静かな夜の愛し方

合い言葉は「じゃあね」



 寝返りをうった拍子に全身を襲う筋肉痛に、エドワードは目を覚ました。
「なんだ、これ・・・」
 呻いた後、昨夜のことを思い出し顔が赤くなる。
 いつ眠ったのか記憶がなかった。何度も意識が遠のきかけたが、その度に快楽のよって引き戻されては鳴かされた。
 朝の光を浴びるとそれは、夢のようで現実味がない。
 口元からは乾いた笑いしかでてこなかった。
 ベッドをともにした青年がいなのがせめてもの救いだ。
 エドワードは服を着るとき、自分の体が小綺麗なのに気づいた。体内の残滓はロイが始末したようだ。そこまでマメな男とは思えずエドワードは意外に思った。
「起きたか、鋼の」
 突然かけられた声に、エドワードは飛び上がりそうなほど驚く。
「簡単だが朝食を用意した。食べていきなさい」
 促されるままロイの後についていったが、気づけば朝のあいさつをしていない。させてくれなかった、という方が正しいだろう。ロイの隙のなさを感じて、朝からエドワードは淋しい気分になった。
 テーブルに用意してあった朝食は、パンにスープに(絶対インスタントだとエドワードは思った)コーヒーと、ロイの言葉が謙遜ではなかったと証明するシンプルさだ。
(いや、用意してくれるだけでも感謝しなくては)
 ロイは普段、朝食を食べてないひとだとエドワードは想像する。
「悪いな、気を遣わせて」
「きみから殊勝な台詞を聞くとはね」
 軽口とともに席に着く。昨日、食事をまともに取ってなかったエドワードは、パンを3枚もおかわりした。
 食事が終わるとエドワードは率先して食器を片付けにとりかかる。食べさせてもらうばかりでは我慢できない性分だった。
「面倒見がいいのは長男気質かな」
 食器を洗うエドワードにむかってロイが言う。
「それより質問があるんだけど、大佐」
 片づけが終わると、まだ時間に余裕があるからとコーヒーを口にし楽しむロイと向き合う。
「もしかして、男性経験ありなの?」
 朝から相応しくない会話だと知りつつも、この場を逃したら聞けないと思い勇気をもってエドワードは口にした。
「あるよ」
 ロイが目を丸くしたのは一瞬で、こたえる頃には苦笑さえ浮かべていた。
 ロイの返事はエドワードの予想していたものだ。はじめてというのが相手に伝わるように、慣れというのも伝わる。気配に敏感なエドワードは、女好きの大佐が妙なぐらい男を抱くのにためらわなかったことに気づいた。
「昔、私が戦場にいたのは知ってるな?」
 ロイはエドワードが聞きもしないことまで話はじめる。
「戦場では女不足でね、抱きもしたし、抱かれもした」
 淡々と語る内容にエドワードはショックを受けた。
「だ、誰と!」
 思わず勇んで問いだたすと、笑い声が返ってくる。
「聞いても知らない奴らだ。そして知ったところで会えないぞ」
「なんで?」
「皆戦場で殉職した」
 昔話をするロイの、何事もなかったような口調にエドワードは戦慄が走った。
(死んだ?)
 まさか、と思いロイを見ると黒い瞳とぶつかった。
「私がどさくさ紛れに殺したと思ってるのか?」
 エドワードが感じた疑問を、ロイは楽しそうに聞いてくる。
「本当のところはどうなんだよ?」
「そんなわけなかろう。いちいち殺して回ってたんじゃ身がもたない」
 否定はあっさりとしたものだった。真実は、本人しかわからないけど。
「もし、昨日おれがあんたと契約を結ばなかったら、おれを殺した?」
「朝から物騒だな」という前置きでロイはこたえる。
「殺さないさ。きみに今死なれるのは惜しい」
 ものを扱うような台詞に、少しだけエドワードは落胆した。
「他には?」
 この場でなければできない質問をロイは促す。エドワードは静かに首を横に振った。
「おれは昨日、コール・ハートネットを取り逃がした」
 一晩ロイを要求した見返りは真実の沈黙。
「そしてこれは質問じゃないから、こたえなくていいよ」
 エドワードはロイに近づくと、「好きだ」と告げた。
 返事はいらない。
「好きだ」
(2度と言わないから)
「好き・・・」
 一方的な想いを胸に詰め込む。
 優しい言葉も茶化した台詞もなかった。黙してエドワードの告白に耳を傾けるのが、彼なりの優しさだろう。
 エドワードは涙が零れる前に、ロイの前から去った。



 1ヶ月後、トロールで身元不明の焼死体が発見された。その記事は小さく、ほとんどのひとの目に止まらずに消えた。



SCENE2 終


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