水野俊哉の新刊インタビュー Vol .6 
「くたばれ! 就職氷河期」
日時 201010月14日(金)
 
◆「くたばれ! 就職氷河期」(角川SCC新書) 常見 陽平 さん
   http://amzn.to/gNBaXf
 
【プロフィール】 

株式会社クオリティ・オブ・ライフ チーフプランナー、実践女子大学非常勤講師。

北海道札幌市出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。

とらばーゆ編集部、トヨタ自動車との合併会社オージェイティ・ソリューションズなどを経て、大手メーカーに移り新卒採用を担当。

2009年株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。

2010年より実践女子大学非常勤講師を兼務。就活をメインテーマに講演、執筆、研究・調査、コンサルティングなどに没頭しつつ、面白い社会人をデビューさせるべく奮闘中。

陽平ドットコム http://www.yo-hey.com/

 

 
≪水野≫ 常見さんは、人材コンサルタント、大学の講師として新卒採用や、若手人材育成に尽力され、雑誌、新聞、書籍にも精力的に執筆されています。
新刊の「くたばれ! 就職氷河期」も早速読ませていただきました。内容もかなり濃くて素晴らしかったのですが、何よりタイトルにとてもインパクトを感じました。
 
≪常見≫ 有難うございます。「くたばれ! 就職氷河期」のタイトルは、「私らしい」と良く言われます。前書きでもお話しましたが、私の思いを沢山盛り込んで語った渾身の1冊です。
 
≪水野≫ 今回、新書として出されたのに理由があるとお伺いしましたが。
 
≪常見≫ 新書は時代の気持ちを代弁する形態だと感じています。私の本は就職コーナーに置かれることが多いのですが、多くの読者層に読んで頂きたいと思い、新書という選択をしました。
 
≪水野≫ 本書は世の中に本当のことを伝えたいという、常見さんの熱い思いが伝わってくる一冊でした。タイトルにこめられた思いというか、就職氷河期という言葉が連呼されることに義憤を感じていらっしゃる理由について、改めてお聞きしてもよろしいですか?
 
≪常見≫ はい。就職氷河期というと、日本の景気が悪くて企業が新卒の採用を抑えているイメージがあります。ところが現在の就職難は景気に左右されるものだけではなく、むしろ就職断層の存在が原因です。
就職氷河期の底の年は2000年で、リクルート調査の求人倍率が1倍を切って0.99倍。求人数で言うと40万人でした。
ところが、2011年は、新卒の求人倍率が1.28倍。実に58万2千万人分求人があるのです。なのに、なぜ氷河期と言われるかというと、企業と学生が決定的に出会えない断層が原因なのです。
 
その理由として33%もの企業が、実質上、ターゲット大学を設定しているのです。
33%のうちの82%の企業が20校のトップ校をターゲット校に指定しているそうです。
つまり、知名度のある大学の中でも優秀な学生が内定を複数とり、そうでない学生は内定0という事態を引き起こしているのです。企業と学生が出会えないこの時代について問題があると私は考えています。それを簡単に「就職氷河期」という言葉で片付けてほしくないですね。
 
≪水野≫ なるほど。就職氷河期と言ってしまうと景気などのせいにしてしまいがちですが、実際は構造的な断層が原因だということが分かりました。
第1章を読むと詳しいデータが載っていて良く理解できます。
それでは本書を章の順にお聞きしていきたいと思います。
 
まず、第1章の「就職氷河期って言うな。絶望の「就職活動断層時代」」については、企業と学生が決定的に出会えなくなってきている現状を、細かなデータを元に論理的に説明してあります。
 
≪常見≫ 現状、企業は一部の学生、上位5%〜20%のいわばパレート化した人たちしか見ていませんし、学生も分不相応な有名企業や一部上場企業しか見ていないということが、ミスマッチの原因です。 ※注)パレ―トとは「8020の法則」でいう上位20%のこと。例:「企業の売上の80%は20%の生産性の高い従業員による」など。(参考「法則のトリセツ」(徳間書店))
つまり、現在の就職氷河期というのは、いわゆる、景気に左右されて1年時期をずらしたから解消するような雇用問題ではなく、就職活動の形態が起こしている問題だと言えます。それを「就職氷河期」という言葉で片付ける世論に、私は憤りを感じています。
 
