視鏡実施した医師は、日本消化器内視鏡学会認定指導医。
胃内視鏡誤操作(嘔吐反射にも関わらず検査続行・アングルを固定したまま内視鏡を引き抜き胃内壁損傷)又は胃生検(血管部から検体採取によって血管損傷)に因って出血し、その後の止血措置も懈怠したとして、東京地裁に4億円の賠償請求。 被告は、吐血下血は嘔吐反射によるマロリーワイス症候群が原因、慢性肝炎は元々罹患していたB型肝炎・アルコール性肝炎の悪化か、被告病院退院後の別病院における胆のう摘出開腹手術やその際のフローセン麻酔が原因、と反論。

被告病院の輸血によって肝炎に感染し、慢性肝炎となったとの因果関係を肯定。 しかし、吐血、下血はマロリーワイス症候群が原因と推定し、検査時の胃内壁損傷によるものであることを否定。 医師の内視鏡・生検の手技に不適切な点はなく、止血が不適切とも言えないとして、請求棄却。

判時1417・83 判タ777・168"
8 平成05年03月05日
東京地裁
棄却→控訴

昭和62年12月
59歳男性
東京女子医大附属成人医学センター
胃内視鏡前投薬

定期健康診断で食道穿孔ヘルニアと診断され、内視鏡検査を受診 キシロカイン4%溶液20ccでうがいをし、その20分後にキシロカインビスカス5ccを服用して横臥し、検査を始めようとしたところ、開口して鼾をかき始め呼名に応答せず、蘇生が試みられたが心停止、呼吸停止に陥り、救急車で救急センターへ搬送された先で死亡確認。 患者は前年同じ医療機関で同様に検査を受けたが、その際にはキシロカインに対して異常な反応はなかった。
キシロカインを過剰投与し局所麻酔中毒で死亡したとして提訴。 被告は、局所麻酔中毒の典型的な経過とは異なる症状を示しており、キシロカインとは関係ないと反論。

キシロカインを基準量より多量に投与したことは認められるが、うがいのため吐き出した量も多いこと、口腔や咽頭からの吸収は遅いこと、経過が典型症状と異なること等を理由に因果関係を否定。 なお、前年の検査で異常がなかったこと、当該医療機関において同様のキシロカイン使用によって他に事故が生じていないことから、過失についても否定。

判タ883・238(参考) 控訴審では、東京高裁平成06年10月20日判決が原審取消一部認容判決。
9 平成06年10月20日
東京高裁
約2900万円認容→上告

昭和62年12月
59歳男性
東京女子医大附属成人医学センター
食道内視鏡前投薬

原審参照
原審同様 新たに鑑定がなされた模様

時間経過等からキシロカイン投与が最も疑わしく、他の原因による可能性が少ないことから、投与と死亡の因果関係を認定 キシロカインが基準量以上に投与されたことから、局所麻酔中毒発症の可能性を予期して対応すべき義務があったのにこれを怠ったと認定 気管支喘息などの素因が関与したことを理由に過失相殺を類推して50%減額。

判タ883・231 判時1534・42 原審(東京地裁平成05年03月05日判決)は請求棄却。
10 平成07年01月26日
仙台地裁
約4800万円認容

昭和63年3月
57歳男性
東北労災病院
ERCP

病院でERCPを実施したが、検査直後から痛みや吐き気。別の病院に転送されて手術を受けたが、2ヶ月後、急性心不全で死亡。
6840万円の賠償を求めて提訴。

担当医師はERCP検査後に予想されるすい炎発症に備え、患者の状態を注意深く観察する義務があったのにこれを怠った、と認定。 そのためすい炎が悪化して死亡したとして因果関係を肯定。

