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| ★街中みんな「うぐいす餅」★ 4月のはじめのある朝のこと、アパートの回りの様子が少し妙な感じになっていました。そんなにほったらかしているわけでもないのに、車の汚れ方がひどい。道路も、車も、うっすら黄緑色に粉を吹いているようで、アパート全体が「うぐいす餅」になってしまったようです。 |
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![]() そういえば、のどと鼻の間がムズムズ。くしゃみもよく出る。「きっと気候の変化や引越し疲れでカゼでもひいたんだろう」くらいに思っていたのですが、いっこうに「カゼ」が治る気配はなく、かといって微熱が続いて体がだるいというようなこともない。 いったい何なんだろうとあたりを見回してみて、犯人(?)の見当がつきました。ノースカロライナはマツの多い州で、州の木はマツです。日本で毎年スギ花粉症に苦しんでいる茶太郎などは、引越し前に、「マツの花粉症になったらどうしよう」とずいぶん心配していたのです。ところがどっこい、茶太郎のほうは何ともない(おまけにスギ花粉症も出なかった!)のに、私のほうがマツの花粉症を発症してしまったのでした。グシグシ、ウー・・・。 |
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★あれ、葉が3本?★ 花粉は部屋の中にも網戸ごしに入り込んできていて、出しっぱなしにしてあった書類などもザラザラしています。もちろんパティオに出してあったテーブルなんて、拭いてみるとふきんが真っ黄色。拭いても拭いてもすぐに粉を吹いてしまうので、花粉攻撃が治まるまでの間、たたんで納戸にしまうことにしました。 「そうか、コイツが犯人か」と、落ちていた枯れ葉を何気なくつまんで見てみると、葉が3本あります。・・・あれれ、松葉って2本1組じゃなかったっけ。長さも日本で見ていたのより長い感じだし、そういえば松ぼっくりもずっと大きい。 さっそく実家にメールを出して、庭のマツの木の葉の長さと本数(念のため)を見てもらうと、2本組で長さは13センチくらいということでした。ダーラムのアパートの回りに生えているマツの葉は、あれこれ見てもどれも3本組、長さは20センチほど。これまで、「マツ」といったら「マツ」で、アカマツだとかクロマツだとか、細かい種類のことまで考えたことなどありませんでした。でも、これも何かの縁ということで(花粉症なんて、ありがたくない出会いですが)、もう少し家の回りのマツの木について調べてみることにしました。 |
| アメリカへ来て以来、何かにつけてインターネットのお世話になっていますが、こちらでいつも感心しているのが(いや、インターネットなんだから、アメリカに来てみなくても日本でも感心できますね、そういえば。失礼しました)、大学や政府関係などの公的なサイトの充実ぶりです。大きな大学はだいたいどこも、その地域でみられる動植物のデータベースを持っています(多くの場合、大学のある州を念頭に置いていますが、もう少し広い場所についての情報を提供している場合もあります)。もちろん使い勝手の善し悪しはいろいろですが、英語での調べものだということが全然気にならないほど使い勝手のよいものがたくさんあります。 検索エンジンでヒットしてくるものは、登録などの手続なしでそのまま利用できるものがほとんどです。さらに、ひとつのデータベースが他の複数のデータベースと相互にレファレンスされている場合もあって、汎用性が高くなっています。子供の教育や素人の調べもの、リサーチをする場合でも下調べのレベルなら、ほぼ図書館の代わりになっていると言えるのではないかしら(日本だと、個人の研究者、研究室単位で細々と--だって、時間も予算もないんだもん!--展開されているものが多く、たまに網羅的なものがあるかと思うとどうも敷居が高い。このあたりの、知的インフラやノウハウが共有可能だという状況は、日本がどう転んでもアメリカにはかなわない部分のひとつでしょう)。 とはいっても、パラパラめくれる図鑑と違って、ある程度の予備知識や見当がないと探せないのがデータベースのつらいところ。いろいろ試行錯誤したあとで、ノースカロライナ大学の「植物情報センター」というところのデータベースを利用しました。よくある質問のところに、ノースカロライナで普通に見られる植物の一覧があるので、そのなかでマツ(pine)の言葉のついた樹木の写真を片っ端から見ていって、葉の本数、長さ、松ぼっくりの形や樹皮の様子などで同定することにしました。 |