≪水野≫ ネットで応募できる、就職ナビなどの存在も大きいようですね。
 
≪常見≫ はい。人気企業はエントリー数が5万人にもなる現状があります。そうすると採用する企業も対応が雑になり、採用するための基準も高くせざるを得ません。
応募書類もレベルが高いものが求められるため、学生への負荷も大きくなっています。
 
≪水野≫ 現在の就職難は、大手企業への人気が集中するということも一因です。
そんな学生側の傾向について、第2章「新卒採用をめぐる人事のホンネとは何か?」の中で「こんな学生はいらない」という6つのポイントが参考になります。
 
1、社会貢献志向、エコ大好き人間
2、単なるファン
3、福利厚生をやたらと気にする人
4、安定を期待する学生
5、配属先や部署や勤務地に異常にこだわる学生
6、研修制度についてしつこく聞く学生
 
≪常見≫ 私が現場で見ていると、上記に当てはまる学生はとても多いです。
企業とは何かというと、価値を創造して、提供し、利益を得る集団なのですね。
その大前提に気づいていない学生さんが非常に多い。考えが甘いと思います。
学生も可愛そうな立場だと思い書くことを躊躇しましたが、正直なことを言った方が誠実だと思って書きました。
 
≪水野≫ 反面教師というか、自分が6項目に当てはまるなら、そこに気づいた方がいいということに私も同感です。
なかなか学生さんにそういう視点はないかもしれませんが。
 
≪常見≫ 企業が人材を採用するのは、業績を伸ばしたいからか、もしくは社内を活性化したいから採用するんです。若者の自己実現のために企業が存在する訳ではないので、そこに気づいて欲しいです。
 
≪水野≫ 今の大学生の特色で常見さんが気づかれたことなどはありますか?
 
≪常見≫ 今の学生は自己実現思考が強いですね。いいことでもあるのですが、自分が好きだという意識を持った若者が多いと感じます。有名大学で伺ったところ、一番人気があるのが自己分析セミナーだそうです。
就職活動においては自分を知るのも大事ですが、企業のことを知らないといけないのに業界分析セミナーは人気がないそうです。
90年代以降、自己分析、自分大好きな傾向を感じます。女性誌を見ていると3カ月に1回は「本当の自分」ですからね。
 
≪水野≫ なるほど。
 
≪常見≫ 私は74年生まれで、水野さんは73年生まれですよね。私たちの世代は、大学でサークル活動に燃えたり、多少レジャーランドのような感じで遊んでもいましたが、就職する時には今までの自分を捨てて、覚悟を決めてがむしゃらに働いたものです。
 
もちろん全員ではないのですが、今の学生の特徴は、まずこうなりたい自分があって、いかにそこに早くいけるかということが念頭にあるようです。そして、その攻略法を考えます。
私のセミナーでお会いする学生さんからよく「どうやったら内定に最短距離でいけるか」などの質問を受けます。
私は、その考え方には内心賛成し兼ねているのです。無駄を嫌う合理性が裏目に出てしまうからです。
なぜなら、すぐに独立、フリーランスという覚悟がないなら、企業に貢献しなければならない立場です。自分中心でいくと会社から必要とされなくなっていくのが目に見えていますから。
 
≪水野≫ 自分がいかに良くなるかを知ろうとすることも大事ですが、企業に属する以上会社にどれだけ貢献できるかはとても大事な視点です。
そこで3章に「就活が上手くいく学生の10の法則」がありますね。
 
1、働く覚悟はある
2、学生生活が充実している
3、「異なる者」との接点がある
4、情報源が広く、深い
5、企業・仕事に対する具体的なイメージを持っている
6、ミーハー感覚で仕事を選んでいない
7、自分の言葉で自分を語れる
8、質問力がある
9、適切な就活対策をしている
10、保護者との距離がちょうどよい
 
学生さんにとって、就職活動を制するためのとても参考になるポイントを箇条書きにしてくれていると感じます。
 
≪常見≫ 一見、この法則は当たり前のように水野さんも思われるでしょう。
ところが、私が多数の学生への面談を通じて感じたのは、この当たり前が出来ないことが問題なんです。
 
