現在進行中の『伊豆一周歩き旅』を掲載しています。

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 小田原〜富戸

【1日目・2003年12月14日】

 2003年12月14日(日)、伊豆1周歩き旅のスタートだ。9時20分に自宅小田原を出発し国道1号線に出る。この道は東海道五十三次の旅でも歩いた旧東海道だ。雲一つない冬晴れの中、東海道の旅を思い出しながら歩く。
 櫓(やぐら)をかたどった『ういろう』の店を過ぎると建物の間から小田原城が見え隠れする。間もなく箱根方面と伊豆方面の分かれ道だ。次の信号で伊豆方面に左折し旧東海道とお別れだと思ったら、1つ手前の交差点に『小田原さかなセンター左折』の案内板があった。小田原さかなセンターは数ヶ月前に小田原の新名所として小田原漁港に誕生した。魚料理が苦手な私にとってさほど興味はないが案内に誘われ左折する。
 歩くこと数百メートルで小田原さかなセンターが見えてきた。が、意外に規模が小さくて小田原市民としてちょっと残念。小田原駅から回遊バスが出るぐらいなので、小さな道の駅ぐらいの広さがあると想像していたが、間口はトラック2台が縦に並んだ長さより少し短いかもしれない。まあ問題はリピーターを取り込めるかどうかだから、広さより質で勝負か。

 突然、小田原さかなセンターに立ち寄ったが、前回の東海道五十三次の旅やその前の四国遍路と違って、今回は決まった道筋はないし、寄らなければいけない場所もない。伊豆1周の定義などもちろんない。だから好き勝手に道を選べるが、それがいいことなのか悪いことなのか今の時点では分からない。
 目的のない旅はただ歩くだけになってしまいそうだ。そこで今回は2つのテーマを持つことにした。伊豆と言えば、観光地でもあり、温泉地だ。観光地ならば容易に観光マップなどの観光情報が手に入る。その観光マップを大いに活用しようと考えた。ルートに関する持参物はオートバイ用の地図のみ。あまり下調べせず、旅先で得た情報で歩き回る。それを1つのテーマにした。そうすることでそれぞれの観光地の特徴が見えてくるだろう。
 もう1つの着目は温泉。伊豆を1周する間にいったいいくつの温泉地を通過するだろう。その数を数えるのがもう1つのテーマだ。伊豆全体では40ぐらいあるかなと思うが、修善寺温泉や湯ヶ島温泉などの伊豆中央部分には行かないので25ヶ所と予想した。みなさんはいくつあると予想するだろうか。これから一緒に確かめに行こう。

 小田原漁港を抜けると国道135号線に合流する。この国道を歩き続ければ熱海、伊東、下田と海岸沿いを南伊豆まで連れて行ってくれる。
 最初のうちは平坦な海岸沿いの道だが、源頼朝と平家が戦った石橋山古戦場辺りからアップダウンが始まる。家を出たときは気温12度と寒かったが、手元の温度計は20度を超えうっすらと汗をかき始めた。上着を脱ごうとリュックを降ろし後ろを振り返ると、小さく小田原城が見えた。あまりにも地元過ぎて、こんなところからじっくり小田原の町を見ることはなく、ここからの小田原城に新鮮さを感じた。

 やがて国道135号線は旧道と有料道路に分かれる。車や自転車のときは大抵有料道路を進むが、歩きでは旧道を行くしかない。旧道に入ってすぐ根府川駅に到着。時間は11時、トイレ休憩も兼ねて一休みする。
 何キロぐらい歩いたのか知りたいところだが、オートバイ用の道路地図しか持っていないので大まかな距離しかわからない。東海道の旅のときは1キロごとにポイントが示された東海道五十三次用の地図があったから良かったが、今回は万歩計に頼るしかない。11623歩だから約8キロだろう。まずまずのペースである。
 しかし、ここから先がつらかった。有料道路は多少アップダウンはあるものの海岸線に沿っている。一方、こちらはみかん山の中をアップダウンしながら右に左にとカーブが続く。峠越えではないので急坂やつづら折りではないが、入り組んだ地形のためかなりの遠回りを強いられる。海を背にして左側に窪地、その先にはこれから行くであろう道が見える。直線距離にして100メートルから200メートルぐらい。しかし道はいくら進んでも左手の窪地には向かわず直進する。10分ぐらい歩いてようやく左にぐるっと回るヘアピンカーブがあり、また同じくらい歩いてさっき見えた場所に到達する。すりばちの外周を半周した感じ、あるいは富士スピードウェイのヘアピンのような地形だ。こんなとき海沿いにまっすぐ伸びる有料道路を見ると、「歩行者も通してくれ」と言いたくなる。
 しかも歩行者にとって危険な道でもあった。混雑する有料道路の抜け道として多くの車が利用する。道幅が狭いのにそこそこのスピードで私を抜いて行く。右腕すれすれに通過する車も何台かあり怖くてたまらない。もっとも私が車のときは歩行者のことなど考えず、半ばコーナーを攻める気持ちで走っていた。危険な走行をしていた自分に反省。

