介護保険の歩き方 2.介護「IT革命」ってやつ。
                    〜介護保険開始時、こんな戦いがあった。
                     今語ろう、ソフト屋さんたちとの事。〜
〜もくじ〜

1.今言っておかないと、永久に埋もれてしまうような事。
2.あの時、私たちが抱えていたモンダイ。
3.気づけば、介護IT革命。
4.介護IT革命に乗りすぎたり、乗り遅れたり。
5.そして、施行開始1年以上が過ぎて。

1. 今言っておかないと、永久に埋もれてしまうようなこと。

今言っておかないと、永久に闇に埋もれてしまうような事。
あの時、別にソフト屋さんたちは悪くなかった。

悪かったのは、介護保険制度のしくみを作った側の人たち。
いや、どう考えてももともと時間がなかった。押しに押していた。
しくみは皆で充分に検討されなければいけないものだったのだろうが、
全体像が見えないまま、なだれ込むように制度が始まることが宣言された。

(各自治体が策定する「介護保険事業計画」の段階で既にもうかなりヤバイ感じだった。
 自治体事務方はあのワークシートをにらんで、あまりの時間のなさに絶望のふちに
 捕らえられていただろうとお察しする。
 結局政治家Kさんの一言によって、保険料の徴収は伸びたり複合型ができたり
 さらに混迷を極めたのだが・・・。
 「介護保険制度」そのものの是非は、まだ私には判別しがたいのでまたいつか。)

2. あの時、私たちが抱えていたモンダイ。

介護保険事業者にとっての「あの時」とは、事業者ならだれしもがうわあああと
頭を抱えて思い出すことのできる時。平成12年3月〜5月、介護保険制度施行開始時のことだ。
すごい混乱ぶりだった。
まず、以前から在宅の福祉業界にいた者にとっては、サービスを介護保険対応にするだけでも
大変だったのに、さらにさらに、、、
ヘルパーさんはタンをとっちゃあいけないよ、草むしりは介護保険・家事援助外のサービスなので
介護報酬は出ないよ?訪問看護だけ利用するなら医療保険の方が?、
ケアマネは何して事業者は何してとか、個人との契約書のいろはとか、介護サービスの利用料は
ご利用者から1割もらわなきゃならないけどどういう形で回収するべとか、
あくまでも全体に対しての1割を負担してもらわなきゃなんないから、いままでは10円以下は
切り捨ててたけど、勝手に利用者分を割引いちゃいけないから1円単位の半端な数字が出て
大変だよーとか、ケアマネから書類は沢山くるし、サービスを提供したはいいけどケアマネに
どう実績を報告するんだとか、サービス会議なんてとてもじゃないけど開けないとか、

さまざまな問題がそれこそ、てんこもりだった。

あの時期、正規のルートで「公的介護保険制度になり、事業者として何をなすべきか」
説明がなされていれば問題はそんなになかったかもしれない。
でも、私自身で考えてみると、4月以前どこからも介護報酬請求についての具体的な説明は受けなかった。
唯一説明してくれたのは、WAM NETにつながるパソコン
(その当時は専用回線でのみ接続でき、インターネット環境では使用できなかった)である。
そこから出される情報をダウンロードしひたすら読み込み、準備した。
よく乗り越えられたものだと思う。
あと1つ。
私自身は、介護保険制度掲示板にかなりお世話になった。あの時期、どこよりも早いレスポンスが得られる
あの掲示板の存在は、迷える子羊たちにとって大変貴重だったと思う。
ケアマネ側には、ケアマネ研修会を通して、まあまあ情報が伝達されていたと思う。
(それでも、給付管理の実態がわかったのは制度施行直前だとは思うが)
ただし、ぽっと出のいち民間在宅介護サービス事業者にはかなり厳しい状況だった。

もっとすごいのは、「あの時期」で国民健康保険団体連合会(通称国保連)への請求方法の
いろはのいすらわかっていない在宅介護サービス事業者が、多数存在したことだ。

3.気づけば、介護IT革命。

気づけば、頼りにしていた自治体も私たちに毛が生えたぐらいの情報しかもちえず、
国保連も手一杯。となると、必然的に口コミ&ネットコミに頼らざるを得ない。
そして、新規事業者である私のところにもじりじりりりんと電話が鳴るのだ。
平成12年3月のことである。