≪水野≫ 当たり前のことができない学生が多いということですね。
就職活動中の学生さんと、その親御さんに是非読んでもらいたいです。
 
≪常見≫ 私が思うのは、就職活動に限らず、ビジネスも水野さんの成功法則本に書いてあることと同じです。ビジネスパーソンとして、楽しく働いてかつ成果を出すということが原則だと感じています。
私は人材コンサルタントと言うと格好いいですが、営業から提案から納品まで全部やっている営業マンです。
しかも、逆に営業される機会も多くて、人を見る目が肥えてきたというか、出来る人と出来ない人の差も分かるようになりました。出来る人は、足で情報を稼いで提案する人ですね。
 
≪水野≫ 学生さんも働くことの本質は、足で稼ぐ、汗と努力が必要だと前もって知っておいた方が、覚悟が出来ていいのではないでしょうか。
 
≪常見≫ そう思います。その視点があれば、ネームバリューや何となく格好いいからという理由だけで選ばなくなるかもしれません。
やはり、就職先とのマッチングも大事だと思います。企業に採用されるには、企業から好かれないと成立しません。例えば、その人に好かれるかどうかというのは、その人のことを分かるかどうかだと思っています。
昔の恋愛マニュアル雑誌のホットドックプレスに書いてあるような「最近の女子大生、OLはこうだ」という例があっても、それ自体個人差があって実際の人間には当てはまりませんよね。就職活動も同じです。
 
≪水野≫ 会社にも個性があるので、自分に合うのか相性を見極めるのが前提ですね。
その上でどんな企業なのか、どんな人材を求めているのかを調べて、相手にとって役にたつ人材になるという気持ちで就職活動をした方がいいということですね。さて、第4章は「女子の就職活動をどうするか」です。
この章では、常見さんが母子家庭でお育ちになっていることが書かれています。そして現在女子大の講師もされているので、女性の就職活動について書かれているこの章は説得力がありました。
 
≪常見≫ 4章はこの本の中でもっとも楽しく書けた章です。
実は一番評判が良い章で、優れていると色々な方たちに言っていただけて嬉しかったです。
 
≪水野≫ 生の声も紹介してありますね。
 
≪常見≫ 女性の社会進出だ、何だと言われているけれど正直、女性差別は根強く残っています。男女雇用機会均等法から約25年になりますが、女性が働きづらいのは変わらないと思っています。そして、女性が専業主婦志向も見受けられます。
本書では解決策は提案できませんでしたが、現状、こうなっているということを伝えました。
 
≪水野≫ 女性の就職は総合職より一般職の椅子取りの方が激しかったり、男子学生より女子学生の方が優秀だが、最終的に採用されるのは男子だという現実が本書には書かれています。女性は男性と違って出産があるというリスクも現実でしょう。
 
≪常見≫ 実は「すごい女性」ではなく、しなやかに働く女性のロールモデルは存在しています。そのような先輩社員を探して就活中に会いにいくと参考になると思います。
女性の活躍やWLB(ワークライフバランス)に関する制度は、日本はまだ発展途上です。だからこそ「前例が自分」になる気持ちで働いて欲しいと思います。会社の中で活躍して自分が前例になる勇気を持って欲しいと願っています。
 
≪水野≫ 第4章は30ページの中で色々なテーマが詰まっていて読みごたえがありました。是非、女子大生の方は本書を読んで参考にしてほしいです。
第5章では「地方の就活をどうするか?」ですが、特に参考になると感じたのが、
「地方の学生が納得いく就活をするための5つの法則」です。
 
1、地方学生の強みを忘れない
2、時間とお金のやりくりをする
3、情報収集に力を入れる
4、どこで働くかを柔軟に考える
5、地方の積極採用企業をリストアップする
 
≪常見≫ 地方学生は何種類かに分けて考える必要があります。
地方大でも理系はモテモテなので、就活にあまり困っていません。世の中全体として理系は評価されていて、選択肢が広くなっています。
地方の国立文系、私立大学文系は正直苦戦していると感じています。
 
地方の国立大学の偏差値は、日東駒専 MARCHと変わらないのですが、どちらに進学するかで人生が変わってしまう部分もあり、究極の選択でもあります。
都市だから出来る勉強もあるからです。
 
≪水野≫ 地方学生にもメリットはありますか?
 