| ★ホシはテーダマツ★ 調べてみると、マツにもいろいろ種類があって、葉の数は2本のもの、3本のもの、5本のものがあり、まれに6本1組というのもみられるようです。そういえば、日本でもゴヨウ(五葉)マツとかハイマツの葉は、5本1組でしたね。先日出かけた近くの公園には、2本組(virginia pine:バージニアマツ)、3本組(loblolly pine:テーダマツ)、5本組(eastern white pine:ストローブマツ)と全種類そろっていました。 さて、私たちのアパートを「うぐいす餅」にした犯人は、テーダマツ(pinus taeda)という種類のマツです。 |
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| 雄花 こっちが使用前 | 雄花 こっちは使用後 |
| なんだか見ているだけで鼻がムズムズしてきますが、このマツは、アメリカ南東部に多く生えているマツで、自生地は、北はニュージャージー州南部(デラウェア州南部とするものもあります)から、西はテキサス州東部からです。ノースカロライナでは、生えているマツの半分以上はこのマツのようです。 |
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葉や松ぼっくりはこんな感じ。松かさのうろこの部分が鋭くとがっていて、触るとチクチクします。外側がイガイガしているパイナップル(pine
apple)の語源があらためて実感されます。樹高は大きいもので30メートルほど。樹皮は、木が成熟するにしたがって厚くなります(5センチくらい)。森林形成のパイオニアとでもいうのでしょう、伐採地や崩落地などの裸地にいち早く入り込み成長するそうですが(こういうのを「先駆樹種」と呼ぶようです)、テーダマツが本来好むのは、水気が多く地表の水はけが悪い土地のようです。私たちが住んでいる土地は、沼や小川があちこちにあってテーダマツにはぴったりの環境。英語での通称にある"loblolly"という言葉は、「ぬかるみ」を意味する方言です。 成長が早いうえに、耐塩性もあるので、メリーランド、バージニアの両州にまたがるチェサピーク湾では、沿岸の土壌浸食を防ぐために植えられることもあるようです。チェサピーク湾の環境保全に一役買っているのかもしれませんね。 ★州経済との深い関わり★ ところで、このテーダマツ、ノースカロライナ州の経済に深い関わりがあります。 ノースカロライナ州は古くから林業が盛んなところで、これは、州につけられたニックネームのひとつ"The Tar Heel State"にもあらわれています。州のニックネームにはそれぞれいわれがあり、これだけ直訳しても意味をなさないことが多いのですが、それでも訳せば「タールのついたかかとの州」。植民地時代や独立直後の時期、マツの木から採れるタールは、ピッチやテレビン油とならぶ海軍の軍需品となっていました。 現在でも、州の面積の約6割を森林が占め、木材・木製品製造、家具製造、製紙などがさかんです。松ヤニが少ないテーダマツは、成長が早く、節がなくまっすぐに伸びることから、木材として重用されています。 ノースカロライナ協同公開講座(NC Cooperative Extension)のパンフレットによれば、上記3業態をあわせた林業関連の製造業の年間出荷額は1900万ドル(州の総額の11%)で、これは、飲料・タバコ(2580万ドル)、化学製品(2400万ドル)、繊維・衣料(2370万ドル)に次ぐ第4位の数字です(数字はおそらく2000年前後のもの)。林業関連の業種の中には、クリスマスツリーの栽培なんていうのもあって、ノースカロライナ州全体では2000軒以上の栽培農家があるそうです。アメリカらしくて面白いですね。 テーダマツは、松枯れ病の原因となるマツノザイセンチュウ(松の材線虫)に対する耐性にもすぐれていて、日本の材木育種センターなどでも活躍しているそうです。ザイセンチュウへの抵抗性が強い苗を選定したり開発したりするときに、テーダマツが比較対象とされるようです(ザイセンチュウへの耐性は、テーダマツの耐性を100としてそれに対する割合であらわされます)。 ★2002年冬のフリージングレイン★ さて、成長が早いのがテーダマツの長所なのですが、このことは時に短所にもなります。とくに若い木では強度が弱く、何かあるとしなって曲がってしまうのです。 |