「みなとさ〜ん、みなとさんのとこ、ソフト導入しました?」
「ソフト?えっと、ケアマネ用ソフトの導入を最優先で検討してはいるけど、介護報酬請求の面では
 不安が残らないですか?だって、5社ぐらい見たけど、けっこうお互いのソフトの内容けなしあいだし、
 使いづらいよ。いる機能もいらない機能もてんこもりだし。
 結局はまだまだ社会福祉法人向けって感じで。当面、国保連の簡易ソフト使うよ。」

「国保連のソフトって何ですか?私、ソフト屋さんからソフト買わないと、伝送請求はできないと思ってました。」
「今段階では、民間で安心して伝送請求できるソフトなんてないよ。
 あえて言えばF社?でもわかんないよね。当面は手書きで行くという手もありますよねー。」

「手書き?どういう様式?何を見れば請求方法は載ってるの?」
・ ・・以下続く・・・

結局、 そこの事業者は居宅介護支援事業は行っておらず、在宅の訪問入浴サービスだけだったので、
国保中央会のソフトで充分対応できると踏み、
国保中央会の「介護給付費請求の手引き」を購入依頼することを勧め
(でも手元にきたのは3月下旬頃だったが)
国保連の簡易ソフトを勧め
(でも手元にきたのは4月中旬だったが)
結局、「国保連に電話がつながらないんでみなとさんにすがるしかなくって・・・」を枕詞として、
インストールって何?というレベルをいちから最終の伝送部分まで電話サポートしてしまったのである。
(こんなんだったら、F社さんでも勧めればよかったと思ったけど後のまつり・・・)

聞けば、この、「どうすればよいかわかんない」レベルの事業者はいっぱいあり、
各地の社協などでも、5月ぐらいでも、
「利用者からの1割負担の手段はまだ決まっていない、居宅介護支援事業はやっていても
「給付管理票」ってナーニ?」

なんてところもけっこういっぱいあったようだ。
また、介護人員はいるけど事務方らしい事務方はおらず、
パソコンバージンですなんてところも聞いた。

まだどっしりと構えていられたのは、もともとソフトに大枚はたいてみっちりサポート受けてます、
自分んとこの法人用に改良してます、自社用のソフトを開発してます、なんてところぐらいだったろうか。
また、周辺自治体の様子をみて右にならえしようとし、スタートが遅れたところもあったようだ。

つまりは、「介護ソフト」って何?どうして必要なの?素朴な疑問も噴出するわけだが、
法的に定められている部分は、以下の省令による。

「介護給付費及び公費付託医療等に関する費用の請求に関する省令」
(厚生省令第20号第2条:平成12年3月7日)
「指定居宅サービス事業者又は指定居宅介護支援事業者は、介護給付費等を請求しようとするときは、
指定居宅サービス又は指定居宅介護支援の事業を行う事業所ごとに居宅サービス又は居宅介護支援の
種類に応じて厚生大臣が定める区分に従い厚生大臣が定める事項を電子情報処理組織を使用して
厚生大臣の定める方式に従って入出力装置から入力して審査支払機関の電子計算機に備えられた
ファイルに記録し、又は電子計算機を使用して厚生大臣の定める方式に従って記録した厚生大臣の
定める規格に適合する磁気テープ、フレキシブルディスク若しくは光ディスクを審査支払機関に提出して
行うものとする。」


ふーっ。つまり、介護レセプトは、あくまで電子データで。伝送かFDかMOでないと、受け付けませんよ
という内容だったのだ。
「平成12年1月26日全国介護保険担当課長会議」などでもそれは説明され、
平成12年3月上旬にも、「給付管理業務ソフトウェアの選定のポイント」などという
厚生省事務連絡が出ている。

つまりは、医療レセプトが手書きで不正受給も多いので、その二の舞は踏むまい、
データで受渡しするのがよかろう、チェックはきっちりとやろう、とした結果の、
気づけば、どたばたの「介護IT革命」なのである。

