山へもどる] [ニュージーランドへもどる

「2004年ニュージーランドタズマン氷河」


8月2日(月):1日目−セスナでタズマンサドルハットへ

 7時起床。まだ暗い。ユースホステル内はまだ誰も起きていないようだ。部屋の鍵をフロントのBOXに投げ入れる。車で出発だ。

 昨日のレストランに向かうが開いていない。しかたがなく高級ホテルに行く。1泊600ドル以上もするハーミテージホテル (The hermitage Hotel) だ。ホテルの横にあったレストランも閉まっていた。ホテルの中に入りフロントでどこか食事ができるところがないかと聞くと、ホテル内のレストランが利用で きるという。少々高いがそこで朝食をとることにする。レストランの中に入るとウェイター、ウェイトレスは日本人だった。バイキング形式の朝食だが、値段で 3つのランクに別れている。中ランク、約15ドル?を選んだ。果物やパンなどが食べれる。ちなみに最高ランク20ドル?では、ご飯、味噌汁、おかゆ、日本 食のおかずが食べれるのだ。最低ランクは、パンしか食べれない?
 くだものやパンはとてもおいしかった。さすが1泊600ドル以上の高級ホテルだ。おおきなガラスウォール越しに、ニュージーランド最高峰のマウントクッ クを見ることができる。最高の展望だ。こんな場所でな〜んにもしないで、のんびり過ごしたいなぁ。。。
 まだ朝早いからか客は少ないが、それでも日本人観光客が数組いた。おそらく、このホテルは日本人さまさまなんだろうな。金持ち日本人がいっぱい泊まるの だろう。
 外人のおばあさんが日本食に挑戦していた。味噌汁をスプーンですくって飲んでいる。おいしくなさそうだ。やめてしまった。お!納豆に挑戦だ。容器をあけ てそのままスプーンで中身を口にいれた。糸ひくのに困惑している。しかめっ面。その一口でやめてしまった。はははははは。。。。



バイキング形式の朝食


ハーミテージホテル

 レストランを出てトイレに入る。手を洗おうとして戸惑った。洗面台がないのだ。蛇口らしき口があるのだがその下がそのまま黒曜石のテーブルになってい る。これは洗面台ではないよなぁ。洗面台はどこだ?あたりを捜すがないのだ。
あれれ? なんと、その黒曜石のテーブルが洗面台だった。テーブルがわずかに奥に傾いていて、テーブルの上に落ちた水が奥手に流れるのだ。こんな洗面台、 初めて見た。さすが高級ホテルだ。


不思議な洗面台

 ホテルを出て、山小屋を管理している国立公園ビジターセンターに向かう。ビジターセンターの駐車場に車を停めてキーで遠隔ロック。と、突然、プワァ!プ ワァ!プワァ! なぜだか車がクラクションを鳴らして止まらなくなってしまった。なんだ、なんだ?? 静かな村にクラクションが響きわたってしまった。大 慌てでロックを解除し車に入る。ん?ん? よくわからないが、いじくりまわしているうちにクラクションが鳴りやんだ。ふぅ。。。。
 国立公園ビジターセンターに入り山小屋を使うことを申告し、登山届を提出する。各山小屋にいる人数を表示しているパネルがあった。全然人が入っていない ようだ。山小屋には無線機があり、毎日夜7時にここと交信を行い所在を確認するシステムになっている。その無線機の使い方を教わる。

