静かな夜の愛し方
瞳を閉じて、そして抱いて1
どんな願いも断られるとはエドワードは思わなかった。犯罪者が相手とはいえ人殺しはスキャンダルだ。事実を揉み消すためなら、命の要求以外は縦にうなずくと確信していた。
「よかろう。それで取引は成立だ」
予想通りロイは承知する。
告白した相手が要求した「一晩付き合う」の意味がわからない男でもないだろう。状況が違っていたら「意味がわかってるのか?」とはぐらかしたはずだ。
吐き気がするのは焦げた匂いのせいか、ばかな自分に対してかエドワードはわからなかった。
よく回るロイの口にエドワードは感心していた。ハートネットを取り逃がした嘘からはじまり、アルフォンスに今夜エドワードと話があるからと、もっともな口調の説明は滑らかだ。
「そういえばホークアイ中尉は?」
大佐の影のようなひとの不在にエドワードが尋ねると、
「彼女は東方司令部に置いてきた。いたら、私はひとりで外に出られなかったさ」
冗談めかした台詞を笑うには、エドワードは知りすぎている。ロイがこの地に、元からハートネットを始末するつもりで来たのだと確信した。
ロイは特殊な靴まで用意して、ハートネットのアジトを独自のルートで探り出し、そして誰にも知られずに、ひとを殺した。
「私が恐ろしいか?」
言葉少ないエドワードにロイが笑いかける。
「恐ろしく感じるのは、大佐がわからないからだと思う。でも・・・」
嫌いにはならないよ、と小さく呟くと、以前のような茶化した台詞は返ってこなかった。
ロイの仕事が終わるまでエドワードは軍施設に残り、ロイとともに帰宅する。敷地内に用意されたロイの部屋についていったものの、時間がたつにつれ会話がなくなり気まずかった。取り繕うだけの余裕が今のエドワードにはない。
(やるのか、おれ?)
自分から誘いかけたものの、エドワードは手順がわからなかった。
「なにか食べるかい?」
「いらない」
緊張でいっぱいいっぱいのエドワードとは反対に、ロイの応対は気さくだ。
(全然、意識されてないんだな)
考えると哀しくなる。ばかな要求をしたと反省しても、撤回できない自分が情けない。
(でも、これを逃したら・・・)
ロイにつけ込む機会は2度と巡ってこないだろう。
「それで、きみはどうしたい?」
突然の疑問符に、エドワードが首を傾げた。ロイは苦笑しながら軍服の襟を崩す。
「私を抱きたいのか? それとも抱かれたいか?」
親切な問いかけは、エドワードには残酷だった。生々しい言葉に反応できないでいると、ロイはエドワードに近づく。
「きみは私が好きだと言ったな。好意が手を繋ぐ程度で満足するのならやめた方がいい。火遊びは怪我をするよ?」
「なにが火遊びだ。これは取引なんだろ? つべこべ言うな」
子供扱いするロイに噛みつき、その勢いで「どうすればいいか知らないんだ」と怒鳴るが語尾は小さくなる。
「なら教えてあげよう」
エドワードの手を取ってむかった先は寝室だった。
「た、大佐・・・」
震える声で相手を呼んだ。
寝室の照明がつく。明かりの下で見るロイは、知らない男に思えた。ひどく優しい表情は、逆に彼の凶暴さを表しているようで体が竦む。
「まだなにもしてないのに、そんな情けない顔をするのではないよ。苛めたくなるじゃないか」
ふざけるな、といつもならすぐに返せる罵声がエドワードは言えなかった。
「覚悟はいいか、鋼の。きみの要望通り、一晩存分に付き合ってあげよう」
そしてロイが唇を重ねてきた。はじめて好きなひとと交わすキスは、エドワードの胸に痛みをもたらした。
続く