4. 介護IT革命に乗り過ぎたり、乗り遅れたり。

そして、ソフトベンダーにはバブルが訪れていた。
しかし、直前までのどたばたに、ソフトベンダーも懸命になりながらも、伝送や内容についての対応が
間に合うはずもなく、各ソフト会社の対応、特にソフト内容についての苦情やサポート対応の悪さ、
国保連の対応の悪さなどの風評などが事業者間で行き交った。
でも、それは無理もないことだったのだ。
直前まで内容が定まらない制度に対応できるソフトなどあるわけない。


お上からの情報はほとんど、パソコンを通して配信されるものとなった。
福祉の世界、人から人へのサービス、能率や効率という世界から遠くゆったりと時間を刻んでいた
福祉の世界は、そのかたちをかなり変えたように、見える。

介護IT革命が、始まってしまっていたのだ。

そんな「あの時」のことだから、到底レセプトデータは一致を見ず
(とても簡単に言うと、「保険者(市町村など)」と「居宅介護支援事業者(ケアマネさんのところ)」と
 「サービス提供事業者(介護サービスを提供する業者)」の3者のデータが一致して初めて
 介護報酬は支払われます)、

多数の売掛金に経営状態が圧迫される事業者の声があちこちから聞かれ、
各地の国保連で暫定的な仮払いが行われた。
そして1年以上経った現在でも、掛け声は、「まず始めにエラーを出さない。」
一旦はじかれると調整に苦慮するのは同じだ。
また、「介護報酬情報提供システム」を利用して事業者の詳細を確認しているケアマネが
いったいどのくらいいるのだろうか。だいたい口答で確認しているのしか見たことがない。
なぜなら、詳細情報の入力に強制力がないため、例えば空き情報などの詳細データが
入っている事業者といない事業者があるなど、内容が「使える」レベルに達していない。

あくまで私見だが、「介護報酬情報提供システム」で「使える」部分は
事業者番号の確認と、廃業した業者の確認とか、全体的な動向とか、そんなところだ。

5. そして、施行開始1年以上が過ぎて。

現状は、各事業所がいろんなソフトを使い、データの互換性もない「介護IT革命」。
唯一国保連に出すCSVファイルだけは共通様式。

どうしてこんなに中途半端なんだろう?介護は国の重点施策ではないの???

・・・保険者の名のもとに、全部インターネット上でやりとりできるようにしちゃって、
個人共通番号割り振って、どさっとデータ集めちゃって、
事業者にはデータの閲覧機能と一部入力機能を持たせちゃえばよかったんだと思う。
個々の事業所が同じようなデータを重複して持ってるよりよほど生産的だ。

個々のソフトベンダーにバブルは訪れなかったにしても。

しかし、ソフトベンダーにはバブルが訪れた。
逆に、介護ソフトを導入しなければならないという枷が、新規事業者の介護事業参入の
大きな障壁になったことはいうまでもない。
心配するまでもなく、「介護バブル」の方はすぐはじけてしまったけれど。

「あの時」を現場で経験している人と経験していない人、
「あの時」以前から福祉業界で働いていた人の動向(たくさんの人が去っていった。
たくさんの人が介護を仕事とする選択をやめた)
、1年たっていろいろ感じる部分はある。
ここまで、現場のものに苦痛と肉体的負担を強いたあの時は、まさしく介護IT革命だったのだなあ、と
想起される。
冷静に鑑みると、今、屍ではない事業者は、充分評価されていいと感じている。

そして、今言っておかないと、永久に闇に埋もれてしまうような事。
あの時、別にソフト屋さんたちは悪くなかった。

では、誰が悪かったのだろう?

3年ごとの介護保険の見直しで、すぐ天地がひっくりかえるようなすばらしいシステムに
生まれ変わることはないかもしれない。
でも、もっと効率良いシステムにならないかしらん、と
いろいろなところで、ちっちゃくつぶやきつづける価値はあると思うのだ。
自分の老後に、介護に携わる人材が少ないのは悲しいものね。

これは、今だから語ることのできる他愛のないむかしばなし。
でも、未来をつくるであろう、現在のお話でもあるのです。