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雑感 ; MIS、ナビゲーションと私との関わり

MIS事始め

整形外科医として現在23年目となりました。ちょうど7年目の頃でしょうか、とある病院の整形外科部長を任されました。自分で手術計画を建てて部下と共に手術をする中で、どうにもそれまでの手術の傷が大きいような気がして仕方がなくなりました。その頃からあらゆる手術について小さい切開を使うようになりました。

今では当たり前ですが、骨折した患者さんに髄内釘という金属の棒を入れる手術などの時に傷口を
23cmの大きさにして固定する金属の棒を突っ込んだりしていました。その当時は7~8cm切るのが普通だったので、そんな小さな傷では正確な手術が出来ない、と批判されたこともありましたが、髄内釘の手術はレントゲンを見ながらやるので、傷が小さくても金属棒の位置は確認できるし全く問題はないと信じていました。

そのうちに骨折などの整形外科で扱う外傷の治療に
MIPO法などの小さい傷による手術でかつBiologicalな固定が出来る方法が開発されるようになり、小切開での手術の優秀さを目の当たりにするようになりました。まだMIS人工関節という概念は広まっていませんでしたが、既に自分が執刀する人工関節を入れる傷も小さくなり始めていました。


ナビゲーション、ロボットなどのCASとの出会い
2000年にドイツのフランクフルトとニュールンベルクを訪れる機会があり、この時に、手術支援ロボットや手術用ナビゲーションを見るチャンスがありました。手術用ナビゲーションはまだドイツでも大学病院や一部の大病院で使用されているだけであり、実用化されてはいるものの将来に備えてデーターを蓄積している、という感じでした。実際、この頃のナビゲーションは少し組織の深いところだとエラーが出る事が多い、と聞かされました。

この時にフランクフルト空港でボストンバックを押して運ぶキャリヤを何十台も1列につなげて自動的に格納場所に運んでいくロボットを見ました。普通にそのあたりをロボットが無人状態で働いているわけです。ドイツの人はロボットなどのコンピューター仕掛けの機械に対して相当の信頼感を持っているような印象を受けました。

後に日本では、人間の医師からの手術は受けたいが、ロボットには手術されたくない、との意見も多数耳にしましたからドイツと日本では患者さんの機械に対する感覚が少し違うのかもしれません。


2001年、手術支援ロボットROBODOC使用
2001年には当時の日本で3台目のROBODOCという手術支援ロボットを使用する機会に恵まれました。この頃ロボットに対しての批判として「ちゃんと大きな傷を作って手術しているところを目でしっかりと確認していけば、ロボットなど使わなくても十分に正確な手術は出来る。」というのがありました。これは正論のように聞こえるのですが、非常に変形の強い症例ではたとえ視野が広くてもエラーが生じる可能性が高くなります。


CASによるMISへの挑戦
ちょうどこの頃にMIS人工関節、という概念が広がり始めていましたから今後小さい傷での手術が広まるようになれば手術エラーが出る可能性が高くなる。その時にはそれを補うためのコンピューター支援外科(CAS : Computer Assisted Surgery)が発達するに違いない、と考えてロボットによる手術の傷を小さくする作業を開始したのでした。試行錯誤を重ねて、最小8cmの傷でロボットによる人工股関節手術を行いました。多分この当時までに行われたロボット手術の中では世界でもっとも小さい傷であったに違いない、と思っていますがそれを確かめる事は出来ません。
  8cmの傷で手術をした患者さん 
2週間で階段も上り下りできました

2002年ドイツでのナビゲーション使用施設数増加
2002年にドイツのベルリン大学でmedivisionというシステムを使った手術見学をする機会がありました。この時に現在ではフルオロマッチングCTベースナビゲーションと言われるナビゲーションの方法についても知りました。まだ実用化はされていませんでしたが、いつか日本でナビゲーションを使う時はこれが良いな、と思ったものでした。日本ではナビゲーションは一般的ではなかったのですが、この頃のドイツでは週に1つの割合でナビゲーションを導入する病院が出現しており、大変な勢いで普及しているところでした。このシステムは大変優秀ですがナビゲーションの目といっても良いカメラの部分にオプトトラックというシステムを使っており非常に大きいので日本の普通の手術室には入りづらいかもしれません。その為か日本ではポラリスシステムというオプトトラックより小型のカメラシステムが普及しています。ドイツでも新しく手術室を作るときにナビゲーションのカメラ部分を天井に組み込んで使いやすくする計画があると言っていました。今後、日本でもCASを普及させていくためには手術室の構造から考え直さねばならないだろうと思います。

CAS meets MIS
2003年、日本整形外科学会でおこなわれた講演の中での事です。海外からの発表でしたが、コンピューター支援のナビゲーション(CAS)MISを同時に使用し、小さい傷での手術でありながら、エラー、ばらつきのない手術を行っている、という内容が紹介されたのです。“CAS meets MIS”というフレーズを見た時の衝撃は忘れられません。自分と同じことを考えている人達が日本だけではなく海外にも居て、それを実現している、ということに興奮を覚えたことを昨日のように思い出します。それから色々ありまして、現在勤務している倉敷成人病センターに移ったわけですが、2005年にこの病院に来てそれまで無かった整形外科を作り、最初の人工関節の手術からMISを意識して手術を行いました。それ以来、人工股関節、人工膝関節共に基本的にはMISを行うことを原則としています。


”近い将来”が現実に
20084月より、最新式のFluoro-matchingCT-based navigationが当院で稼動することになりました。これはナビゲーションに必要な位置あわせの作業を、レントゲンをあてるだけで自動的に行ってしまうシステムであり、従来の普通のナビゲーションシステムと異なり手術の傷を開ける前に位置あわせが終わるので出血量も減少し、手術時間も短縮されますし、またCT画像を元に位置合わせをするのでその精度も上がります。2002年にベルリンに行った時はまだ「近い将来」のものであった技術がやっと使えるようになったわけです。


最終的な判断は常に人間がなさねばならない
私はナビゲーションなどのコンピューター支援手術(CAS)に関しては比較的初期の頃から関わってきており、広く使えるような時代になりつつある事には一種の感慨を覚えます。今後、この技術はますます広く使用されるようになると思います。ただ、その中で思うのは、車のナビゲーションでも同じですが、最終的に手術をするのは人間です。決して機械のみを信じてはいけない、という事です。機械自体はほとんど間違える事はありませんが、設定の段階で誤入力を起こす可能性も常に考えておかねばならないと思います。最終判断はいつも人間にゆだねられています。その事を頭に入れつつ、有益なアドバイスを与えてくれるツールとしてCASを使用するなら、機械の方も決して我々を裏切らない結果を出してくれると思います。

                              (文責) 倉敷成人病センター 整形外科部長 三好信也


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