≪常見≫ もちろんあります。地方学生は素朴ですし、勉強しているのでそこをアピールできます。そして、地元の企業と密接な関係にあり、就職も地元ですればいい訳で何も東京に出ていく必要はない訳ですから。
最近は、地方学生の面白い学生団体が立ち上がってきていて、前向きな就職活動をしているようです。
 
≪水野≫ 6章は「学歴差別をどう乗り越えるのか」ですね。
就活断層の象徴でもある学歴差別について、「学歴差別を乗り越える5つの法則」を紹介します。
 
1、企業選びに最大の力を注ぐ
2、強みを最大に活かし「意外に優秀」「いないタイプ」と呼ばれよう
3、他大学の就活仲間を作る
4、初期段階の選考対策を徹底的に行う
5、行動の量を減らさない、諦めない
 
≪常見≫ 学歴差別はかなり根深い問題で、「学歴」という言葉を出しただけでかなり過剰反応を起こすなど、皆、過敏になっています。
ある企業の人事担当者の方が会社PRで「当社は学歴差別をしていません」と大手ナビサイトの広告で書いたところ、審査を担当する部署から指摘があり、「学歴差別はないことになっているので、そういう表現はやめてほしい」と言われたそうです。
でもナビサイトこそ、学校ごとに内容の違うメールを送っているという現実もあり、本音と建前が矛盾しています。
 
≪水野≫ 学歴差別を表面化にしたくない思惑が存在しているということでしょうか。常見さんは学歴差別の理由は何だとお考えになりますか?
 
≪常見≫ 大学生の数がかなり増えたのが原因の一つでもあります。日本の大学の数が約778もあり政策のミスとも言われていますが、大学進学率をあげるというのは間違いではないと思います。例えば、オーストラリア、ニュージーランドなどの北欧は8割弱以上が大学進学しているのですから、日本よりも高いです。
そして、日本は就職率が低いと言われているけれど、諸外国に比べたら、日本はまだ就職率が高いです。そこを見逃してはいけないと思います。
 
≪水野≫ 先ほどの学歴差別を乗り越える5つの法則はかなりポイントをついています。
 
≪常見≫ 学生さんからも、第一希望大学に落ちて今の大学に入った。何とか第一希望の大学の人と同じレベルの会社に就職したいという相談を受けることがあります。
私がそこでアドバイスしているのは、「企業は同質化を怖がる」ということです。つまり、学歴差別を乗り越えて就職する方法はあるのです。
 
まず、自分と肌があう会社を見つけること。会社選別に力を入れてほしいです。
そして、同質化を怖がる企業の特性を考えて、学校レベルの割に優秀だと思ってもらったり、他大学にはあまりいないタイプだという特性をアピールしたりということも有効でしょう。
 
≪水野≫ 常見さんの意見は、多くの学生の方の参考になるでしょう。
新聞では日々、就職活動についての記事が掲載されていますが、実は、今日はタイムリーな記事を持参しました。
「日本経済新聞 20101011日(月)」より日本学術会議についての記事です。上智学院理事長 高祖敏明氏の寄稿から一部抜粋します。
 
『文部科学省によると今春の大学卒業生5人に3人しか就職しておらず、大学院進学を除いた就職希望者に限定すると、5人に1にしか就職できていない。
就活の早期化と長期化が、大学教育空洞化の元凶と批判されている。
個々の企業の採用基準が明確ではなく、どこも似通った「人材像」しか掲げていないように見受けられる。
新卒一括採用という、日本独自のある意味即効的な採用慣行は、既卒者を採用対象から厳しく排除する面も併せ持つ。それが「一度しか来ない列車」に乗り遅れまいとする学生の焦りをかきたてる。
 
そこで明確な採用基準を期待したい。
1、      学生の生涯にわたるキャリア発達や、キャリアガイダンス
2、      学事日程と就活が両立するように日程を双方で強力し会う
3、      各企業が採用基準や求める人物像を、明確化・具体化する
4、      卒業後3年間は若年既卒者として新卒扱いにする
5、      就職できない若者向けにセーフティネットを構築』
 
 日本学術会議の結論について、常見さんはどう思われましたか?
 
≪常見≫ この新聞で書かれていることは、もっともだと思いますし、会議の結論に関しては反対ではありませんが、これだと救われないというのが私の意見です。
 
≪水野≫ 正論では学生は救われないということですね?
 