 やがて眼下に2本の道路が見えてきた。有料道路は途中で分岐し、海に掛かる橋を渡る新有料道路と入り組んだ地形にある程度遠回りさせられる旧有料道路に分かれる。すぐ下を通る旧有料道路を漠然と見ながら歩いていると、左側に歩行者しか通れそうにない急な下り坂が現れた。
 この道は旧有料道路に続いているのかなと思いながら覗き込む。木に覆われていてどこに通じているのか分からなかったが、そのまま旧有料道路に視線を延ばすと民家が何軒か見えた。そのときやっと気がついた。旧有料道路沿いに民家があるということは、旧道と旧有料道路を繋ぐ道が必ずあるはずだ。自信を持って急坂を下ると思ったとおり旧有料道路につながった。もっと早く気付けば無駄な遠回りをせずに済んだかもしれない。道を知っているばかりに歩行者用道路など考えもしなかった。こういう発見が歩き旅の楽しさだ。

 合流してすぐ真鶴駅に到着。もう12時50分だというのに、まだこんなところかと思ってしまう。万歩計を見ると23000歩になっており、約16キロ。3時間30分で16キロだからまずまずのペースなのだが、土地勘があるだけにちっとも進んでいない気になる。地元を歩くとこういう精神的苦痛を味わうようだ。
 すぐ近くのコンビニでパンを買い昼食にする。旧道には食べ物を買える店が全くなかったが、ここまで来ればコンビニがあることを知っていたので空腹の不安はなかった。いつもの旅行だとカロリーメイトを持ち歩く用心が必要だが、こういったところは土地勘があることの利点だ。

 真鶴駅から1キロほど坂を下ると海が見え、新有料道路と合流する。ここは夏になると海水浴客でにぎわう湯河原の海水浴場だ。サーファーにも人気で、道沿いの駐車場では帰り支度をするサーファー達が目に付いた。
 海水浴場を抜け、右に曲がると湯河原駅。今日最初の温泉地、湯河原温泉もそっちの方角だ。私は右折せず直進し熱海に向かう。すぐに有料道路の熱海ビーチラインとの分岐点。ここでももちろん有料道路には行けないので一般国道を進む。そして登り坂。しかし真鶴までの道と違いアップダウンの連続ではない。登りきればあとは熱海まで下る丘越えだ。
 丘を越え2つ目の温泉地、熱海までもうすぐと思っていたら、『伊豆山温泉』の看板があった。伊豆山という地名は知っていたが温泉があるとは知らなかった。右の山側に伊豆山神社、左の海側にある石段を降りると伊豆山温泉の公衆浴場があった。温泉があることを確認したので国道に戻り熱海に向かう。

 熱海の海が見え始めた頃、花火の音が何発か聞こえた。今日は何か催し物があるのだろうか、と顔を上げ辺りを見まわす。すると正面の山中からいくつか煙が上がっていた。そして同じ視界に熱海城。城好きの私であるが熱海城には行ったことがない。歴史上存在していないお城だと聞いたことがあるからだ。あちこち旅をしているが、こういう歴史と無縁のお城に出会ったことはなく、ある意味貴重なお城かもしれない。
 お城を眺めながら温泉ホテル街まで下ってきた。有名な『お宮の松』で一休み。万歩計を信じればここまで約26キロ。かかとがやや痛みだし、親指の付け根辺りにまめができかかってきた。時間は3時10分。親戚の家がある網代まで寄り道せずに行くことにする。
 昔はにぎわったこのホテル街も一部で空き地になっている。だいぶ廃れてしまったなと感じながら歩くとホテルの並びに分譲マンションができていた。人気の程はどうだろうか。

