十五の君と十五の僕


 十五の僕は、校則で丸坊主で、右後頭部の十円ハゲが少し情けなかった。
 十五の君は校則でおかっぱ頭だったけど、
 それさえ可愛くって、紺のスクール水着がよく似合った。
 夏休みのひどく暑い午後、柔軟体操のフリでサボっている他の奴らを尻目に、
 僕はランニングを続けた。ホントは走るのあんまり好きじゃないけど、
 プールの金網の向こうには、水しぶきと虹のなかで笑う君がいたから。
 プールのとこだけ走った。
 どきどきするのは、走り続けたせいか、日焼けした君の笑顔のせいか。
 四月の進級で初めてクラスメートになれた君に、
 僕はまだあいさつさえまともにできなかった。
                〜涙の陸上部 アルバム『よい』TRUCK4〜

 九月の澄んだ空は好きだ。
 駆け抜けた後の冷たい風も好きだ。
 気にくわない奴をめたくそにできる騎馬戦も、棒倒しも弁当の栗ごはんも、
 一口カツも、みんな好きだ。
 体育祭の陸上部員はかなり男前で、ヒーローになれるのも気に入っている。
 だけど、何より好きなのは、走っている君だ。
 誰より輝いてて、一生懸命で、元気がよくて。
 去年も、おととしも、クラスの後から背伸びしてみていた。
 今年は、同じクラスだから。大手をふって応援できるから。
 いつもより三倍はまぶしくみえる。
 百メートル走は、体育祭の花で、第三コースの緑のゼッケンの君は、時の人。
 白い体操服から伸びた足がかっこよかった。
 いつも、いつも、その胸でテープを切っていた君が、
 視界から一瞬消えたのはほんの十秒後。
 声援と、砂埃の中、低いアングルでポニーテールが揺れていた。
 クラスの女子が血の滲んだ君のひざこぞうを洗ったり、
 髪の埃を払ってあげている間、僕は声もかけられずにいた。
 子供のように泣きじゃくる十五の君は、ほんとうに、ほんとうに素敵だった。
 あふれ続ける君の涙をぬぐえる奴なんて誰もいなかった。
 こないだの席替えでやっと隣になれて、
 ときどき因数分解を教えてあげられるようになった僕なんかも、
 当然・・・遠くからみているだけだった。
 九月の空は、それでも澄んでいて、僕はまた、体育祭が好きになった。
               〜夕焼け物語 アルバム『Jamgle』TRUCK6〜