≪常見≫ 大学生活は勉強や遊びに夢中になって欲しいと思っています。
ただ、これだけ就職難だと言われているのに、学生さんに「就職を気にせず勉強しろ」というのもエゴではないかと思っています。身の危険が迫っている学生たちは、内心落ち着かない毎日を過ごしています。就活の早期化は就職情報会社が煽っているという指摘もありますが、実際は相当、気をつかっていると感じます。
 
自分の進路の不安から、就活のことが気なることは、日本経済の先行きが不透明な中ではやむを得ないと思います。大学1、2年生から就活の質問をよく頂くと複雑な心境になるのですが。
大学が立派で就職活動が悪だという世界観が大学側には存在しているので、そこを検証する必要があると感じています。
 
≪水野≫ なるほど。
  
≪常見≫ 私は日経新聞連載の「私の履歴書」が大好きで、毎日のように読んでいます。そこで共通しているのが、偉人の方たちは大学時代にはかなり遊んでいることです。
大学後半や大学院では勉強されていたようですが。
遊びたい学生も抱擁してくれて、勉強したい学生は応援してくれる。それが日本の大学の良さだったのではないかなとも思っています。やや牧歌的な解釈ではありますが。
 
私の世代(74年生まれ)の大学とは、入りづらくて出やすい場所でした。
入りづらいというところでレベルを確保していましたが、現在日本が唯一世界の中で大学に入りやすくて出やすいと言われています。これはきわめて異例です。
卒業はできても学生生活は就職活動オンリーで勉強も遊びも出来ない。就活を頑張っても採用されるとは限らない。それが日本の大学の現実です。
 
≪水野≫ 次の「第7章 就活をどうするか」の中の「新卒一括採用の5つの問題点」についてお話を伺わせてください。
 
1、求人数について、景気の影響を受けやすく、年度ごとの格差が生まれる
2、終身雇用が崩壊する中、未経験者の採用は経済的合理性がない
3、一度ここでレールをはずれてしまうと、途中で再エントリーできる機会が乏しい
4、コストや手間がかかる
5、学生の本業である学業を阻害する
 
≪常見≫ 新卒の就職は景気連動もありますが、中小企業も求人はあるので、実際には入る会社がどこにもないという訳ではないのです。ただ、学生がそこに入りたいかどうかが問題です。
ただ、大企業に入ったからといって完全に安定しているという訳ではないです。
 
就活は挽回がきかないというけれど、日本の大卒で、20代のうちに50%が転職しているんですよ。35歳までに終の棲家をみつけるという構造になっているので、新卒で入れさえすれば終わりという訳ではないと思います。
 
≪水野≫ 新卒3年後まで新卒扱いにするという議論について、常見さんはどうお考えですか?
 
≪常見≫ 雇用対策という意味では私は賛成できません。
就職留年している人たちをみても、就活しながらバイトで食べて行くのは大変でしょう。
そして、卒業後も就職活動をOKにしたら、劇的に皆成長しますかと言ったらそうでもないんです。
内定が決まらない人は歩みをやめるタイプが多くて、結局就職がますます難しくなっていきます。
現場に近いところを見ていると、3年間新卒扱いにしてもまたそこで格差が生まれることは必須です。内定をもらう人は先にもらってしまうので、卒業してからもとれない人はとれないまま、いずれ就活をやめてしまうという格差が起こるでしょう。
 
≪水野≫ 逆に新卒一括採用のタイミングがあるから、就職できている人も多いのではないでしょうか。
パレートの法則にもあるように、頑張る人は頑張るけれど、途中でやる気がなくなる人もいます。本書では、その部分を現実かつ具体的に書かれているのが面白いと思いました。
 
≪常見≫ そうですね。水野さんがおっしゃる通り、パレートの法則的に言っても、就職できない学生は一定割合存在します。
だからこそ私はセーフティネットが絶対に必要だと思っています。現在は、上位2割の神さま人材じゃないと決まらない構造になっています。
そこで、強制マッチングになるかもしれませんが、雇ってくれる会社に入り社会人経験を積ませてあげることが必要ではないかと考えています。
 
≪水野≫ 社会人経験を積ませてあげることは、良い案だと思います。
 
≪常見≫ 他に問題の1つとして高校卒業の求人がないということがあります。
今年の4月、高校生の就職率が少し回復したのですが、それはゴリゴリに就職支援をしたことと、就職せずに大学生にさせたという構造があります。
 