 ビジターセンターを出て、マウントクックエアポートへ向かう。車で10分ほどだ。
 飛行の予約は入れていた。天気は快晴、今日の飛行は問題ない。大丈夫だ!受付のお姉さんにタズマンサドルハット (Tasman Saddle Hut) (ハット=山小屋) 付近までの飛行をお願 いする。「Cornice Wall ですね」 「ん??」 氷河上に複数ある着陸ポイントには全て名前が付けられているのだ。Cornice Wall はタズマンサドルハットのすぐ上に位置 する。
 車から荷物を下ろし大きな計量台に載せる。我々もその計量台に乗り総重量を測定した。セスナが来た。4人乗りの小さなセスナだ。パイロットと握手をして 挨拶をする。荷物をセスナに載せる。スキー板はなんと翼の下に取り付けるようになっていた。パイロットが「燃料はもっているか?」と聞く。「持っている」 と答えると、荷物から出せという。一度セスナに載せた荷物をセスナから下ろして、ホワイトガソリンとガス缶を取り出す。この燃料は飛行中、手に持つ。万が 一緊急事態になったときは、これを窓からほおり投げるのだ。なるほど。。。ちなみに、受付には「燃料持ち込み禁止」の掲示があったが。。。

 セスナに乗り込む。みちおは操縦席の右側に座った。セスナに乗るのは初めてだ。とても狭い。パイロットが計器を操作するたびにみちおにぶつかるような感 じだ。じゃまにならないようにちじこまっていた。4点式シートベルトをしっかりと締める。みちおはパソコンのフライトシミュレータでセスナ操縦を何度も やっている。マイクロソフト社製でとてもリアルなシミュレータだ。目の前にまさにその計器群がひろがっている。パイロットが入念に計器チェックを行なって いる。セスナが動きだした。滑走路へ向かっていく。天気は快晴だ。


セスナ


セスナの計器

 セスナが滑走路の端で一旦停止する。パイロットが片言の日本語で「シートベルトヲ シメテクダサイ」と言う。日本人観光客が多いのだろう。エンジンの出 力をあげてセスナが動きだした。ふわりと浮き上がった。お〜〜〜!
 すこし旋回をしてセスナはダズマン氷河へ向かう。パイロットは車輪からスキーへの切換操作を行なっている。どんどん高度を上げていく。湖が見える。氷河 下流の幅広い河が見える。モレーン(氷河の下流の岩が堆積した地形)が見える。そしてそして、氷河に入った。広大な氷河、そして回りに広がる岩山、雪山。 そして雄大なマウントクック。すごい、すごい。見えるものすべてがすごい! 圧倒される風景だ。


セスナから見るマウントクック

 パイロットが観光ガイドのように説明をしてくれる。この湖の深さは何mだとか、氷河の名前だとか、この氷河は何km続くとか。これらを片言の日本語で 「ヒャクサンジュウゴキロメートル」のように言うのでかえって聞き取りにくい。「one hundred thirty five kilometer」と 思わず英語で言い返してしまった。せっかく一生懸命日本語で言ってくれているのにわるいことしたかな。
 ケルマンハット (Kelman Hut) が見えた。すごい岩壁の上に建っている。そして我々が入るタズマンサドルハットが見えた。こちらもすごい岩壁の上に建っている。すごい なぁ。。


中央下部の崖の上に小さくタズマンサドルハットが見える

 わずか15分ちょっとの飛行。いよいよ着陸だ。ふたたびパイロットが片言の日本語で 「シートベルトヲ シメテクダサイ」 と言う。入念な計器チェックが始 まった。大きな旋回を2回ほど行なう。お〜〜、Gがかかる。はたして雪の上にうまく着陸できるのだろうか。緊張する。雪面へ向かっていく。軽い衝撃で雪面 に着面した。すぐに減速、すごく短い滑走だ。すぐに方向を180度変えてセスナは停止した。ふぅ〜〜。


雪面に停まるセスナ

 セスナを降りて雪面に立つ。天気は快晴。いきなりの白銀の世界、まぶしい。そして岩、雪、氷河、雄大な景色がまぶしい!
 荷物を下ろし、パイロットと握手を交わす。セスナはちょっとの滑走で大空に飛んで行った。
 あとに残された2人。広大な氷河の上に取り残された形だ。さて。ダズマンサドルハットを目指そう。荷物の量が多くなってしまったので荷物は2つに分け た。ひと つをその場にデポ(置いていく) してピストン(往復)することにした。さっそくスキーで滑降だ。斜面はなだらかで明らかにクレバス(氷河の割れ目) はな い。なのでザイルなしで滑降した。広大な氷河、周辺の険しい山々、崩壊しつつあるブルーのアイス、そして遠くマウントクックがそびえる。すばらしい氷河ス キーだ。