 「クリスマスは彼女と過ごすもの」なんて言い出したヤローを見つけたら、
 僕は延髄切りをくらわしてやろうとつねづね思っていた。
 一浪して、やーっと大学に入れた兄貴が、
 半年も前からレンタカーの手配したり、
 ホットドッグプレスのフランス料理のマナー特集なんか読み耽ってるのが
 情けなっくて・・・だけど、一方でちょっと羨ましくって。
 十五の、いがぐり頭の僕なんて、二四日の日に
 「元気で明るく、クラスの盛り上げ役的存在ですが、やや集中力に欠けます」
 なんて書いてある通知表、受け取んなきゃなんないんだから・・・
 そう、ずっと、ずっと思ってたんだ。
 だいたい、キリスト教徒でもないのに、
 知らない奴の誕生日祝ってどーすんだよ!って。
 でもーーーーーーー前言撤回。
 「クリスマスは彼女と過ごすもの」と決めてくれたお方に出会ったら、
 僕は極上の微笑みなんか贈っちゃうぞ。今年ばかりは。
 十二月二四日の午後九時半、
 二人っきりでプラタナス並木なんか歩いている僕達って、
 まるで恋人同志。
 雪なんかもチラチラ舞い降りて、いわゆるひとつの「ホワイトクリスマス」
 ・・・クラスのクリスマス会の帰り、
 たまたま一緒の方向で、たまたま一緒に帰ることになった
 ・・・なんてことでも。
 ボーっと、ほの明るい街灯が照らし出す君の横顔に、
 僕はドキドキしっぱなしで、心臓の音が君に聞こえちゃうんじゃないかって、
 思うぐらいだった。
 「仲野くん、春高大丈夫って言われたんだってね。石井先生に。いーなー」
 ・・・僕の個人面談のこと、知ってるなんて、
 もしかして・・・僕のことに興味があるとか?
 「荻沢さんも櫻花の推薦かたいって。一月中にはもう受験勉強終わりだね」
 僕がこれぐらい知ってるのは当然だけど。
 「うん。でもね、私春高行きたかったんだー。
  がんばればなんとかボーダー越えられるって思うんだけど、
  ママがね無理して入っても、苦労するだけだし、
  もしものことがあったら・・・精神的に辛い思いさせるの嫌だからって。
  ママ櫻花のOGだし」
 君は少し淋しそうに笑った。舞い散る雪の中、まるで天使みたいに。
 「せっかく仲野くんに数学、教えてもらったのになー。
  残念。行きたかったな、春高」
 それって、やっぱこのシュチュエーションでそれって・・・
 動悸はどんどん速くなるばかりで、
 手はかじかんでるのに胸の辺りは熱いくらいで。
 「僕もまた荻沢さんとクラスメイトになりたかったな」
 手をのばせば、今手をのばせば、君に届くかもしれない。きもちごと。
 「荻沢さん、僕・・・」
 「好きだったの」
 同時だった。
 ためらった分だけ僕の声が負けてしまったけど。
 君のまぁるい瞳が、僕を見上げてて、その中でも雪が降り続いていた。
 「ずーっとね、好きだったの。仲野くんが羨ましかった」
 心臓が、飛び出しそうで、何にも言えないでいる僕に、君はどんどん続けた。
 「頭よくって、春高行けて。春高、野球もつよいでしょ。
  一年の時から、春高めざしてるって 行ってたから、
  私も絶対行こうって思ってたんだけど」
 ・・・君が野球好きなら、甲子園だってめざしちゃうよ。
 体育のソフトじゃ、僕いつもトップバッターだもん。
 「いいな。高校行っても、ずっと一緒なんだね。親友だもんね。仲野くんたち」
 ・・・通知表には、いつもかいてあった。
 今日もらったヤツにもやっぱり書いてあった。
 「多少早合点があるのが気になります。深く考えるくせをつけましょう」
 ・・・僕は陸上部。野球部なのは、親友の木杉。そう「親友」の。
 「わかってるんだ。でも、誰かに言いたかったの。中学最後のクリスマスだし」
 そうだね、木杉は今頃・・・
 「仲野くんやさしいからさ。ごめんね、甘えちゃった」
 背番号十二の、補欠のキャッチャーには、生意気にも彼女がいるのだ。
 いいヤツなんだけど、流行りもんに弱いあいつのために、
 ドリカムのクリスマスコンサートチケット、
 一晩中一緒に並んでとってやったのは、他でもない僕だ。
 「来年は荻沢も入れて四人で行こうぜ」
 なんて、ニキビ面でカッコつけやがって。
 「バーカ」なんて言っちゃったけど、ちょっと嬉しかったのも本当。
 高校生になったら、やっぱ第九だよな、なんて考えてたのも本当。
 「ホワイトクリスマスだね」
 君の笑顔はやっぱり可愛くって。
 僕はもっと雪が強くなればいいな、と思った。
 涙じゃないよ、雪のせいだよって、平気な顔でごまかせるぐらい。
 僕は忘れない。十五歳のクリスマス、
 いつまでも二人でいたくって、おもいきり、おもいっきり、
 ゆっくり歩いたこと。
 チラチラ舞い降りる雪のなか、プラタナス並木を歩く君のことが、
 それでもやっぱり好きだったこと。
        〜Bitter Memories アルバム『HIGH LANDER』TRUCK5〜