 ホテル街を抜けると再び山道。熱海城の下まで来ると国道はトンネルに突入する。自転車でトンネルを通過するのも怖いが歩きだともっと怖い。ここはまだいいが網代の先にセンターラインのない狭いトンネルがある。そこのことを考えると憂鬱だ。
 トンネルを抜けると断崖絶壁で民家などない道をひたすら歩くことになる。日は傾き少し寒さを感じてきた。寒さを感じたのは私だけではないようだ。バイクを止め立小便している男性がいた。実は4人目の目撃である。東海道を歩いたときはあまり立小便を見かけなかったが、今日はやけに目に付く。交通量に比べて公衆トイレの数が少ないのだろうか。
 山を下り海岸に出る。東伊豆の海岸線はだいたいこのパターンが多く、海岸と山中を行ったり来たりする。この海岸で予期していなかった温泉の看板を見つけた。『伊豆多賀温泉案内』と書かれた地図があり、どこに温泉街があるのかと眺めたが、どこにも温泉マークがない。幼稚園や学校などが書かれた普通の地図だ。首をかしげながら先へ進んだ。
 正面に松並木が見えてくる。本数こそ少ないが幹の太さは東海道中のものと見劣りしない。ここは海の家が並び、砂浜が広がった多賀海水浴場だったはずだが、今は整備工事中で海の家の跡形もなく砂浜もだいぶ少なくなってしまった。松並木が終わると秋葉山の灯篭があった。きっとここは昔から使われていた街道なのだろう。

 伊豆多賀からは30分ほどで5つ目の温泉地、網代温泉に到着。日は暮れかなり寒くなってきた。時計を見るともう5時。手元の温度計は10度を指している。親戚の家に寄って暖かいお茶を飲んで今日の旅を終了にしよう。万歩計は5万歩弱で、約34キロだった。

12月14日(日) 網代

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【2日目・2003年12月22日】

 10時25分網代駅に降り立つ。ここから普通に国道を進むと狭くて危険なトンネルが待ち構えているので、それを回避するために山越えをするつもりだ。前回立ち寄った親戚の人から山越えルートの入り口は聞いていたが、オートバイ用の地図にそれらしき道は載っていない。行き方を知るために、まずは駅構内で情報収集を始めたが『ご自由にお取りください』のスペースには周辺地図や観光案内などのパンフレットは一切なかった。参考になったのは大抵の駅に設置されている一般的な周辺地図ぐらいだ。この地図で山越えルートは確認できたがやたらに分岐が多く、道を間違えたら行き止まりの山奥へ行ってしまったり、ほとんど振り出しに戻ってくる恐れがあるようだ。しっかり地図を頭に叩き込もうとするが、分岐点に目印がないので覚えきれない。まあ、人に聞けば何とかなるだろう、そう思って出発する。
 スタートして数分で金剛杖を両手でつくような激坂になった。いくつかの分岐点があったがみかん畑や山林を行く道だったので、人の姿がなく尋ねることができない。歩くこと30分、木々が少なくなり前方にマンションが見えた。マンションに通じる道の左に『グリーンヒル熱海』の看板。そこにはグリーンヒルの住人の案内図と『関係者以外立入禁止』の文字が書かれていた。行き止まりの道へ来てしまったのかと思ったが、この上には民家があるのだから少し登って尋ねてみることにした。100メートルほど歩き車は何台か下りて行ったが、声を掛けられそうな人はいない。急に不安になり大火傷しないうちに戻る決意をした。これで降り出しに戻るかと思うと少ししょげた。

 下り始めて2、3分、下から登ってきたNTTの工事車両が道端に止まった。これはチャンスと思い、「この坂を登ると宇佐美の方へ下りられますか?」と尋ねた。すると「行けるよ」と言う。「あと300メートルも行けば頂上だから、突き当たりを左に曲がって、左に大きな建物が見えたら右にぐるっと回り込む道があるからそれを行けば海に出るよ。」とすごく丁寧に教えてくれた。きっと私のしょげた顔が一転希望が開けた顔に変わったのを見て取って、親切に教えてくれたのだろう。
 今度は自信を持ってグリーンヒル熱海へ向かった。NTT工事車両は私のために止まってくれたかのように、すぐに動き出し私を抜いて行った。さっき引き返した場所の1つ先のカーブを曲がると案内表示があった。直進『月見が丘』『富士の見える坂』。この案内を見たところで何の助けにもならないが、富士山が見えるのかなと思いつつ振り返ると、真っ青な空に白い富士山の上の部分だけが小さく映えて見えた。

