時代背景についての一考察



まず最初に一言。
王家の紋章は漫画であり、フィクションです


当然と言えば当然のことなのですが、この大前提を踏まえたうえで「王家」の世界の中で描かれている歴史的背景について考察してみたいと思います。

この考察の焦点はただ一つ。
「キャロル嬢がタイムスリップした先の『古代』とは、いつの時代をさすのか?」
ということです。

この『古代』について説明するキーワードはいくつかありますが、一番頻出するキーワードは『三千年前の世界』でしょう。

物語本編における『現代』が2002年として(これについては、また物申したいことはあるのですが、とりあえず本編中でキャロルが21世紀の娘と紹介されているため、現代=現時点、といたしました)単純計算で、3000年前=紀元前1000年、となります。
とはいえ、この『三千年前』というのは、なかなか感覚的な言葉のようですので、前後に100年程度の誤差は余裕で許容範囲として考えてみます。

では、紀元前1000年前後の中近東の情勢がどのようなものであったか・・・・。

結論から申し上げますと、王家の世界で描かれているような歴史的情勢は存在いたしません。

身も蓋もない言い方ですが、はっきりいって無理です。不可能です(汗)
現実の歴史のなかには、「王家」であらわされている時代情勢は存在しえません。

とはいえこれだけで終ってしまっては考察の意味がないので、何故このような結論に達したのかを、これからご説明したいと思います。

「王家」の中には様々な国が出てきますがその中心となる国は当然エジプト。
というわけで、まずはエジプトを軸にして時代を特定することにしてみます。

一番基本的なくくりとして「王家の紋章」という物語は、古代エジプト新王国時代を舞台にして繰り広げられています。
これは首都の位置や風俗からも推察されますし、さらに言えば第13巻78pで「絢爛たる新王国時代のなか」と明記されてもいます。

新王国時代とは、古代エジプト第18王朝〜第20王朝のこと。(ちなみに、有名なツタンカーメン王は、第18王朝のファラオです)
これはごく大まかに言って紀元前1600年〜前1100年の約500年間にわたって栄えた王朝群ですので、新王国時代=約三千年前、というのは多少の誤差はあるにせよあながち間違いとはいえません。

四捨五入すれば三千年前です。(この時点ですでに暴論のような気もしますが・汗)

メンフィスが新王国時代のどの王朝のファラオか、という問題は、メンフィスというキャラクター自体が実在しない人物ですので避けますが(個人的にはツタンカーメン×ラムセス2世÷2、のキャラだと思っています)、エジプト一国を見る限りでは、特に矛盾というほどのものは存在しません。しないことにします。

では、周辺諸外国はどうでしょう?

まずヒッタイト。
ヒッタイトが小アジアに栄えたのは、紀元前約1650〜前1200年の間。
ヒッタイトは紀元前1200年頃に滅亡した、と王家の第4巻199pにも明記されています。

王家世界でヒッタイトはまだ滅亡の兆しも見せていませんし、さらにヒッタイト滅亡の原因となる「海の民」の台頭について、キャロル嬢が「まだ100年ほどは大丈夫だけど・・・」とコメントを出しています(第14巻13p)。
ということは、王家世界のヒッタイトは滅亡100年前の時代。すなわち紀元前1300年頃のヒッタイトということになります。

『三千年前』とは300年の誤差が出ますが、このくらなら許容範囲にはいるでしょう。
そもそもこの『三千年前』という言葉はかなりアバウトに使われているようですし。許容範囲といったら許容範囲なんです。そういうことにしといてください。

エジプトの新王国時代とヒッタイトの全盛時代はかなりの部分かさなりますので、とりあえずここも問題ありません。

次いでアッシリア。
アッシリアが世界史上に強国として頭角をあらわし始めたのは紀元前1000年以降のことなのですが、アッシリアという国自体はかなり古くから存在し、紀元前1450年頃には独立国としてバビロニアやミタンニ王国と勢力を争っていたようです。
王家の中で、アッシリアは「ただいま売出し中」の新興の王国として描かれていますので、ヒッタイトにあわせて紀元前1300年頃の話と考えれば、これも矛盾なくはまります。

さらにバビロニア。
古バビロニア王国(バビロン第一王朝)が勢力を誇ったのは、紀元前1800〜前1600年頃のことなのですが・・・・ラガシュ王のバビロニアが、この古バビロニア王国のことなのだとすれば、困ったことにエジプトの新王国時代とはほとんど時代がかぶらないことになってしまいます。

バビロン第一王朝は前1600年頃にはヒッタイトにいったん滅ぼされてしまいますので、この古バビロニア王国と新王国時代のエジプトが並び立つのはほぼ不可能です。

ではバビロン第一王朝の後にバビロニアの地を支配した、カッシート王国(バビロン第三王朝)=ラガシュ王のバビロニア、と考えればどうでしょう。
時代的には紀元前1300年頃まで存続した王朝ですのでぴったりとくるのですが、困ったことにこのカッシート王国、「ザグロス山中出身のインド=ヨーロッパ系民族」らしいのです(^^;

ザグロス山地の山岳民族・・・・確かこれって、キャロル嬢の予言でラガシュ王が討伐しようとしてましたよね??(第15巻93pより)

・・・・困りました・・・・・

さらに、キャロル嬢いうところの「約600年後にバベルの塔を完成させるネブカドネザル王」(第14巻135〜136p)
これが新バビロニア王国のネブカドネザル2世(紀元前600〜前550年頃の王)のことだとすれば、600年前の世界は紀元前1200年頃、ということになってしまいます。