氷河を滑る。正面奥がマウントクック。

 わずか5分ほどの滑降ですぐに小屋前に着いた。が小屋に行くには30mほど急斜面をトラバース(横断)する必要があった。その下は見えない。奈落の底 だ。おそらくはクレバスが待ち構えているのだろう。決して落ちることは許されない。距離は短いが慎重にトラバースを行なう。そしてトラバース後に横滑りで 狭い尾根状斜面を20mほど下る。これも慎重に。失敗すれば同じく奈落の底だ。 ふぅ〜〜。どうにか小屋入り口到着。スキーをはずす。がここでも慎重に、 慎重に。入り口のすぐ横が崖っぷちなのだ。氷河地帯の山小屋はすべてこのような崖の上に作られている。まったく。。。。


崖の上に建つタズマンサドルハット。左の赤い小屋はトイレ。

 小屋の入り口は半分雪に埋まっていた。小屋の入り口のドアが上と下に半分に別れていて、上半分だけを開けて小屋に入る。中にはだれもいない。ベッド数 11(うち5つは2人用)のワンルームの小さな山小屋だ。キッチンもある。荷物を下ろす。ふぅ。。。
 そしてさっそくデポした荷物をとりに戻る。ここでみちおは大失敗をしてしまった! なんとシール (スキーで登る時に滑り止めとしてスキー板の裏側に貼る もの) を、上にデポした荷物の中に置いてきてしまったのだ。これではスキーで登り返せないではないか! まったくのおばかさん。しかたがなくスキーをかつ いでツボ足 (靴のまま) で登っていく。足がヒザ程度まで雪にもぐる。ふぅ。距離が短くてよかった。どうにかデポ地まで登り、デポした荷物を背負ってまた山 小屋に戻った。

 行動食で昼食をとり、ちょっと休憩。そして日帰り山行の準備をしてタズマンサドルへ向かうことにする。普通、峠は英語でパス(pass) だ。だがここ ニュージランドでは峠をサドル (saddle) と表現するようだ。そう自転車のサドルのような形をしているからだ。なお、辞書で調べると "saddle" は「山の峰の間の鞍部」と書かれている。峠とはちがうのか??
 スキーにシールをつけて登り始める。小屋前の急登を登ったところで、ザイルを付ける。ザイルは40mザイルの端を島津さん、その中間点をみちおがつなが り、みちおは残り20mを背負う。島津さんは予備ザイル20mを持っている。万が一どちらかがクレバスに落ちた場合、その20mでレスキューを行なう。
 島津さんが前で、みちおが後ろ。ザイルを常に延ばした状態でコンティニアス (ザイルをつないだままで両者同時に進むこと)で進む。この状態では互いに登 るスピードを同じにしなくてはならない。たとえば前の者がクライミングサポート (スキーと靴の角度を調整する装置) を調整する時には、後ろの者もまだその 必要がないとしても同時に調整する必要がある。あとで調整すると前の者を停めてしまうからだ。


タズマンサドルへ向かう。正面左奥は Mt.Aylmer。

 斜面を左手に見ながらのトラバースが続く。右手の下方にはクレバスが見える。天候は雲一つない快晴。我々は氷河の中を進む。左手上方にはいまにも崩壊し そうな巨大なブルーの大氷塊。右手には Mt.Abel が高くそびえ、右手奥には崖の上に小さくケルマンハットが見える。正面は我々が向かうタズマンサドルだ。大展望に感動。。。。
 1時間ほどで、タズマンサドルへ到着。タズマンサドルの向こう側は、これまたすばらしい大展望が広がっていた。タズマンサドルより急激に落ち込んでス タートするマーチソ氷河 (Murchison Glacier)。そしてその周辺の山々。はるか彼方まで、氷河、岩山、雪山が、延々と続く大展望である。振り返ればダズマン氷河がここからス タートし、その両側にすばらしい山々。そして遠くマウントクック。感無量。ゆっくり休憩をとってこの大展望を満喫する。