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![]() 大学の中でも、ほら、こんな感じで、深々とお辞儀をしているテーダマツが何本もありました。アパートの近くにも、道沿いのマツがたくさんフェンス越しに湾曲してきてアーチのようになっている場所があます。こういう場所を通るときはいつも、いつ倒れてくるかヒヤヒヤしてしまい、アクセルを踏む足にも力が入ります。 テーダマツの強度の弱さ。これが最悪の形であらわれたのが、昨年(2002年)12月はじめのフリージングレイン(freezing rain, 着氷性の雨、氷晶雨)だったようです。私たちが引っ越してくる前のことなのですべて人から聞いた話ですが、このときの被害は本当にひどかったそうです。 フリージングレインというのは、地表の温度が非常に低く、上空に暖かい空気があるときに起こる気象現象で、降った雨が瞬時に凍り付くのだそうです。もちろん雨水の降りかかったテーダマツの木も然り。木全体が凍り付いてしまい、(おそらくは重みに)耐えられなくなった若木や枝がバキバキと折れてしまったということです(そのときの様子は、ノースカロライナ協同公開講座のサイトにフリージングレインに関する項目があり、そこで見ることができます。また末尾でリンクしたサイトで、そのときの様子を知ることができます)。 折れた枝や幹が電線に倒れかかり、広い範囲にわたって停電が起きたそうです。多くのところでは停電は1日だけだったそうですが、復旧に時間がかかったところでは、寒さが続く中、1週間も電気が来なかったとか。幸いこのあたりのアパートには暖炉があることが多いので、ろうそくの明かりと暖炉での煮炊きでしのいだようですが、もちろん、友人宅に世話になったりホテルに移ったりした人も多かったと聞きました。小さなお子さんのいる家庭はさぞかし大変だったでしょう。駐車場の隣の車が倒れた木の下敷き、自分の車は間一髪、なんていう話もありました。 ★アポロ14号で月面旅行★ さて、話は大きく変わりますが、1971年1月にアポロ14号が月へ行ったとき、みなさんはおいくつでしたか。テーダマツは月にも行きました。 アポロ14号の乗組員のひとりスチュアート・ローサ(Stuart Roosa)は、以前にアメリカの森林局(U.S. Forest Service)で森林消防隊員(smoke jumper)として働いていた縁で、月に植物の種を持っていくことになりました。持ち帰った種を植えてみて、地上にあったものとの間に違いが出るかどうかを調べるためです。植物の種は400〜500個、全部で5種類。この中に、テーダマツの種もありました(月へ行った仲間はそのほかに、sycamore:スズカケノキ、 sweetgum:モミジバフウ、redwood:セコイア、douglas fir:ベイマツ)。 帰還後の汚染除去作業中に容器がバンとはじけて壊れてしまったため発芽は絶望視されていたのですが、植えてみたところ、ほとんどの種からみごとに芽が出たそうです。育った苗の多くは、1976年に行われた独立宣言200周年の記念行事などのために全米各地へ送られ、さらに子孫を増やすなどして生き続けています。ホワイトハウスにも、月へ行ったテーダマツが植えられているそうです。海外にも贈られ、ブラジルやスイス、それから日本の天皇へのプレゼントにもなったとのこと。今のところ、月へ行ったものと地上にあったものとの間には変化は見られないそうです。 |
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ひどかった花粉攻撃も、それから私のくしゃみも、5月の声を聞いてようやくおさまりました。パティオのイスとテーブルは復活し、外で本も読めるようになりました。本物の「うぐいす餅」が食べられなかったのは残念だけれど、これは日本に帰ったときの楽しみにとっておきましょう。 そういえば、花粉であんまり汚れていて、窓ガラスに"Wash me!"と落書きされてたあの車、どうなったかしら。我が家の車は・・・。う〜ん、それはナイショ。 それでは、またね。 <執筆にあたって参考にしたサイト> <フリージングレインについては> 次のサイトでそのときの様子をご覧になることができます。どちらもノースカロライナに住んでいらっしゃる方の個人のページで、面識のある方たちです。 <州のシンボルについて> アメリカ各州には、「州の花」とか「州の鳥」といった、その州を象徴するいろんな「州の○○」があります。本稿でふれた「州の木」マツもそのひとつです。ノースカロライナ州には、この他にも、果物、飲み物、昆虫、岩など、たくさんの州のシンボルがあって面白いので、日本語で紹介してみることにしました(「ノースカロライナ州のシンボル」。現在工事中。もうちょっと待ってね)。 ネタ元は、上で紹介したノースカロライナ州務長官執務室の子供向けページです。項目の順序は同じにしてありますので、写真などはそちらでご覧になってみて下さい。 |
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