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DCの上院議員、下院議員のナゾ




 「この星のどこかに、領土の広さが67平方マイルの島があります。この島は植民地で、世界の列強のひとつが支配しています。原住民は大部分が黒人です。植民地の支配者はほとんどが白人です。
 「20世紀の趨勢に従い、本国は植民地にわずかな自治をみとめましたが、この限られた自治は、財政にはおよんでいません。原住民たちは自分たちの金銭の管理ができるとは思われていないからです。現地の議会は、財政に関して提言をすることはできますが、現地の税収を支出することを認める権限は、もっぱら本国の議会が握っているのです。
 「原住民たちは、地方税のほかに本国の税金を払わなければなりません。所得にかかるこの税金の税率は、本国の市民たちが自分たちで支払うことを決めたものと同じです。しかしながら、本国の市民たちとは違い、原住民たちは課税をしたり税率を決めたりする本国の議会の議員を投票して選ぶことができないのです。」(Schrag, Philip G. Behind the Scenes. Washington, DC: Georgetown UP, 1985.)

 これは、1985年に出版された、ワシントンDCの自治権などについて書かれた本の一節からの抜粋です。「本国」というのはアメリカ合衆国のこと、「植民地」というのはワシントンDCのことです。出版から20年近くの年月が流れていますが、上に引用した状況は現在でも基本的には変わっていません。やはり、DCからは、他の州と同じようには、上院・下院へ議員を送り出すことはできないということなのです。

 アメリカでは、州が違うというのは国が違うといってもよいほどで、法律なども、連邦に権限のある一部のことを除けば、基本的に、それぞれの州に決定権があります。たとえば、各州はそれぞれ自分たちの憲法を持っていますし、死刑を認めるかどうかも州によってまったく違います。ワシントンDCは連邦直轄の特別区であって州ではありませんが、アメリカ合衆国という国の中にあって自分たちのことを自分たち自身で決められない、という状況はかなり異常だともいえるわけです。

 それでは、どうして、選出できないはずの上院・下院の議員の候補者のポスターが街のあちこちに貼られているのでしょうか。選管のホームページをみてみると、DCにおける選挙の歴史というコーナーがあって、各種の公職について説明がされています。下のほうに上院議員(U.S. Senators)・下院議員(U.S. Representative)の欄がありますが、ここに、これらの2つの公職は、連邦の「国会」議員ではなくて、住民投票(イニシアティブ)によって創設された、DC独自の公職だということ、DCの予算からは俸給も何も出ないけれど寄付金を募ること(fund raising)はできること、など書いてあります。1990年に最初の選挙が行われました。

 DCの住民の間では、コロンビア特別区(District of Columbia)を州に昇格させてニュー・コロンビア州(State of New Columbia)にしようという気運がありますが、連邦議会には送り出せない「上院議員」「下院議員」の制度もその一環なのですね。

 前回、ポスターのなかにヒントがあると書きましたが、右の写真をもういちどみてください。

 「DCの市民に平等を」と書かれています。

 ちなみに、DCの「上院議員」「下院議員」の数は、DCが州だった場合を想定して決められています。上院議員は前回お話ししたとおり各州2名ですから、DCの「影の」上院議員の数も2名。「影の」下院議員は1名です。

 アメリカの下院は議員定数435名で、これを人口比で各州に割り振ることになっています。算定の基礎となるデータは、10年に1度行われる国勢調査で明らかになった人口で、最近では2000年に国勢調査が行われました。だいたい60万人に1名の下院議員が割り振られるということになっていて、特別区の人口は57万人ちょっとなので「下院議員」は1名ということになるのです。
 
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 それでは、DCの市民の声がまったく連邦議会に反映されないのか、というとそうではなくて、不十分ながらそのための制度はあります。1970年に「コロンビア特別区選挙法(District of Columbia Election Act)」が改正され、DCの住民たちも自分たちの代表を下院に送ることができるようになりました。これが下院準議員(Delegate to the House of Representative)で、れっきとした連邦の公職です。最初の選挙は1971年に行われました。

 なぜ不十分なのかというと、他の州から選出される正規の下院議員と違って、下院の議場での投票権がないからです(委員会での投票権はあります)。

 曲がってしまって、ちょっと見づらいですが、このポスターの候補者が現職の下院準議員です。彼女が連邦下院へ出かけていってDCの市民の声を届ける、というわけです。


 なお、冒頭で引用したDCの自治権については、(財)自治体国際化協会のホームページにワシントンDCの行財政改革と自治権の喪失というレポートがありますので、ご覧になってみて下さい。1998年1月のレポートですので、その後、現在の市長に交代したりと、状況に変化がありますが、DCの成り立ちやその歴史などが簡要にまとめてあります。このあたりの経緯については、今回の市長選のこととも合わせてまた後日ご紹介したいと思っています。

 それでは、またね。


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