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 【23日目・2003年7月29日】

 遠い遠い神奈川からここまでくると見たことのないものにお目にかかる。それは昨日の出来事だった。
 初めて見たのは淀城跡を出て広い川を渡ってからだった。八幡市か枚方市に入ってからだっただろう。すれ違う自転車に日傘が付いていたのだ。最初は年配の女性。日傘の片手運転をするとは達者だな、と思ったのだが、すれ違いざまに見た両手はしっかりハンドルを握っているではありませんか。まさか日傘が宙に浮いていた?暑さと疲れから意識がもうろうとしてきたのかな?このまま休まず歩いて大丈夫だろうか。本当にそう思った。
 そういう自転車を何台か見るうちに、ハンドルの中央からクリップ付きの棒が上に延び、日傘をクリップでくわえていることが分かった。
 他の地域でも売られているとは思うけど、少なくとも小田原では見たことがないし、おとといも全く見かけなかった。ある地域を境に当たり前のように見かけることになったのだ。インターネット時代の現代でもこんなことがあるなんて驚きだ。
 今日は傘を付けたまま駐輪場に止まっている自転車を発見。おばあちゃんの押す乳母車に付いているのも見かけた。こちらでは日傘の片手運転は流行後れのようだ。ただし大阪市内に入ると装着車の比率のほうが少なくなり、流行は地域限定のようだった。
 お土産に買って帰ろうと思うが小田原で使うのは勇気がいるかも。もしかしたらビデオカメラを取り付けて車載映像を撮ることに利用もできるかもしれない。

 もう一つ初めて見たのが二輪車を地下から地上へ運ぶベルトコンベアー。枚方公園駅の地下駐輪場から地上へのルートに設置されていた。
 出口付近の看板に「二輪車は右側を通るように」と書いてあった。見ると全員が一列になって右側を上っている。ここの人はなんて聞き分けがいいのだろうと思たっが、原付きを軽々手で押し上げている女性を見たときに気が付いた。ゴム製のコンベアーがエスカレーターのようになっていて、二輪車に手を添えるだけでいいのだ。
 この設備があることで駐輪場を地下に設けられたのだろうがやり過ぎのような気もする。

 さあ今日は最終日。私の旅に天気の話題は切っても切れないようで、朝の天気予報では「梅雨が戻って来たような陽気になるでしょう」と言っていた。大阪は午後3時以降に雨らしい。

 空全体が雲に覆われている中、9時過ぎに出発する。旧街道の手掛かりがないので守口市中心部までの最短ルートを進む。
 光善寺駅前を通ったのに神社仏閣が全くなく楽しくない。次第に交通量が増えてくるが、なぜか空気の悪さを感じない。直接の日差しはないものの蒸し暑く、足の痛みが増してきたので休みたい気分だが、休める場所が現れない。
 今回の旅ではマメや足首痛、かかと痛など今までに痛めた箇所はそれほど気にならない。今回一番痛むのは右足の人差し指だ。付け根が膿んでいるようで腫れてきいる。小田原を出発する日の朝から原因不明の痛みはあった。それが日に日に悪化しているのだ。
 そんな状態でもあったのでいつもより早いが、10時20分にようやく見つけた休憩ポイントの菅原神社境内で腰を降ろした。しかし、10秒もたたないうちに蚊に発見され、両足に群がりる。5匹はやっつけたが私の負け、何カ所も刺された挙句休憩打ち切り。
 今度は「こんぴらや」と言うさぬきうどんチェーン店を発見。四国遍路を思い出しながら2階にある店の中へ。店員が私に気付くものの無視された。しかたなくさらに中へ入って「いいですか」と聞くと「11時からです」と言われた。あと10分で11時だ。雨の振り出しが気になるで10分も待てずに先へ進んだ。
 次はパスタのチェーン店。ここも2階だ。営業時間の表示を確認できないまま階段を昇るが店内に客はいない。「よろしいですか」と聞くと笑顔で「どうぞ」。接客の基本はやはり笑顔だ。ちなみに時間は10時59分だった。
 接客は二重丸だが油たっぷりのミートソースパスタはちょっとつらい。ミートをほとんど残して11時40分に出発。