マーチソン氷河側の展望。正面やや左奥が Aida Glacier。

 タズマンサドルから先、マーチソン氷河へ下るルートはとても急だ。クレパスも多数見える。1本だけ登ってきているトレースがある。マーチソン氷河へ降り る のはまた別の日にしよう。踵を返してホックステッタードーム (Hochstetter Dome) 側へ向かうことにする。雪の斜面をアンザイレン (ザイルにつながった状態) でシールで登ってい く。


無名ピークへ登る

 40分ほどの登りで、Mt.Aylmer とホックステッタードームの間にある無名ピーク、というより無名のコブに登頂! とりあえずピークに登ったということで島津 さんと握手を交わす。そこから広がる北側の展望もすばらしいものであった。ホックステッタードームへはそこからさらに雪陵を進む必要がある。見ると両側が すっぱりと切れ落ちた急で鋭い雪陵であり、かなり危険。ということでここからの登頂は断念した。ホックステッタードームは西側から回り込むように登るとゆ る やかに登ることができる。また別の日に登ろう。
 と、下方遠くに見える我々のセスナが着陸した地点に、またセスナがやってきて着陸した。人が3名ほど降りたようだ。ダズマンサドルハットに来るのだろう か。見ているとタズマンサドルハット方向ではなく、さらに氷河の下の方へ降りている。時刻は3時すぎ。陽はすでに夕刻の気配だ。この時間に小屋以外へ向か うというのは、いったいどこへ行くのだろうか。


無名ピーク。バックはホックステッタードーム


Mt.Aylmer

 ザイルを解き、シールを外す。登頂した無名コブの真下は大きなクレバスが口を開けていた。よって直接滑降するわけにはいかない。登ってきて安全を確かめ ている斜面を滑降だ! タズマン氷河の記念すべき大滑降! マウントクックを背景に互いに写真を撮りながら滑降を 満喫した。あとはトラバースでセスナ着陸地点へ移動。そこから山小屋へ戻った。
 


大滑走!


大滑走!

 山小屋にはだれもいなかった。さっきの3名はどこに行ったのだろうか。
 さて。まずはお湯を沸かそう。白いバケツに水用の雪を入れてくる。外は崖のある急な斜面なので、水用の雪を運ぶだけでも命懸けである。
 小屋には立派なキッチン台があった。ヤカン、鍋、ズンドウ、スプーン、フォーク、マグカップ等も多数置いてある。キッチン台の下には、ここに泊まった人 々が置いていった食料が多数ある。オートミール、パスタ等である。非常時には使えそうだ。
 今回のために新規に購入したMSR(白ガソリンコンロ)に火をつける。MSR独特のコンロの音が小屋に響く。この音を聞くとなぜか落ち着く。ふぅ 〜〜〜。お疲れ様でした。
 紅茶を飲みながら荷物整理を行っていると、小屋の外から人が入ってきた。3人の外人さんだ。外人さんって、われわれもここでは外人だが。さっきの3人 だ。はじめまして。3人と握手を交わす。彼らは "day" を「ダイ」と発音している。これはオーストラリア人に特徴的な発音だと聞いている。彼らは地元の人なのだろうか。質問してみると、3人ともイギリス出身で うち2人はアメリカに移住しているという。なんで下の氷河へ降りていったのかと聞くと、パイロットが示した小屋の方向がそっちだったから、とのこと。単純 に間違えただけだったようだ。今日の山小屋は合計5人だ。


3人の米英パーティ (左から、トム、ボブ、デイビッド)
 
