天文学Now 〜天文学普及の傍らで〜
「太陽望遠鏡もがんばってます」<はじめに>
最近、とみに太陽に関する話をする機会が多くなっています。この前の「天体観測 施設の会」では、公開天文台の太陽望遠鏡の話をしましたし、6月の天文教室では、 「極大期に向かう太陽」という題で話をしました。また、かわべ天文公園で頻繁に行 われる教員対象の研修会でも、太陽の話をよく頼まれます。やはり、これは太陽活動 が極大期に向かっているからでしょうか?
みなさま、はじめまして。私はかわべ天文公園で天文台長を務めております矢治健 太郎といいます。かわべ天文公園は、和歌山県川辺町に1996 年6 月にオープンした 、天文台とプラネタリウムを備えた公園施設です。日頃の業務として、週に4回の観 望会を行ったり、毎日プラネタリウムの投影を行っています。
「観星塔」と呼ばれる天文台に口径1mの反射望遠鏡(以下、1m望遠鏡)があり ます。その「観星塔」の裏手にこじんまりとしたドームがあり、そのなかに、太陽望 遠鏡があります。1m望遠鏡は、観望会やその他の観測にがんばってくれているので すが、ここでは太陽望遠鏡の方に日の目をあてて、以下、紹介したいたいと思います。
<かわべ天文公園の太陽観測>
太陽望遠鏡は、文字どおり、太陽を観測するための望遠鏡です。かわべ天文公園で は、晴れた日の昼間、太陽望遠鏡のドームを開けて、太陽観測を行っています。太陽 望遠鏡は口径76mmの屈折望遠鏡が2台、口径100mmの屈折望遠鏡が2台の、4種類の 望遠鏡から構成されています。 76mm屈折で、白色光とHα光の太陽の全体像を、100 mm屈折で、白色光とHα光の太陽の拡大像を観測しています。観測した太陽画像は、 地下ケーブルを通して、「コスモポート」と呼ばれる建物の中にある80インチのモ ニターに映し出したり、ビデオ画像を録画しています。さらに録画した画像は、展示 やホームページ、各種資料に活用しています。
白色光では、太陽の光球面を観測しています。黒点や白斑などを観測することがで きます。また、Hα光というのは、水素原子から放射される特別な光で、6563オング ストロームの波長で観測することができます。この光を観測することで、太陽の彩層 の様子を知ることができます。その結果、黒点周辺の活動領域の濃淡に満ちた構造や 、プロミネンスやフィラメント、ときには太陽フレアを観測することができます。 リアルタイムで映し出される太陽の画像は、多くの来園者の目をひきます。小さな 子どもが、不思議そうに黒点を見つめる姿は印象的です。大口径の望遠鏡を持つ施設 にとって、太陽望遠鏡というのは、なんとなくおまけの観測装置という印象を受けま すが、そんなことはありません。晴れた日の昼間は、太陽望遠鏡は十分に主役を果た しうるのです。(かわべ天文公園で撮った太陽画像は、 http://www.cosmo.kawabe.or.jp/solar/ で見ることができます。)
<太陽という天体>
太陽は、「母なる太陽」ということばからわかるように、われわれにとって、非常 に身近な天体であり、生命の源と行っても過言ではありません。また、太陽について 学ぶことは、天文学への第一歩とも言えます。これは、教育普及の面でも言えます。 中学でも高校でも、理科の教科書で必ず、太陽に触れています。最近、教員対象の研 修の機会を持つことが多いのですが、太陽について話を求められることが多くなりま した。太陽に関する質問も熱心です。
「なぜ、太陽活動周期というものがあるのか?」
「なぜ、コロナが数百万度の温度だとわかったのか?」
「黒点が増えると、その分、太陽は暗くならないのか?」
「太陽フレアとプロミンネンスはどう違うのか。」
それだけ、学校の先生も、太陽について関心が高いと言えます。
今、日本国内には、公開天文台や科学館など、約50カ所の天文公開施設が太陽望 遠鏡を持っています。以前は、太陽観測といえば、黒点観測が一般的でした。しかし 、それは太陽のごく一面を見ているに過ぎません。ところが、Hαフィルターの普及 により、上の天文施設に行けば、太陽の彩層の様子を見ることができるようになりま した。
太陽観測の面白さは、異なった波長の光で太陽を見ると、全く異なった姿を見せて くれることです。白色光では、黒点しか見せてくれなかった太陽が、Hα光では、プ ロミネンスや太陽フレアなど全く異なった姿を見せてくれます。先日、中学校の先生 方に、太陽フレアやプロミネンスのビデオ映像を見せる機会がありました。その後、 先生方の一人が「一番感動したのが太陽望遠鏡の映像です。太陽というのは自ら光 を出して活発に活動している天体なんだなと改めて実感しました。」という感想を送 ってくれました。このことから、天文教育普及の上で、太陽という天体は重要な位置 を示していると思います。
<太陽望遠鏡メーリングリスト>
しかし、各天文公開施設に、必ずしも太陽の専門家がいるわけではありません。太 陽で太陽フレアやプロミネンス消失など珍しいおもしろい現象が起きているのに、見 過ごす場合もあります。また、太陽望遠鏡のハードの部分で共通の悩みを抱えている ところもあります。そういった太陽望遠鏡や太陽現象に関する情報交換のために、今 年の1月から、「太陽望遠鏡メーリングリスト(通称solnet)」というものを始めまし た。このメーリングリストでは、