 旧街道情報を入手するため守口市役所を訪ねる。クーラーがなく事務員はみんなうちわパタパタ。私の職場が東電の電力不足対策で冷房を停止されてしまうことに不満を抱いていたが、いままでがぜいたくだったのかもしれない。
 目的の資料はここにはなく、向かいの教育会館の生涯教育課を訪ねるように言われた。そこへ行くと「守口文化財ガイドマップ」という目的にぴったりの資料をいただけた。ちなみにこちらは冷房が効いていた。
 資料をもらい立ち去ろうとしたが腹痛発生。トイレを借用し落ち着くまで休憩することに。
 せっかく入手した資料だったが、本陣跡、一里塚跡はすでに通り過ぎていた。結局資料は参考にならなかったが、あと1キロ進めば守口市を外れるのだからしかたない。

 国道1号線沿いに京街道の説明書きがあった。場所は大阪市今市。それによると当初の起点は京橋口だが、江戸時代になって高麗橋東詰になったそうだ。これでこの旅のゴール地点がはっきりした。
 ルートは片町、蒲生、関目、今市を通って守口宿に行くことも分かった。これでゴール地点までのルートもほぼ決定。
 関目の交差点に到達したのでビデオを回してカウントダウン。まだ2時だし雨も落ちてきていない。気持ちに余裕が出たのか少し歩いた後わき道に入ってゴール前最後の休憩をする。座った瞬間だった、腹痛が・・・、近くのスーパーへ飛び込む。そう簡単には目標を達成させてくれないようだ。2時50分までの長い休憩になってしまった。
 蒲生の地名が出てきたところでパラパラと雨が落ちてきた。我慢しきれずついに降ってきたか。時間は2時59分。天気予報通りだ。ゴールまであと少しだったのに間に合わなかったか。まあ2回のトイレ休憩が原因だから自業自得だ。雨の中のゴールのほうが私らしくていいだろう。

 寝屋川に出たので1つ目のゴール京橋へは川の手前を右折して川沿いに下るだけ。サーキットの最終コーナーを駆け上がった気分だ。ゴールが近いせいか膿んでいる箇所を除けば足に痛みや疲労感がない。まだ小雨なのでかっぱを着ずにややペースを上げゴールを目指す。
 3時15分、京橋駅へ到着。ビデオを回しながら京街道にまつわる何かがないか探すが見当たらない。達成感がじわじわとトーンダウンする。
 タクシーの運転手に訪ねてみたが碑らしきものは知らないと言う。ここはJRの京橋駅だが、隣に京阪の京橋駅もある。そっちかなとも思ったが、Webページから入手した資料を読み返すと、京橋に関する記述はなく、船着き場の八軒家が終着点として書かれていた。そこには石碑と船着き場に降りる石段が残っている。場所は天満橋と天神橋の間で、このまま2キロばかり下ればいい。京橋での感動のゴールはあきらめ2つ目のゴールへ向かった。

 寝屋川にできる雨の波紋がしっかり見えるほど雨粒は大きくなっていた。それでもゴール間近だと思えばかっぱを出す気にはならない。
 車道は右にカーブし川からそれるが、歩きならば道は細いが続いていそうだ。木の下を潜る感じで雨をしのぐ上でも都合がよい。潜り抜けると橋のたもとに出た。そして名所の説明板があった。なんとこの橋こそが京橋だったのだ。突然の京橋との出会いにうれしさと満足感を得る。雨のおかげで発見できたのだが、雨のためカメラを出せないのが残念だ。
 寝屋川橋を渡り日本経済新聞社のビルの脇を抜けると天満橋の交差点。橋はここを右折したところにある。この橋と1つ下流の橋との間の南側が終着点だから河原に降りることにした。
 川沿いに散歩道があったが、ホームレスの住宅も連なっており進むのに抵抗を感じる。が目の前のゴールに向かって進むと、向こうからやってきたおばあさんに「行き止まりですよ」と言われてしまう。
「向こうの橋までも行けないんですか?」
「行けません。対岸のほうは通じています。」
「この先に碑があるはずなんだけど」
「工事で外しているはずですよ。南北朝でたった一度南朝が勝ったところの古戦場なんです。工事現場で石碑引っこ抜かれて・・・、6年先でないとその碑は元に戻らないそうで。この間も九州からみえてましてね、歴史を九州の方に教えていただいて、ちょっと遅かったですね言うて」
違う碑のことを言っているのか、九州の人が間違った情報を与えたのかは分からないが、碑がどかされたことは事実だ。残念だけどあきらめるしかないらしい。なぐさめに対岸を歩くことにした。立ち去り際に
「傘お持ちになりますか?」
「あるんですか」
「男の方やから」
と言って、ホームレス住宅に釣る下がっている黒い傘を手に取りながら
「明日昼ぐらいまで雨やそうで、せっかくお出でくださったのに。」
隣にビニール傘があったので、
「軽いボロいのでいいです」
と言ってビニール傘をいただいた。このおばあさんはホームレスだったのか。そうだとしてら天気予報はどこで聞いたのだろうか。