十七の君と十七の俺

〜春〜

 俺は走っていた。
 約束の時間にはゆっくり歩いたって充分間に合った。
 母さんは「遅くなるんなら、自転車にしたら?」って言ったけど、
 俺は黙って黒いコンバースに足を入れた。
 ・・・走りたかったんだ。自分の足で。
 あの日君と歩いたプラタナス並木。
 卒業式に並んで写真を撮った桜の下。
 二年前に君と刻んだ思い出の場所を、一歩一歩自分の足で駆け抜けたかった。
 卒業以来初めてのクラス会の通知は、食卓のうえに放り出されていた。
 冬の間の退屈な基礎練にブツブツ言いながら帰ってきた日だ。
 俺宛ての郵便物なんて、進研ゼミの高校生講座案内か、親に見られるとヤバイ
 怪しいダイレクトメール(ほんとに、なんで、俺んとこに来るんだ!)
 ぐらいで、普段は気にもとめない。
 でも、その往復はがきの宛名書きに、俺の目は釘づけになった。
 忘れない。忘れられない、右あがりの、少しクセのある文字。
 差出人の名前は違ったが、これは間違いなく君の文字。慌てて裏返す。
 「逢えるの、楽しみにしてるね」
 飾り気のない事務的な通知文のあとに、
 その見覚えのある字は、そう一言だけ添えてあった。
 名前はなかった。
 でも、俺にはすぐわかった。
 何度も何度も、俺はその一言を読み直し、
 返信用のはがきの「御出席」に丸をつけた。
 日時も場所も、頭に入ってこなかった。
 たとえ、親戚の結婚式があっても、南極で現地集合だろうと、
 俺は死んでも駆けつけてやる。君のひとことのためになら。
 あれから二年。
 正直言って、ずっと君だけを思っていたわけではない。
 新しい環境のなか、「いいな」と思う子も何人かいた。
 本当言うと、「彼女」なんかもいた。
 去年のバレンタイン、消え入りそうな声で告白してくれたその子を、
 たまらなくいとしく思えたのも事実。
 部活の休みを縫って映画を観たり、遠足の時お弁当作ってもらったり、
 かなり幸せだったのも事実。
 ・・・でも、そんな時にも、君と撮った桜の下の写真は、
 本棚にそのままにしてあったのも・・・事実。
 あれは、ほんの半年前。彼女は櫻花祭のチケットを俺に渡した。
 「天下のお嬢様学校でしょう?なかなか手に入らないんだから!」
 彼女は笑った。
 親友が『アンナ・カレーニア』をやるから 一緒に観に行こうと言われた。
 俺は、その場で返事ができなかった。
 今まで、彼女の誘いを断ったことなんて一度もなかったから、
 彼女は不審気に顔を覗き込んだ。その時、俺はどんな顔をしていたんだろう。
 彼女の瞳はにわかにかき曇った。
 「いや?」
 俺は、黙ったままだった。
 彼女と並んで櫻花の中を歩くのは避けたかった。
 八ヵ月もの付き合いのなかで、初めて気付いた気持ちだった。
 彼女のことが好きだった。それは、決して嘘ではない。
 でも、本棚の写真を、俺は捨てられないのだ。
 用事があるとか、言い訳のしようはいくらでもあった。
 でも、何も言えなかった。
 俺自身、気付いてしまった気持ちに一番驚いていたから。
 「なんで?」
 当然のごとく彼女は聞いた。
 俺は黙り続けた。
 時間にすれば、ほんの数秒の沈黙が、何よりも雄弁に全てを語った。
 「わかった。ゆきちゃんと行く」
   彼女は、静かにそう言った。
 その日から、俺達の距離は遠くなった。
 クリスマス、彼女は他の奴から誘われたと言った。俺はまた、黙っていた。
 「もう、いいんだね」
 涙をうかべた彼女の瞳をまっすぐ見れない俺は、
 とても卑怯で、ずるいと思ったけどどうしようもなかった。
 夕陽を映す桜の大群をつき抜けて、あの角を曲がれば、君の笑顔に逢える。
 伝えたい、伝えよう。今度こそは。
 傷つけたことも、傷ついたことも、無駄にしないように。
 息を整えながら、俺は、店の扉を押した。
          〜夕焼け物語 アルバム『青春玉ー学生時代ー』TRUCK7〜

涙も笑いも、野越え山越え

〜爆風スランプの日本一元気の出るラブソングス〜

 男子中学生の恋愛を描かせたら、
 サンプラザ中野の右に出るものは絶対にいない。
 「水道よりも蛇口よりも」涙を流してしまうような、純粋な中学生が、
 今どれくらい居るんだかよくわからないが、
 とにかく、私の学生時代にはいっぱいいた。
 爆風スランプのラヴソングは、こういう切なすぎる想いを赤裸々に歌い上げる、
 生活臭のある率直な表現に支えられている。
 それは、ユーミンのトレンディードラマのような
 あこがれのアーヴァンライフ的恋愛や、
 SASの「Hot Dog Press夏号」仕立ての湘南を舞台にした
 ひと夏のアバンチュール (私はどっちもファンなんですが(^^;)とは
 一線を画す独自のラヴソング。 
 武道館を「大きなたまねぎ」と呼んだセンス、
 ファーストキスで前歯をぶつける生々しいエピソード、
 『終わる恋じゃねぇだろ』と言い切る若さ故の強い想いが渾然一体となって、
 目の前に、中学校の教室なんかが浮かんできて、
 切なくて胸が痛くなってしまうような、まさに等身大の歌なのだ。
 ドキュメンタリーが、時に重苦しいのは情緒の欠落による。
 ともすれば、生々しく、どぎつくなりがちな彼らの赤裸々なエピソードは、
 サンプラザ中野という詩人(フィルター)を通して、
 リリカルなことばの魔術にかかり、
 愛くるしいメタファにくるまれた詩的世界を広げるのである。
 言うなれば、松竹新喜劇風涙と笑いの房総半島的恋愛、
 といったところであろうか。
 数ある爆風の珠玉のラヴソングスの中でも、
 『ひどく暑かった日のラヴソング』は実にさわやかだ。
 彼の誕生日にプレゼントしたレコードのB面が回り続ける中、
 別れ話を切り出せずに泣き出してしまう女の子と、
 それを見守ってしまう男の子の姿が書きたくて始めたのが、
 この『十五の君と十五の僕』だったりする。
 「やっぱり男の子は陸上部だよね(^-^)」とか、
 「だけど、野球部の補欠のキャッチャーの方が
  もてちゃったりするんだよね(^^;」とか、
 爆風ファンなら思わずほくそえんでしまう小さな設定を交えながら
 楽しく書いた。
 結局、どうも鬱陶しくなってしまったので(^-^;)
 『ひどく暑かった日のラヴソング』までたどり着けかったのだが、
 季節的にも綺麗にまとまったので、とりあえず一段落。
 気が向いたら、前歯をぶつける話を書きたいな(笑)