平成7年1月27日朝日新聞の報道による。 公刊物未登載。
11 平成08年12月13日
福島地裁
4200万円

平成2年10月
60歳女性
福島県立会津総合病院
ERCP

食欲不振のため、同病院を受診し、精密検査のため入院。ERCP実施直後腹痛などの症状。重症型急性すい炎、敗血症のため、多臓器不全で死亡。


検査に手間取り、患者に多大な負担をかけたため急性すい炎を起こす蓋然性が高かったが、精密な予防措置をとらずに食事を与えたことがすい炎の重要な原因となった、と判断。

平成8年12月13日共同通信による。 公刊物未登載。"
12 平成10年02月23日
大阪地裁
一部認容約8000万円→控訴

平成5年9月
63歳男性
大学附属病院
腹腔鏡下S状結腸切除術

検査入院し、S状結腸にがん発見。開腹手術ではなく、腹部に開けた穴から腹腔鏡を入れて切除する手術を実施。術後、腹部に膿がたまるなどし、2度開腹手術がなされたが、多臓器不全、術後縫合不全で死亡。 
手術技法が未確立であることの説明義務違反、開腹手術を選択すべきだった、手術中の手技の過誤、術後管理の過誤等を主張して、大阪地裁に1億0300万円の賠償を求めて提訴。 被告側は、十二指腸の傷は手術ミスではなく、ウィルスや他の原因でできたと反論。 大阪地裁平成10年2月23日判決は8000万円の賠償を命令。

穿孔に至る機序が十分に明らかではないとしても、当時腹腔鏡下胆嚢摘出術に関して電気メス使用時意外なところに通電して遅発性の損傷が生じる危険が指摘されていたこと、穿孔部位と電気メスによる焼灼部位の一致、他に電気メス以外に穿孔の生じる特段の原因が認められないこと等から、本件手術でも意外なところに電流が飛んで穿孔が生じた可能性が高い、と認定し、手技の過誤を肯定。

判タ974・187
13 平成10年03月23日
神戸地裁
1億0700万円認容

平成2年3月
9ヶ月男児
神戸大学病院
腎臓狭窄部を内視鏡で切開

腎臓の狭窄部分を内視鏡で切開する手術に際し、内視鏡の視野を確保するためにかん流液6リットルを使用したが、かん流液が体内にあふれて呼吸困難に陥り、術後、脳障害や手足の麻痺などの後遺症残存。
国は、かん流液は腎臓の組織全体から浸透して徐々に体内に吸収されたので手術中に発見することは困難だった、と反論。

乳児の手術で液が流出することを予測できたのに、腹部やわき腹を触るなど丁寧な確認を怠った、適切な処置をしていれば脳障害を回避できた可能性は強い、と認定。

平成10年03月23日共同通信の報道による。 公刊物未登載。"
14 平成10年07月16日
千葉地裁
2750万円認容

平成6年6月
71歳男性
船橋市内個人病院
内視鏡による大腸ポリープ切除

内視鏡を用いた大腸ポリープ切除手術の際に、結腸が傷つき、胸や肺に空気がたまる状態となって、まもなく脈拍停止。手術を中断し別の病院に転送したが意識戻らず、1週間後に死亡。
千葉地裁に6100万円の賠償を求めて提訴。

手術を行った医師は患者に対する適切な監視をするという注意義務を怠った、と認定。

平成10年7月16日読売新聞の報道による。 公刊物未登載。
15 平成10年08月07日
札幌高裁
7009万円認容

昭和63年4月
41歳男性
北海道社会保険中央病院
食道内視鏡検査

のどに異物感を感じ、食道内視鏡検査を受けた。 翌日呼吸困難となり緊急入院し、喉の切開手術を受けたが、気管支成敗炎で死亡。食道に穴が開き炎症・化膿。
8600万円の賠償を求めて提訴。

切開手術までに、X線で胸を検査していれば食道の炎症を予測できたのに早期に適切な検査、診断を怠った、と判断。

平成10年8月7日、毎日新聞の報道による。 公刊物未登載。 原審札幌地裁平成6年4月、棄却判決(公刊物未登載)。 内視鏡検査は、熟練した医師が細心の注意を払っても数%の確率で穴を開けてしまう、その後の治療も医学的にやむを得ないものであって過失なし、と判断。

以上