 頂上に到達すると先ほどのNTT工事車両がUターンするところだった。運転手が窓を開け、指を指して「こっちだから」と教えてくれる。安心して坂を下り始めた。さらに5分後、案内表示があり、右『富士見坂・網代温泉ハイキングコース』、直進『見晴台・網代ハイキングコース』。ここが右にぐるっと回り込むポイントだ。もう1つの難関も無事クリアー。
 そう思ったのが間違えで、右にぐるっと回ってすぐ分岐。数メートル先でまた分岐。道なりに進むと民家にぶち当たり行き止まり。戻ってもう1つの道へ行くがまた行き止まり。さらに案内表示付近まで戻るが、一番民家にぶち当たりそうな道しか残っていない。たまたまそちらに向かう車が来たので尋ねると、この道が正解。非常に分かりづらいハイキングコースの案内表示だった。
 下って行くうちに道幅が広くなり、左側に豪邸、正面に海。正面やや左には、小島初島が浮かぶ。もちろん何の保証もないが、これで宇佐美側に下りられると思いほっとした。

 急坂をどんどん下っていくとラブホテルの脇に出て国道に合流する。そこに『御石ヶ沢温泉』の看板発見。6つ目の温泉かと思ったが、温泉権利付きの土地をを販売しているだけで観光客が入れる温泉ではないらしい。下る途中に別荘地帯への入口があったのできっとそこのことだろう。温泉の数にはカウントしないことにする。
 国道を10分程歩くと御石が沢トンネル。地図で居場所を確認し、ほぼ想像していたところに合流できて一安心。
 もう1つトンネルを抜けると宇佐美までカーブが続く下り坂。車道を歩くと遠回りのようだったので、お墓の中を突っ切ってすぐ下の海岸に通じる石段を下りて行く。海岸に出ると温泉民宿や小さな温泉ホテルが何軒かあった。6つ目の温泉、宇佐


 富戸〜白田

【3日目・2003年12月27日】

 日帰りで2日歩いたが今日からは年末の休みを利用して3泊4日で臨む。買ったばかりのノートパソコンを夜中過ぎまでセットアップしていて、ちょっと遅めの目覚めになった。カーテンの隙間から日が差し込む。天気予報どおり晴れのようだ、と思いながらカーテンを開けると地面が白い。霜だろうか、いや雪だ。私は目を疑った。そして東海道五十三次の箱根越えで雪上を歩いたときのことを思い出した。

 進行方向左の海側に向かって座る伊豆急に乗って富戸駅に着いたのは12時25分。半日でどこまで行けるだろうか。
 前回入手したウォーキングマップ掲載のピクニカルコースと古道めぐりと銘打った海岸沿いのウォーキングコースにコンビニなどありそうにない。早いところ食料を調達したいところだが、ウォーキングマップを見るとコースの右折地点に酒店の表示。その酒店でパンを購入。今日はついているぞ。
 この辺りはまったく雪が降った形跡がないので店のおじさんに「こっちは雪降りませんでしたか?」と聞くと、「ここは降らなかったけど山のほうは降ったみたいね」と言う。雪上の城ヶ崎海岸を歩いてみたかったので残念。

 コースは細い道を海に向かってぐんぐん下る。そろそろ三島神社があるはずなので注意して歩くと右側に道祖神のような石仏。マップには賽の神と書いてある。賽の神まで来ては行き過ぎだ。振り返ると右後方に三島神社の鳥居。賽の神のおかげで神社に通じる曲がり角に気がついた。
 この三島神社は頼朝と八重姫の間に生まれた千鶴丸にまつわる話がある。殺され海に流された千鶴丸が流れ着いたのが富戸の海岸。そのとき両手に握り締めていた橘の枝を神社の脇に挿したところ大木になったと言う。マップには「その何代目かが今も残っています。」と書いてあるが、現地の説明板には枯死したので別のものを植えたとなっていた。
 旅の安全を祈願して本殿にお参りする。なぜか太鼓がおいてあり、「お参りが済んだら太鼓を叩きましょう」と貼り紙してある。ばちのようなものがないので手の甲で叩いたらかなりいい音がした。
 三島神社を出てさらに海のほうへ下り、拾い上げた千鶴丸を寝かせたと言われる産毛石を見てから城ヶ崎方面へ進んだ。