≪水野≫ 高卒の就職難も現実的な問題ですね。それを避けるために大学進学率があがり、大学卒業時にやはり就職できない現実が待っているという構造もあるのでしょう。
 
常見さんは、7章に就活改革に向けた提言を、企業、大学、就職情報会社、官庁、学生向けに書いてくださっていますね。複雑な問題ですから、それぞれに提言をされている意義はとても大きいと思います。
私はここが一番読んでほしいところだと感じました。
 
≪常見≫ 有難うございます。それぞれの立場に向けて、客観的に問題点と解決方法を提示しました。水野さんは就活について何かお気づきの点はありますか?
 
≪水野≫ 私は本書を読んで、就活は株式投資に似ていると感じました。
常見さんが指摘されているように、BtoBの企業は業績が安定していて労務環境がいいのに注目度が低く、いわば株価が安値で放置されている状況でしょう。
いずれも本来の価値より低く評価されているところが共通しています。
 
中小企業も玉石混合で確かに探すのは難しいですが、「日本で一番大切にしたい会社」的な素晴らしい会社も沢山あります。
株式投資でいうと、企業価値を計算し実際の株価と比較して、割安な銘柄に投資する方法をバリュー投資といいますが、就活も同じように今はそこまで注目されていないけれど、今後伸びる会社を探して就職するのは将来性があって良いのではないでしょうか。
現在注目されている企業以外にも探せばまだ良い企業はあるのではないかと感じています。
 
≪常見≫ 水野さんがおっしゃる通りだと思います。私が思うのは、「働くということをどういう風にデザインしますか」という言葉です。
長く勤めたいと思ったら、自分と肌があう会社を選んだ方がいいでしょう。企業名や
ブランドイメージだけではなく、自分に合った会社を選んだ方がよりよく働けると思います。
 
≪水野≫ 単に人気企業だからとか、有名だからという理由で受けない方がいいでしょう。
いい例として、破たんしたJALが人気企業ランキングに長く入っていました。働いている人からすると、学生はイメージ先行だと感じます。
 
≪常見≫ JALはずっと危ないと言われていましたし、もちろん、赤字路線を抱えなければいけないなど気の毒な部分はありますが、学生さんは、なかなかそれに気づけなかったですよね。
 
≪水野≫ 経営状態は調べればすぐに分かりますからね。
 
≪常見≫ 私は札幌市出身なんですが、北大出身というのは地元で最高にエリートです。
以前その北大生が選ぶ人気企業ベスト5が、北海道拓殖銀行 北海道電力 ホクレン 雪印 丸井今井百貨店 でしたが、ベスト5のうち3社が現在は存在しません。そのような現実も起こりえるんです。
 
≪水野≫ 会社の規模やイメージ、有名かどうかで選ぶのではなく、ちゃんと調べて入社した方がいいということですね。
本書「くたばれ! 就職氷河期」は、真面目な話をしているのに、随所に大潜伏しろなど面白い言葉があり常見さんらしい本だと感じました。
 
≪常見≫ 本書は学術論文として通用するレベルを目指すことを、裏テーマとして書きました。
大学の准教授クラス、論文を一杯発表している友人にアカデミーチェックを受けて、おかしい部分がないかをみてもらい構築していった自信作です。
データも学生アルバイトを雇って完璧に洗いました。冷たい現実を目の当たりにし、意図的に感情的に書いた部分もあります。
 
≪水野≫ とても論理的且つデータの裏付けもあり、常見さんの使命感と熱い情熱を感じる、素晴らしい本でした。加えて学生さんへの深い愛情を感じます。
 
≪常見≫ 私は新聞の就職氷河期についての記事を読んで、その内容を否定はしませんが、常々空しさを感じていました。
 
私がこの時代を生き抜くためには、個々人が甘えを失くして自立するしかないと思っています。自立しろといっても、自立できない人もいるとは思いますが。「強くなるか楽しむか。あるいはその両方しかない」と。堀江貴文さんも「格差の壁をぶっ壊す」(宝島新書)でそんな趣旨のことを仰っていました。
 
皆、負けずに強く生きてほしいです。生き抜くための力をつけてほしい。
雑誌SPA!などの特集で「年収20040代フリーターの赤裸々な人生」のような特集がありましたが、この時代は「楽しんで生き抜けるか」というのが大事ではないでしょうか。
 