 天満橋の上は風が強い。反対の歩道から「きゃー」と女性の悲鳴が聞こえた。何事かと思って見たら、自転車に装着してあった傘が外れたらしい。雨の日にも使うようだがやや危険である。

 対岸を天神橋まで歩いたがゴール地点に立てないのでは私の旅が終わった気がしない。天神橋を渡りこちら側の岸に戻り未練がましく歩く。ビルの隙間から工事現場の手前にわずかな通路が見えた。ビルの警備員に降り口を聞いたが、やはり降りれないと言われる。
 しつこい私はできるだけ近づこうと思い、工事車両の出入口に向かった。そこには2人の警備員がいた。やさしそうな顔した警備員に碑の存在を尋ねようと話しかけると、もう1人の警備員から「そこ入っちゃだめだよ」と怒られた。かちんと来た私は無視して質問を続けた。するとなんとありかを教えてくれるではありませんか。「その信号を渡って左に進んだお菓子屋の前にあります」河原ではなく天満橋から天神橋へ向かう道路沿い、それも川と遠いほうの歩道上らしい。船着き場だから川沿いにあると思い込んでいたのが間違いだった。
 『八軒家船着場の跡』と書かれた碑は昆布屋の前にあった。ここまで来れば今度は船着き場に下る石段が残っている場所にも行っておきたい。店の中へ入り尋ねると「天神橋方面へ進んで次の角を左に曲がったとろにあります」と教えてくれた。さらに川から離れてしまうので本当かなと思いながら行くと確かに石段があった。4時30分、ついに東海道五十七次達成だ!天満橋到着から40分後、まさに執念のゴールだ。いつの間にか雨が上がっていたので記念の写真撮影をしてこの旅を終えることにした。満足感100%の瞬間だった。

 明日の夕方には大阪で働く友人がゴール到着を祝ってくれるというので、インターネットの当日割り引きページからホテルを検索する。天満橋駅近くのホテルを通常料金7,000円のところを5,000円で予約する。今回はこのサイトのおかげでいくら得したことか。
 明日は強い雨らしいが大阪城観光をしてのんびり過ごそう。

7月29日(火) 天満橋


 【24日目・2003年7月30日】

 昨日の夜、資料を整理していて大きなミスに気が付いた。それは国道1号線沿いにあった京街道の説明をメモした手帳を見たときだった。『江戸時代になって起点は高麗橋東詰になった』とメモしていたのだ。昨日、確かに2つ目のゴールを高麗橋に決めたはずなのに、いつの間にか船着き場をゴールと勘違いしていた。多分、腹痛や雨でメモのことをすっかい忘れてしまったのだろう。まあ今日は時間が充分にあるから大阪城観光の後に行ってみよう。

 朝の天気予報では「大阪はすでに雨が上がり、これから晴れ間が出るでしょう」と言っている。午前中は大雨を覚悟していたけど、天気回復が早まったようだ。ポンチョやかっぱをホテルに預ける袋にしまい込み身支度完了。部屋を出る前に外を見るとなぜか傘をさしている。この上空だけ雨雲があるのだろうか。
 フロントに荷物を預け、高麗橋の場所を尋ねた。道路地図で天満橋や天神橋が架かっている大川を調べてくれたが高麗橋は見つからず、地名はあるが橋はないと言われた。とりあえず地名になっている場所だけ教えてもらった。