 伊東ではトイレも観光ポイントになってしまう。城ヶ崎海岸の案内板とともにトイレの説明が書かれていた。変わったネーミングでトイレのあり方を変えた、と書かれている。例えば、「半四郎の落し処」。近くの岩場につけられた呼び名「半四郎落し」を文字ったものだ。
 案内板のすぐ先に富戸漁港。ここには「払(ハレー)スイセン86」と言うトイレがあった。払とはここの地名、86はハレー彗星が帰ってきた年だ。もしかするとこのトイレは86年にできたのかもしれない。
 払(ハレー)スイセン86のすぐ目の前の道路脇には、2艘の船に湯を張って浸かっているダイバー達がいた。船にはそれぞれ第一温泉丸、第二温泉丸と書かれている。温泉地らしい発想だ。海沿いに30分ほど歩くとつり橋や灯台がある観光スポットだが、ここはダイビングスポットらしい。

 つり橋や灯台は何回も行ったことがあるので、海沿いへは行かず伊豆急城ヶ崎海岸駅へ向かった。駅に着いたのは1時45分、ここでもいくつかウォーキングコースマップを入手した。
 伊豆急伊豆高原駅へは分譲地を抜けていった。城ヶ崎海岸駅周辺は企業の別荘が多かったが、ここは新築の一般住宅が目立つ。一般住宅といっても庭が広かったり、バルコニーにベンチがあったりしてやや別荘寄りだ。
 伊豆高原駅は今までの伊豆急の駅からは創造できないくらい大きくてきれいで華やかだ。小さなショッピングモールもある。消費者は観光客だけではなさそうだ。駅周辺は道路拡張工事が行われていたりして、これから注目の地域かもしれない。

 伊豆高原駅からは対島川沿いを下り再び海へ向かう。まだ訪れたことのないもう一つのつり橋があるからだ。川沿いの道はウォーキング用に整備されていて心地よい。ところどころに城ヶ崎海岸の観光スポットが写真入りで紹介されている。
 伊豆高原駅から15分、橋立つり橋に到着。長さは60メートルでもう1つのつり橋より長いが、高さがこちらのほうが低いためか観光人気は負けている。橋から下を覗き込むと柱上の岩をロッククライミングしているではないか、こちらは見るポイントではなくやるポイントのようだ。
 つり橋を渡ったあともしばらく海岸沿いを歩く。城ヶ崎自然研究路と言うコースだけあって、急な上り下りが多くてきつい。ウォーキングというよりハイキングに近い感じだ。
 突然墓地が現れ、何でこんなところにと思ったら集落に出た。集落に入ってすぐに賽の神発見。目の前には八幡野漁港。ただの港町だと思ったらダイバーの姿が目立つ。ダイバー客目当ての民宿も何軒かあった。ここも伊東市、伊東は温泉だけでなくいろんな顔を持つ観光地だった。

 再び現れた賽の神を通り過ぎるとすぐ集落は終わり畑、そして山。賽の神に囲まれた集落は昔と広さが変わっていないようだ。
 伊豆急と国道を横切り旧下田街道へ合流。この街道はかなり古くからあったようで、道沿いに曽我物語り発祥の地と記された説明板があった。曽我物語とは曽我兄弟あだ討ちの話である。
 このまま旧道を歩いていたいが、3時30分になりそろそろ宿探しの時間になった。『赤沢海岸左折』の看板があったので海沿いを走る国道へ向かうことにした。かなりの急坂を海まで下る。海に出るとそこは8つ目の温泉、赤沢温泉。民宿が何軒かあるが泊まるにはまだ早い。
 赤沢温泉から10分、東伊豆町に入り、主要都市までの距離表示ならぬ温泉地までの距離表示標識があった。1キロ先から11キロ先までに6つの温泉地。選り取り見取りだ。1キロ先の大川温泉だとちょっと近すぎるから2キロ先の北川(ほっかわ)温泉に決めた。