 さて。夕食の準備だ。今宵はカレーにしよう。白米を炊く。そして蒸らす。ニンジン、ジャガイモ、タマネギを切り、鍋で少々炒めて湯を入れて茹でる。ご飯 の様子をうかがうと、あれま!!芯が残っている!!失敗だ。日本の山ではいつもアルファ米を使っている。今回、普通の白米を用いている。気圧の低い山であ ることを忘れていた。気圧の関係で湯の温度が上がらないのだ。なんてことは単なる言い訳。仕方がなくご飯に水を足して炊きなおす。べちょべちょになってし まった。まだ芯が残っているような感じだ。う〜〜ん。では濃いカレーではなく、薄いカレーでカレー雑炊風にしてしまおう!と島津さんのご提案。
 いただきます。うん、うん、なかなかいけるね、は、みちおの意見。しかし島津さん「濃いカレーの方がよかったな」 みちお、落ち込む。。。。
 米英3人パーティも食事を作りはじめた。本当はフォックス氷河方面へ縦走する予定だったとのことで軽量な物ばかり。インスタントパスタや、オートミール などだ。


夕食−カレー

 小屋にはなんと蛍光灯が2灯ついていた。電気の供給源はソーラシステムだ。バッテリーに蓄電している。狭い小屋には十分な明るさだ。明るいというのは実 に気持ちいい。快適だ。スイッチはタイマ式で時間は設定できる。めいっぱいで1時間ほどか。みんなでわいわいしている最中に突然真っ暗になるので驚く。そ のたびにスイッチを入れ直す。なお悪天候が続く場合には点灯しなくなってしまう場合もあると訪問者ノートに書いてあった。
 なお鉄製のすてきなローソク台が複数個用意されてあった。これらはベットサイドに取り付けることもできる。
 また、小屋は2機の無線機がある。ひとつは国立公園管理事務所との通信用。毎日午後7時に定時連絡を行なう。また緊急時にも使用できる。もうひとつはタ ズマンエアポートとの通信用。セスナやヘリコプターを呼び出す時に使用する。いずれも受信スイッチは入れっぱなしだ。話をするときにPTT (Push to Talk) ボタンを押して話をする。
 下山してから管理事務所の方に聞いた話だが、無線は上記ソーラシステム系からは切り離された専用の大きなバッテリーを使っているという。年に何回かバッ テリーの交換を行なうらしい。よって蛍光灯の使いすぎで無線が使えなくなってしまうということはない。


左が国立公園事務所との無線機。右がマウントクックエアポートとの無線機。
上部はソーラシステム制御盤。


ローソク台。取り外せる。

 彼らといろいろ話をする。彼らは日本語は話せないので、もちろん英語で会話だ。今回、2000円で購入した電子辞書をニュージーランドへもっていったの だが、山の中では使わないだろう、ということでレンタカーの中においてきてしまった。これは失敗。。

 デイビッド。60歳。なかなかかっこいい風貌。イギリスに住んでいたがアメリカでグリーンカード(移民登録カード)を所得。コロラド在住。昔は広告カメ ラマンだったらしい。今は引退。家は広く、毎年日本の大学からのホームスティ学生を受け入れているという。アメリカに別荘を数件持つお金持ち。

 ボブ。60歳。イギリス在住。イギリスの老紳士という感じだ。いまいち英語が理解できなかったが、ビルの内装関連の仕事をしているらしい。彼もお金持ち のようだ。飛行機はファーストクラスを使ってきたという。

 トム。40歳。デイビットと同じくイギリスに住んでいたがアメリカでグリーンカードを所得。なんとビルを6つほど所有するビルオーナーだという。40歳 にして引退を検討しているらしい。うらやましい。

 3人ともとても陽気だ。特にデイビットとトムは陽気だ。ふざけたことを言い合ってすごく大きな声で笑う。一方ボブは、紳士な感じ。
 3人ともとてもお金持ちのようだ。若いころから世界中の山をめぐっているらしい。その山めぐりの中で3人は別々に出会ったとのこと。3人は世界のいろい ろ楽しい体験談で話が盛り上がる。
 結局彼らとはこのあと1週間一緒に過ごすことになる。彼らが我々と話をするときにはどうにか会話が成り立つが、彼ら同士の会話になるととてもついていけ ない。すごく楽しそうな会話、すごく経験豊かな内容に入っていけずに悔しかった。英会話の勉強を真剣にやろうと思うのだった。

 ペットボトルに詰め替えたニュージーランドワインで乾杯だ。まずは白ワイン。おいしい! 米英の彼らも3リットルもの赤ワインを持ち上げていた。これか らのすばらし山行を祈願して、5人で、カンパイ!