・・・・ますますもって、困りました・・・・

気を取り直して、ミノア王国。
キャロルが訪れたミノア王国は、クレタ島の王宮や迷宮、ミノス王という名前から見てもクレタ文明時代のギリシア世界に間違いないでしょう。
クレタ文明の次に興るミケーネ文明についても、キャロル嬢が「たしかこの頃、エーゲ海にミケーネ人が台頭してきているはず」とコメントをだしています。(第31巻173p)

ではこのクレタ文明がいつ頃栄えたのかというと・・・・実に紀元前2000年〜前1500年頃の王国だったりするのです。

・・・ますます時代が古くなってます。
古代エジプト新王国時代とは、ほとんど時代が重なりません・・・・

紀元前1500年頃にクレタ文明が滅んでミケーネ文明が興るのですが、このミケーネの首領がミノアを狙う海賊として登場している以上、ちょっとフォローのしようがありません(^^;;

はっきりいって、新王国時代のエジプト王妃であるキャロルがクレタ文明全盛時代のミノアを訪れるのは時系列的にみて不可能です。

そして最近登場したニューフェースのメディア王国。
西アジアで勢力を誇ったメディア王国は、全オリエントを統一したアッシリア王国滅亡(紀元前612年)後に、エジプト、新バビロニア、リュディア王国と並んでオリエントを四分して対立した強国なのですが・・・・これが紀元前600年頃〜前500年頃までの約100年間だったりするのです(俗に言う4国分立時代)。

・・・・どうしましょう、今度は時代が新しすぎます。
紀元前1000年頃には終焉をむかえているエジプト新王国時代とはかけらも重なりません(汗)

ちなみにメディア王国に限って言えば、これは紀元前625年頃に独立し紀元前550年に滅亡するまで西アジアに栄えた王朝です。

現在エジプトに滞在中のメディア王アルシャーマは、建国以前のメディアの民の王なのだと考えるとしても、約500年のタイムラグ。
・・・・ちょっとこれは、いくらなんでも無理があると言わざるをえないのではないでしょうか?(^^;

さらに言えば「王家」のなかで同時に存在しているミノア王国とメディア王国。
この2国の現実の歴史上での登場時期には、恐ろしいことに最大値で約1500年のずれが存在するのです!

・・・・1500年前の過去の世界・・・現代から見れば、ビザンティン帝国、あるいは大和朝廷の世界ですね・・・・(大汗)

世界史上にはっきりとは登場してこない、アマゾネスの王国や、青の王子マシャリキのエチオピア(アビシニア)王国への検証は、ここでは省かせていただきますが・・・・こうして展開してきた歴史的考察から導き出される結論は一つ。

すなわち、現実の時間軸のなかには王家で描き出される世界情勢は存在しえない、ということです。


王家の中に登場したと推測される王朝の隆盛期間
エジプト新王国時代 前1600年〜前1100年
ヒッタイト王国 前1650年〜前1200年
アッシリア王国      前1450年〜〜〜〜〜〜〜前600年
古バビロニア王国 前1800年〜〜〜前1600年
ミノア王国 前2000年〜〜〜前1500年
メディア王国 前625年〜前550年


ただひとつ付け加えるならば、キャロル嬢自身が自分のタイムスリップ先として認識している時代は、おそらく紀元前1300年頃でしょう。
エジプトでいうなら第18王朝の終わりから第19王朝のはじめにかけての時期。

ちょうどツタンカーメン王やラムセス1世、ラムセス2世などが活躍した、古代エジプト新王国、華やかなりし時代。
エジプトとヒッタイトが盛んに交流を持った時代です。

バビロニアはまだしも、ミノアやメディアがでてこなければ、だいたいこのあたりの時代ねっ、と強引にくくることも不可能ではなかったのでしょうが・・・・(^^;;;

まあ強いてフォローするなら、どの王国も古代エジプト新王国時代500年間の、頭か尻尾か真ん中に重ならないことはないかな?、という点でしょうか。あくまでも国の興亡の単位で考えるなら、の話ですが。
・・・・現実問題として、100年タイムラグがあったら1世代どころか2世代はズレてしまいますものね、人間の場合。

ちなみにサントリーニ島の火山が噴火したのは、だいたい紀元前1500年頃の話しのようです。(*1)


というわけで、

結論:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・国家・歴史などには一切関係ありません。

以上の言葉をもって、この考察の締めとさせていただきたいと思います。
ながながとお付き合いありがとうございました。(ぺこり)






注)上記の文章の中で表示された年代は、煩雑さを軽減するため基本的に100年を単位とし、かなり強引な四捨五入等を行っているものもあります。
あくまでもごく大まかな目安としてお読みください。

また歴史的事情などについては、なるべく正確を期すよう心がけてはおりますが、管理人の知識や検証不足による間違いなどがある可能性がありますので、お気づきの方はぜひ管理人までメール等でご一報ください。

(*1) メールで教えていただいたのですが、サントリーニ島の噴火には紀元前1360年頃、という説もあるそうです。こちらの説ならばちょうどエジプト新王国時代ど真ん中ですので、王家の世界ともリンクしてきますね!
貴重な情報をありがとうございました!!




参考文献

・クロニック世界全史/講談社
・世界史年代集/山川出版社
・新総合図説世界史新訂版/東京書籍
・詳説世界史/山川出版社
・世界史用語集/山川出版社





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