 ホームレスの人にもらった傘を差して大阪城へ向かう。途中の日本経済新聞社ビルの裏側には石垣が残っており、説明板も立っている。昨日まで東海道を通過してきたが、1つの場所をじっくり探索するのもおもしろいかもしれない。
 外濠を渡ると小雨降る中ジョギングしている人達にすれ違う。ここはジョギングコースになっていてAコース、Bコースなどの表示があった。
 内濠では釣り禁止の看板の近くで釣りをしている人が2人いた。目の前で小さな魚が釣れたので、「何が釣れるんですか」と尋ねると「ブルーギル」だと言う。さらに柵を越えてこっちへ来いと言う。ズボンを汚しながら柵越えすると、ルアーに掛かっていたブラックバスを引き上げて見せてくれようとしたが途中でバレてしまう。
 濠には誰かが放流したらしくこういった外来魚がたくさんいるという。残念ながら和魚はいないらしい。小田原城の濠にはたくさんの鯉がいるので、外来魚に占領された濠には違和感を感じる。
 雨がしだいに強くなりジョギングしている人のTシャツはびっしょりだ。周回コースになっているがジョギングする人の数も減ってきた。走り始めたときはこんなに雨が降るなんて思ってもいなかっただろう。傘がなく慌ててバスへ戻る観光客の姿もあった。私も楽しみにしていた写真撮影ができなくて残念だ。

 内濠の外側を半周して豊国(ほうこく)神社に到着。神社の脇にボランティアの観光ガイドの小屋があったので、高麗橋のことを聞いてみたら実在していると言う。さすがは観光ガイドの人達だ。
 高麗橋は大川に架かっているのではなく、大川に合流する東横堀川に架かっている橋だった。それに今の淀川や大川は江戸時代とは違うところを流れていると言うから船着き場が川沿いになかったこともうなずける。
 豊国神社の歴史についても解説してもらった後、最後の朱印をこの神社でいただいた。この神社は明治に京都の豊国(とよくに)神社の支社として建てられたもので、最後の朱印としてはいささか歴史の重みがないのが残念だ。
 街道に関する情報を入手できるかと思い、天守閣の中を見学したが全くそのような情報はなかった。天守閣を出てくると雨は完全に上がっていた。大阪城を後にし、最後の目的地高麗橋へ向かった。

 ボランティアガイドの人にもらった地図のおかげで比較的容易に東横堀川までたどり着いた。あとは通行人に橋の位置を聞いて、2分ほど大川方面に歩いて高麗橋に到着。昨日行った天神橋とは500メートルも離れていないところにあった。
 橋の左側には「かうらいばし」と書かれており、右側には里程元標跡の碑と高麗橋の説明書きがあった。碑まであるのにホテルのフロントが知らないのは問題かなとも思うが、この辺りのホテルは観光客よりもビジネスマンの利用のほうが圧倒的に多いだろうからしかたない。教訓としてビジネス街のホテルに観光案内を期待してはいけないと覚えておこう。
 何はともあれ今度こそ正真正銘のゴール到着。スタートから24日目の7月30日午後0時35分だった。

 ゴール後に橋のたもとにある喫茶店で昼食をとった。私のいでたちからだろう、どんな旅行をしているのかとお店の主人から尋ねられた。御主人も奥さんも地元を愛しているようで、地元の歴史やら起源に詳しい。私が食事をしている最中も地図を見せて観光案内をしてくれる。「くいだおれ」は「食べる」から来たのではなく橋の杭から来た言葉で、橋をたくさん造るために杭を造りすぎたことから発生した言葉だとか、昔この辺りは海で潮の流れが速かったことから浪速の地名がついたなどと教えてくれた。
 私がたった今東海道のゴールをしたことを知ると、奥さんが「シャンパンでも入れてあげないとね」と微笑んだ。しばらくして奥さんがアイスコーヒーを持って来て、「これお祝いのコーヒーです。サービスです。」とごちそうしてくれる。人情を感じたお店だった。
 やがて景気の話しになり、「うちはお客さんが三分の一になったけど、東京の景気はどう?」と聞かれたりもした。さすがは大阪人だ。

 御主人に勧められた高麗橋周辺の観光ポイントを散策してから、ホテルに預けた荷物を受け取るため淀屋橋駅から電車で天満橋駅へ移動した。2キロ弱の距離ではあったが、さすがに疲れて歩く気にはならなかった。
 ホテルへ行く前に借りた傘を返すため天満橋下のホームレス住宅を訪ねた。昨日のおばあさんがいれば少しお話をしたかったが、いなかったので傘を置いてホテルに向かった。

 夕方、日本一長い商店街と言われる天神橋商店街にあるお好み焼き屋で友人にお祝いをしてもらった。その後、旅の思い出話をしながら商店街の端から端まで歩いて私の東海道五十三次の旅を終えた。

7月30日(水) 天神橋


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