1。太陽望遠鏡を所有する施設が観測した太陽諸現象(フレアなど)に関する情報交 換及び速報など。
2。太陽望遠鏡に関する情報交換
3。太陽を用いた教育普及の実践など、その他太陽に関係すること
4。定常的な観測結果の報告
などの情報交換を行っています。
現在、公開天文台・科学館の職員はもとより、学校の先生、アマチュア天文家、研 究者など40名以上の人が、このメーリングリストに参加しています。
(太陽望遠鏡メーリングリストは、 http://www.cosmo.kawabe.or.jp/people/yaji/solnet/ でその案内を見ることができます。)
<太陽研究者からも注目>
このメーリングリストをきっかけにして、太陽の研究者から公開天文台の太陽観測 に注目が集まるようになりました。
今年の1月31日、鹿児島県内之浦で、X-ray Doppler Telescope(XDT)という太陽 をX線で観測する装置を積んだロケットが打ち上げられました。そのとき、国立天文 台の原弘久氏より地上の研究観測施設はもとより、公開天文台の太陽望遠鏡でも同時 観測が呼びかけられました。その呼びかけに、7カ所の公開天文施設が呼びかけに応 じ、2カ所は天候不良で観測できなかったものの、5カ所で実際に観測が行われまし た。
圧巻だったのは、今年の4月29日です。この日は、朝から太陽フレアが何回も観 測されました。大型連休に突入していることもあり、各地で多くの人に太陽画像に注 目してもらおうと、あわてて「太陽望遠鏡メーリングリスト」で、「太陽フレアが次 々に起こっているので要注意」というメールを流しました。この日、かわべ天文公園 で、11回のフレアを観測し、西はりま天文台も含めて、あちこちでフレア観測のレポ ートのメールが飛び交いました。さらに次の日には、太陽観測衛星「ようこう」や野 辺山電波ヘリオグラフの観測結果が、研究者側から寄せられました。このように、公 開天文台の太陽観測にプロの研究者がすばやいレスポンスを示すことはこれまでなか ったことだと思います。これは、太陽望遠鏡メーリングリストのおかげだと言ってい いでしょう。
太陽フレアは、太陽コロナ中の磁気エネルギーが解放さえて生じる爆発現象です。 特にX線や電波で明るく見えます。日本では、「ようこう」や野辺山電波ヘリオグラ フでの最先端の観測装置があり、大きな成果をあげています。しかし、これまで、H αのフレア観測との比較が不十分であることが指摘されています。もちろん、日本国 内には、国立天文台三鷹の太陽フレア望遠鏡や、京大飛騨天文台のドームレス太陽望 遠鏡など、Hαで観測を行っているとこはあるます。しかし、天候などの理由から全 ての現象を観測できるわけではありません。そこで、複数の公開天文施設の太陽望遠 鏡の観測結果は、互いの欠測時間を補うことができます。
Hα光で観測する施設が増加したことで、太陽フレアに加えて、プロミネンスやサ ージと呼ばれる噴出現象など、太陽の彩層で起こるいろいろな現象も観測できます。 太陽極大期に向けて、Hα観測の重要性が指摘されており、公開天文施設の太陽望遠 鏡は、観測研究に十分なパフォーマンスを持っていると研究者からも期待されていま す。観測方法を工夫することで、太陽研究を自身で行ったり、貢献することも十分に 可能です。
<私自身のこと>
私は、大学院時代、太陽観測衛星「ようこう」や野辺山電波ヘリオグラフを使って 、太陽フレアの研究をしてきました。現在も研究を続けています。「ようこう」の衛 星運用を経験したこともあります。わたしのように、いわば、太陽研究の最先端に触 れて、今、天文教育普及の現場にいるというのは、珍しいことではあるし、その意義 は大きいと思っています。ですから、たえず、「自分にしかできないこと」を意識し て、今の仕事に取り組んでいます。
「X線や電波で見た太陽がいったい何を意味するのか」
「太陽のどんなことが人々の関心をひくか」
「どんなふうにすれば太陽望遠鏡を天文教育普及に役立てるのか」
「太陽望遠鏡でどんな研究活動が可能か」
などなど。おかげで、公開天文台の同業者からも、太陽についていろいろと聞かれた り、アドバイスをすることが多くなりました。しかし、まだまだ勉強不足な面も否め ません。誤ったことを伝えることがないよう、絶えず、太陽に関する勉強を続けてお ります。
太陽活動の次回の極大期は2000年と言われています。極大期に向けて、太陽望遠鏡 の観測はますます重要となるでしょう。私たちも、がんばって、太陽という天体のお もしろさを伝えていきたいと思います。
○著者紹介
矢治健太郎(やじけんたろう)
1966年生まれ、大阪府出身。大学院生時代は、太陽観測「ようこう」や野辺山電波ヘ リオグラフの観測データを使って、太陽フレアの研究。「声が大きくて、顔が広くて 、いつも緑色」「サイボーグ009」の大ファンで、作者の石ノ森章太郎氏が亡くな ったときは号泣したとか。そのほかについては、以下のホームページを参照されたし。
E-mail:yaji@yggdrasill.cosmo.kawabe.or.jp
URL:http://www.cosmo.kawabe.or.jp/people/yaji/