| 人工膝関節を入れてスポーツは出来るのか? |
人工膝関節の動きは正常膝とは異なる
人工膝関節はよく「入れ歯」に例えられます。入れ歯を入れた人の場合、硬いものをかんだりする事が難しくなったりしますが、人工膝関節を入れた人がバスケットボールやバレーボールをやっているという話もあまり聞きません。これはなぜでしょうか?

膝関節を後ろから見たところ
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| 前十字靭帯 |
関節の前後の動きを制御します。下腿が大腿骨に対して前方に動き過ぎないように働きます。 |
| 後十字靭帯 |
関節の前後の動きを制御し、下腿が後ろに動かないように働きます。 |
| 内側側副靭帯 |
関節の左右の動き(外反方向)を制御します。 |
| 外側側副靭帯 |
関節の左右の動き(内反方向)を制御します。 |
通常の人工膝関節には前十字靭帯の持つ機能がありません。これは構造上の問題もありますが、人工膝関節置換術を行わなければいけないほど破壊された膝関節では前十字靭帯がすでに切れていたり、完全に切れていないまでも機能不全に陥っているものが多く、前十字靭帯を残す事に意味がない場合が多いからです。ですからほとんどの人工膝関節は最初から前十字靭帯を切除する設計になっています。前十字靭帯が無くても通常の日常生活で困る事はあまりないのですが、スポーツ活動を行う時にはこれらの4つの靭帯の機能不全があると膝の自然な動きが出来ないので非常にやりづらくなってしまいます。そういうわけで人工膝関節は最初からスポーツをするようには出来ていないのです。もちろん、人工膝関節の寿命という観点から言っても激しく使えばそれだけ早くすり減ったり、緩んだりしますからあまり激しいスポーツはお勧めできず、趣味で行うゴルフ程度の動きが許容されるレベルかと思います。 |
| 前十字靭帯が残せたら⇒UKAの使用 |
膝関節の中でも内側だけがすり減っている場合は多くの場合前十字靭帯の機能が良く残っています。こういう人では通常の人工膝関節のように前十字靭帯を切除せずに残す事が出来ます。それが単顆型(あるいは片側置換)人工膝関節置換術(UKA)と呼ばれる手術です。手術の傷も5、6cmほどで可能ですし、術後の機能回復も早く1~2週間で退院できます。私が初めてこの手術を行ったのは83歳の女性でしたが、術後13日で退院されました。
UKAでは膝の4つの靭帯が全て残っています。内側の関節面以外は全てもとから持っている生体機能が温存されていますから非常に自然な動きが可能になります。片一方の膝にUKAを行い、もう一方の膝に通常の人工膝関節置換術(TKA)を行った患者さんのお話では、手術から時間が経つにつれてUKAの方が体になじんでしっかりした感じがしてくるのだそうです。また、動きも自然ですから理論的にはスポーツ活動も可能です。ただし、あまり使いすぎると早くすり減って人工関節の寿命が短くなってしまいます。現実的には趣味で行うテニス程度が安全な範囲であり、競技スポーツとして激しいトレーニングを行うのはやめておいた方が無難でしょう。 |
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単顆型人工膝関節(UKA)
前十字靭帯を含め4つの靭帯が全て残っています |
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通常の人工膝関節(TKA)
前十字靭帯は切除されています |
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| 単顆型(あるいは片側置換型)人工膝関節(UKA)では膝の靭帯が全て残っており、正常な膝の動きを回復させる事が可能と考えられています。その為、スポーツなどの激しい動きに対しても理論的には対処が出来るはずなのですが、現実には激しく使うとそれだけ早くすり減ってしまう危険が伴います。特に、UKAでは体重を受けられる面積が狭いのであまり長持ちしないのではないかという心配があり、日本では良い適応となるのは75歳以上の高齢者とされていました。しかし、UKAの良い適応とされる内側型の変形性関節症は、骨切り術と呼ばれる手術が使われる病態でもあり、そのような患者さんは一般的に50歳~70歳程度と通常の人工膝関節(TKA)の良い適応となるグループよりも若年である事が多くなります。しかも、骨切り術は術後に一生もつ人は必ずしも多いわけではなく、7,8年で人工膝関節(TKA)への変更となる人はたくさんいます。一方でUKAを50代、60代の比較的若い患者さんに使用したときの長期成績が海外から発表されるようになると、10年経った時点でも9割以上の患者さんが入れ替えにならずに残っている、という事実が判って来たのです。とはいうものの、日本においてはまだそれだけのデーターはそろっていません。ご高齢の患者さんに手術を行う場合には通常の人工膝関節よりも体への負担の少ない手術ですし、術後の耐用年数も問題ありませんが、50代程度の比較的若い人に使用する場合には将来入れ替え手術が必要になる可能性が高い事を考慮しておく必要があります。 |
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リウマチなどの炎症性疾患の場合を除き、通常はまだ50代の人に人工膝関節置換術を考慮する事はあまりありません。しかし、どうしても痛みがコントロールできず、手術を考えざるを得ない場合があります。従来このような場合は骨切り術以外に選択肢がありませんでした。骨切り術は良い手術ですが、人工膝関節を入れざるを得ない状態になった時にやりづらかったり、また術後に体重をかけられるまでに時間がかかるので両膝が悪い人の場合に患者さんの負担が大きい、といった問題がありました。もちろん、術後感染のリスクが低いなどのメリットはありますが、痛みが完全に消えるほどの効果があるわけではありません。
現在使われているUKAでは入れ替えも容易になっていますし、ある程度のスポーツ活動も出来るなど非常に質の高い生活を送る事が出来ます。まだ比較的活動性の高い50代でUKAの手術を受けてやりたいことをやり、いよいよそれも駄目になったら通常の人工関節に変更する、という選択もあってよいと思います。入れ替えるときは通常の人工膝関節ですから前十字靭帯は切除されますが、ある程度の年齢になると活動性も低くなっていますし、また人工膝関節自体もどんどん進歩してきています。前十字靭帯の機能を再現する人工膝関節もやがて登場してくると思います。
いずれにしても人工物を入れる場合には感染やゆるみなどの問題はありますが、これらの欠点を十分に理解し、納得した上であれば50代での人工膝関節手術はUKAを導入する事で一般的となっていく可能性はあると思います。 |
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