≪水野≫ 楽しんで生き抜くためにこそ、強くなる必要があるでしょうね。強くなってこそ、辛いことも含めて楽しめるのかもしれません。
 
≪常見≫ 私の今の心境を、映画やアニメに例えると、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」でナウシカがオームの群れに、「だめ、そっちいっちゃだめ」と叫ぶシーンがあります。他には、「ターミネーター2」でサラ・コナーが夢の中で公園で遊んでいる子どもたちに「これに乗ったらだめ!」と言った直後に核爆発が起きるシーンがあります。
現在の私はまさに同じ心境なんです。
学生たちに「そっちに行ってはダメだ!」と叫んでいるんです。その思いを本に託しました。
 
≪水野≫ 学生さんたちへの熱い思いが、忙しい中で本を書こうという意欲に繋がっていらっしゃるのですね。
ところで今後はどんな本を書いていかれたいですか?
 
≪常見≫ 「就活のバカヤロー」(光文社新書 石渡 嶺司との共著)は115千部のベストセラーとなりましたが、それを超えたいです。もっと傑作を作って、後世に残したいという気持ちがあります。
実は、来年から就職活動系の本はスローダウンしようと思っています。期待されているジャンルではあるのですが、本自体を出すペースも絞ろうと思っています。
 
今後は若者に生き方を伝える本を書きたいです。
社会人向けのノンフィクションや、生きる上で本当に大事なことは何だろうということも伝えたいです。
 
他には文学も書いてみたいです。
文学は国境、世代を超えて残っていくところが魅力です。
何年後かに文学でデビューして、芥川賞はじめとする文学賞を受賞して、お祝いの電話やメールが鳴りやまない中で、学生時代のように松屋の牛焼肉定食を食べるとか、下北沢の居酒屋で妻や中川淳一郎氏とお酒を飲めていたら幸せだなと想像しています。
 
≪水野≫ 色々な構想があって素晴らしいですね。最後に読者へのメッセージをお願いします。
 
≪常見≫ 「現実を見よう。そして未来を作るのは僕たちだ」と伝えたいです。
僕はここまでの人生でいい経験をしたと感じています。
生きていてリアルなことを見てきた一方で、レールは自分で作っていくものだと信じて、実際にそうして生きています。
 
「くたばれ! 就職氷河期」というタイトルにこめた思いには、他力本願ではなく自己責任で考えようという私のモットーをこめたつもりです。
現状は変えようがない。では、あなたはどうするのかということです。
出来ないではなく、出来る方法を考えよう。
未来を作るのは自分たちだという気概を持って、生きて行って欲しいです。
 
≪水野≫ 常見さんの熱い思いが本当に伝わってきます。
若者がこの世の中に出る時に、闇雲に動くのでは傷を負います。本書を読んで就活に必要な知識を身につけて、これからの人生を切り開いていいって欲しいと私も思います。
 
≪常見≫ 最後に、私を一人で育ててくれた母にもこの本を捧げたいです。母は大学教授ですが、働きながら女手一つで私を育ててくれました。母には今でも頭があがりません。
そして、私をいつも支えてくれている妻にも感謝しています。
 
≪水野≫ 今日は本当に素晴らしいお聞かせくださって有難うございました。
 
≪常見≫ こちらこそ有難うございました。
 
(構成 金子美子)
◆インタビュアー 水野 俊哉
 
【プロフィール】1973年生まれ。ビジネス書著者。
著書一覧 「成功本50冊勝ち抜け案内」(光文社)「成功本51冊もっと勝ち抜け案内」(光文社)「お金持ちになるマネー本厳選50冊」(講談社)「知っているようで知らない 法則のトリセツ」(徳間書店)「「ビジネス書」のトリセツ」(徳間書店)「モテ本案内51」(ディスカヴァートゥエンティワン)「誰もが無理なく夢を引き寄せる365日の法則」(きこ書房)「ビジネス本作家の値打ち」(扶桑社)「マトリックス図解思考」(徳間書店)「徹底網羅 お金儲けのトリセツ」(PHP研究所)
 
 取材/日経新聞、日経ビジネスアソシエ、日経キャリアマガジン、ゆかしメディア他
 
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