 午後7時、突然、国立公園管理の無線から声がした。毎日夜7時に行なわれる確認の無線だ。国立公園管理事務所の女性オペレーターが、どこかの山小屋を呼 び出し ていた。応答がある。その小屋にいる人がメンバー確認を返している。そしてすぐに女性オペレーターの気象情報の読み上げが始まった。天気、気温、風、積雪 量等の 予報を結構詳しく言っているようなのだが、無線特有のこもった音、そして結構早口なので、ほとんど理解できなかった。 "Did you copy?" "Copy that" と、オペレーターとどこかの小屋の人。"copy"とは、無線の世界での「了解」という意味だ。そしてタズマンサドルハットの呼び出しがあった。デイビッ ド が応答する。
 "Two Japanese gentlemen, michio and yoshio, and three UK&USA David,bo,tom." "copy that"
 はははは、gentlemen ねぇ。。。
 彼らに、今無線で聞いた天気予報の確認をする。明日は晴れらしい。

 トイレは小屋の外にある。小屋から出て8mほど雪の斜面を登っていく。小屋からトイレまでワイヤが1本張ってあるのでそれを伝って行く。左手は急な底の 見えない崖だ。落ちたら大変だ。行きの登りはともかく、帰りの下りはちょっと緊張する。まさに命懸けのトイレ往復である。ワイヤは小屋の入り口前1歩分だ けは無いのでこの部分だけちょびっと慎重になる。酔っぱらってトイレなどに行こうものなら命がないかもしれない。
 トイレは最近新築されたもののようだ。きれいでがっちりした作り。鉄製の頑丈なドアがついている。広さは 2.0m×1.5mくらいあって広い。ボックス内に男子小用と洋式便器があるが、男子小用は凍っていて使えなかった。
 トイレのドアを開けっ放しにして便器に座ると真正面にマウントクックが見える。すばらしい。こんなにすばらしい景色のトイレ、世界中さがしてもそうそう あるものではない。ドアを開けっ放しにすると、小屋の入り口から丸見えになってしまうが。。。とても快適なトイレなのでついつい長居をしてしまう。
 なお、小屋の中、入り口近くに白いパケツがひとつ置いてあった。はじめみちおはそれがなんであるのかわからなかったが、彼らは Piss box (おしっこ箱)だと言う。なるほど。吹雪になったときなどトイレに行かずにこの Piss boxにおしっこをするのだ。実際、彼らは夜中に何回もこれを使っていた。みちおは、どんなに吹雪であっても結局使わなかった。だってトイレが快適なんだ もん。


外に建つトイレ

 外は満天の星空だった。天の川がきれいに見える。すばらしい!
 南半球に来てぜひ見たかったもの、そう南十字星だ! いったいどれが南十字星なんだ? 星がとにかく無数に見える。十字などあちこちで作れてしまう。う 〜〜ん、どれが南十字星なんだろう。。。。

 月の光に氷河や周辺の山々が照らされている。風もなく静まり返っている。遠くマウントクックが威厳を保っている。なんと神々しい風景なんだろう。。すば らしすぎる。見ていると時のたつのも忘れてしまう。。。。
 明日も晴れそうだ。

 ベッドにはクッションが敷かれていた。毛布も何枚かあるのでそれをさらに敷く。シュラフにもぐり込む。デイビッドが 「オヤスミナサイ」 と片言の日本語で 言う。
 明日の山行が楽しみだ。
 おやすみなさい。



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