ASHIRBAD
Megumi Hiromitsu 廣光恵
History of Kathak カタックの歴史
カタックは、ヒンズー教とムスリムの要素を兼ね備えた、インドの古典舞踊の中でもユニークな踊りです。
村社会の伝統を残す一方、ムスリム文化の影響で洗練された一面を持ち、
なおかつ、神話を伝えるだけでなく、人間の人生や心情を描くという、独特の多面性は、
他のアジアや西洋でも支持層を増やし続けています。複雑なリズムとフットワークを展開させる
カタックは、フラメンコの原型とも伝えられています。
1.寺院時代の、ストーリーテラー(語り部)の舞

ラーマヤーナより (舞 by Srabani Banerjee 東京公演より)
王子ラーマが、怪物ラバナに連れ去られた妻シータを救いにいくという、あまりにも有名な一説。お話の始まりに、人物の外見的な特徴をポーズで表現しています。弓矢の名手であったラーマが、弓を構える直前のポーズ。
カタックは、ヒンズー教の寺院で生まれました。信者の前で、神話や神の教えを語るという、ストーリーテラー(語り部)が、
カタックの始まりです。当時は、踊りの要素はほとんどありませんでした。時を経て、「語る」という行為を補助するために、アビナヤと呼ばれる、
パントマイム的な要素が取り入れられていきました。また、語り部はブラフマン(カーストの最高位。聖職に携わるカースト)の男性に限られていました。

寺院時代の男性ブラフマンに化した舞 (舞 by Srabani Banerjee 東京公演より)
カタック(kathak)という言葉のkathaとは、「話」を意味します。今日でも、カタック ダンスの席では、
踊り手は必ず何かしらの形で話すことを要求されます。なぜならば、kathaとは、語ることの芸術であると、
インドではみなされているからです。「言霊」という言葉があるように、インド社会では、今日でも、言葉を重視するという伝統が残されています。
2.ムスリム宮廷時代の舞

(チャッカル by Srabani Banerjee) (サム by Megumi Hiromitsu 動画)
8世紀に、続々と西アジアの民族がインドに進入してきます。ラクナウを中心に、北インドはムスリムの支配化に入ります。
この時代に、ペルシアから、多くの踊り子がムスリムの宮廷に送られ、その高度な技術がカタックの中に取り入れられていきます。
ムスリムの王様(Nawabs)と、ヒンズーの王様(Maharaja)をパトロンに持った踊り子たちは、競って純粋舞踊に磨きをかけました。
舞台は寺院から宮廷に移り、一部の教養ある人々の前で、複雑なリズム(16拍子、14拍子、7拍子、9.5拍子などなどたくさんのリズムがあります)サイクルの中で、
200個を超える鈴(グングル)を足に巻いてフットワークを披露し、チャッカルと呼ばれる華麗な旋回を繰り広げました。
ミュージシャンによる演奏との掛け合いや、顧客のその場でのリクエストに応えるなど、即興性が求められました。
また、ムガールの宮廷のお抱え音楽家による、Dhurupadなどの高度な古典音楽にあわせた踊りも反映していきます。
踊り子たちは、踊るだけでなく、古典音楽を理解し、歌うことも要求されました。ムスリム文化の影響を受け、
カタックが技術的に大きく成長したのがこの宮廷時代です。
その反面、ヒンズー教の踊り子たちはムスリムの宮廷でほとんど踊る機会を与えられなかったため、特にムスリムの影響を強く受けたラクナウでは、
ヒンズー教の要素を伴う踊りの成長は停滞しました。一方、ジャイプールのヒンズーの王宮では、ヒンズー教の要素の強い踊りの成長がみられました。
3.アビナヤの色々
カタックのアビナヤは、パントマイム、フットワーク、カタック独特のポーズ、
ムードラ(手の動き)、時にはダンサー自身による歌で(Ghazal, Thumri, Keertan, Dhrupad, Vandanaなどの音楽)、
情緒豊かに踊られます。喜び、悲しみ、嫉妬、驚き、恐れ、敬意などなどの感情が表現されます。題材も様々。
神様に捧げるものから、神話や神の教えを人々に伝えるものや、人間の恋愛などなど,
数え切れません。Bollywood映画でも、カタックの要素のある踊りが多く観られます。
カタックは流動的であり、どのようなテーマでも踊ることのできる、
非常に柔軟な踊りのひとつと言えるでしょう。
いくつかの流派のうち、ラクナウ流派はその美しい動きを特徴としています。純粋舞踊の中でも、優雅で柔らかい動きを維持しています。また、ラクナウという土地柄から、
Thumriなどの準古典音楽にのせたアビナヤもこの流派の特徴のひとつです。ラクナウ流派を代表する巨匠、Pandit Birju Maharaj(ビルジュ マハラジ)と、愛弟子Saswati Sen(サスワティ・セン女史)の昔の映像もご覧ください。カタック・ケンドラでの授業の様子をビデオに収めたものです。前半の純粋舞踊に続いて、クリシュナ神とラーダの戯れのアビナヤもため息が出るほど美しいものです。

こちらは、村の女性が飼っている牛をかわいがっているシーン しぼった牛乳の入った壷を頭に乗せて。。。
Srabani Banerjeeによる、ラジャスタンの村の女性の生活を描いた作品 MAYAより

Ghulam Ali のGhazalにのせたアイテム by Megumi Hiromitsu 動画
人生の悲しい心や神への想いを歌う準古典音楽のGhazalは、今世紀に入ってからカタックに取り入れられました。現在も、インドでは、ほとんどの舞台で、身体表現の純粋舞踊と共に、Thumri、Bhajan、Ghazalが踊られ、人々の心をとらえ続けています。最近ではほとんど見られませんが、長年研究を続けている熟練ダンサーの中には、一つの曲で、1時間以上も踊り続けることのできる方もいらっしゃいます。一つ一つのフレーズを色々な角度からとらえ、自分の考えや理解を様々なジェスチャーで表現していきます。まさに、カタックの特徴である、踊り手の哲学が表現されるアイテムです。歌詞とは全く違うストーリーを展開することもありますが、その中には、必ず元の歌詞につながる比喩表現が入っています。それを理解するためには、鑑賞する観客側にも教養が求められます。
4.新しい動き
最近では、古典を離れ、現代音楽や他の民族舞踊を取り入れたカタックや、コラボレーションが多く観られるようになりました。その中で、イラン(ペルシア)のSufism(スーフィズム)を理念に踊られているSufi Kathakのご紹介です。
ラクナウ出身のManjari Chaturvedi女史が作ったと言われています。Sufismの博愛の理念がちりばめられています。映像をご覧いただくと、旋回が動きの特徴のひとつであることがわかると思います。また、非常にスピリチュアルなメッセージをパントマイムで表現しています。ムスリム王朝の支配と同時に、ペルシアから踊り子がインドに入り、カタックに新たな息を吹き込んだと言われていますから、ある意味で、過去をたどる踊りといえるかもしれません。

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