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『グノーシス主義略説』
一般に、「グノーシス主義」と呼ばれている思想・信仰は、基本的には、紀元
一世紀より、三世紀乃至四世紀頃まで、ヘレニク世界・地中海世界において流布し
た、独特の世界観と神観・人間観を持つ「教え」です。これを、「ヘレニク・グノ
ーシス主義」とわたしは呼びますが、それは広義な、地理的歴史的一般な「普遍グ
ノーシス主義」と云うものが考えられるからです。 序) 悪の宇宙 グノーシス主義では、此の世を善の世界とは考えずに、矛盾と悲惨の充満する 「悪の宇宙」と考えます。古代のギリシアやローマの哲学、そして原始キリスト教 においては、宇宙は、たとえ、現象的に悪が充満しているように思えても、宇宙そ れ自身としては、また宇宙の創造者自体は、「善」であると考えました。しかし、 グノーシス主義では、世界=宇宙そのものが「悪」であり、またこのような宇宙を 創造した者・神もまた「不完全な悪の神」であると考えます。 1) 人間
此の世はグノーシス主義にとっては、「悪の世界」であるのですから、ここで
疑問として、何故人間は、かような「悪の世界」に生まれてきたのかと云う問いが
生まれます。私は、生まれる世界を間違って来たのではないのか、と云う問いが切実
となります。グノーシス主義では、人間の存在は、この不完全な宇宙と同様に、
不完全な「神」(「デーミウルゴス=造物主」などと呼ばれます)が創造したので
あるとされます。 2) 救済の道
グノーシス主義では、救済はどのように考えられるか。グノーシス主義では、 それは、人間存在に含まれる、「本来的自己=光の霊」の自覚と認識を通じて可能 であるとされます。また、宇宙や人間は、「真の神」にあらざる、「偽の神=不完 全なる神=デーミウルゴス・造物主(キリスト教的グノーシス主義では、『旧約聖書』に出 てくる創造神ヤハウェに比定される)」によって創造されたと云う「奥義・智慧 (グノーシス Gnosis)」の「認識 (グノーシス,gignooskein)」を通じて行われます。 3) 反宇宙的二元論
さて、グノーシス主義では、宇宙は「不完全な偽の神」が創造したもので、
人間もまた不完全な存在
であるとすると、疑問が出てきます。それは、「真の神」や「真の善なる世界」、
また「真の本来的な人間」がどこかに存在するのではないかと云う考えです。 4) 叡智の開示者
グノーシス主義によれば、人間は、「叡智(グノーシス)」を通じて、その本
来性を回復でき、みずからのなかの「霊の光」によって、「故郷なる真の世界」へ
と帰還できるのですが、それは、無知なる人間単独では不可能です。また人間が、
このように世界の真実について「無知」であるのは、偽の神デーミウルゴスなどが、
意図して「真の神」の存在等を隠蔽して、人間を無知な状態においているのである
と、多くのグノーシス主義の派では考えます。 結論) 暗闇のなかの光
キリスト教『新約聖書・ヨハネ福音書』第一章5節に、「光は暗闇のなかで
輝いている。暗闇は光を理解しなかった」と云う言葉があります。『ヨハネ福音書』
はグノーシス主義の影響の大なる福音書ですが、この短い言葉のなかに、グノーシ
ス主義の反宇宙的二元論も、人間の救済も、本来的人間としての「光の霊の破片」
も、すべてが語られていると云っても差し支えありません。我らの心の奥底の本来
なる「光」を信じ、永遠なる「超宇宙的光明」と救いを求めて、叡智を探求して行
く実存の実践の過程に、グノーシス主義の「真実の光」が輝くのでしょう。此の世
と云う「暗闇」のなかに。 |
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