 9つ目の温泉、大川温泉を通過し10個目の温泉北川に到着。波打ち際の温泉は混浴で路上から丸見え。まさか女性はいないだろうと思ったが半分は女性だった。2時間弱待って6時になれば女性専用時間帯になるが待てない理由があるのだろう。
 混浴温泉の受付で宿泊案内所がないか尋ねると、北川温泉観光協会の電話番号を教えてくれた。早速掛けたがどこも満室で、2駅先の白田(しらた)温泉まで行かないと空きはないと言う。白田温泉はさっきの標識ではあと6キロだった。とても無理だ。まだ時間があるので自力で探すことにした。
 ホテルの送迎バスの運転手に空きがないか聞くと、6畳間でよければあると言う。観光協会で全宿泊所を抑えているはずがないので、やっぱり空いていたかと思った。値段を聞くと「いち・ごー」だと言う。15000円は高すぎるので断ったが希望は見えた。
 空室ありの看板が出ているホテルがあった。「泊まれますか」と聞くと、「高いよ、この先に安いところあるから」とあっさり断られた。そうこうしているうちに温泉街を抜けてしまった。さっき電話した観光協会は5時で閉まる、あと30分弱あるのでここから2キロ先の熱川(あたがわ)温泉まで行ってから考えよう。

 坂を登り国道方面に向かうと北川駅に着いた。駅員さんに熱川へ行く道を尋ねると、国道に出るためには戻らないと行けないと言われてしまう。
「熱川に行きたいんですけど」
と言うと、
「旧道だったらそんなに戻らなくてもいいけど、うーんどっちのほうが早いかな」
と迷っている。どっちにしろもう5時前に熱川へ行くことは不可能だ。日が暮れると国道はとっても危険だ。歩道はないし、トンネルはある。その上、道に不慣れな観光客の運転とくれば危険極まりない。そう思い、
「旧道でいいです」
と言って旧道への道を教えてもらった。
 その道を進み、5時まであと10分になったのでさっきの観光協会へ電話し白田温泉の宿を取ることにした。観光協会の人と話しながら歩いていると、旧道だけでなく国道へも通じる道が見えた。電話中だったからか、楽したい気持ちが強かったからか、自然と足は国道へ向かっていた。
 電話口で「予約できました」と言う。続いて
「まだ北川ですか?」と質問された。
「そうです」
「そこから2駅で片瀬白田駅です」
「歩いていきます」
と言うと
「無理です」
と言われた。
「3キロぐらいですよね」
「危険です。やめてください。」
と今度は強い口調で言われた。国道に立っている自分に気づき、確かに危険だと思ったがもう北川駅には戻れない。
「もう熱川に向かっています。熱川から乗ります。」
「そしたら熱川から海のほうに降りて、海沿いをずっと来てください。片瀬白田駅にでます。」
よし、がんばって片瀬白田まで歩くことにしよう。

 想像どおり暗くなった国道はとても怖く、前を向いて歩けない。車が近づいているかどうか、振り向いて絶えず後ろを気にしなければならない。トンネルでは完全に半身になって歩いた。怖いからペースが自然と速くなる。そのせいで両足、腰が痛み出す。2つのトンネルを抜けて11個目の温泉地、熱川到着。そこから海へ下りる石段。痛みは増すばかり。
 海岸まで下りると左は海、右はホテル郡。痛みをこらえながら真っ暗な道を進む。ホテルが途絶え波音しか聞こえなくなる。知っている道だからよいが、知らなければすごく不安になるだろう。
 再び右にホテル郡。南熱川温泉と表示してあるホテルもあるが、ここは12個目の温泉、片瀬温泉だ。川を渡ると片瀬白田駅。川を境にこちら側は白田温泉。13個目だ。泊まるホテルは海に面した真っ暗な場所。東から昇るオリオン座がとてもきれいだ。ちょっと星を眺めているとPHSが鳴った。心配したホテルの女性からだった。
「今どんな感じですか?」
「ホテルの前まで来ました」
と言って中に入ると、ご主人が出迎えてくれた。
「心配して迎えに行こうかと話していたんですよ」
とご主人。夫婦で経営している家庭的な雰囲気のホテルのようだ。

12月27日(土) 白田(しらた)



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